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重点テーマについて

平成22年度(2010年度)より、研究・実践活動の効率化と成果の集約化を図るため、各年度に取り組むべき重点テーマを定め、その年度に開催されるシンポジウムをはじめ、研究・実践助成の選定及び諸活動に反映しております。

過去の重点テーマ

2025年度重点テーマ

「ネットワーク化する住み方と住まいのかたち」

研究運営委員会 委員
小伊藤 亜希子(大阪公立大学大学院 教授)

人口減少時代に入り、家族の形も縮小するとともに多様化しています。単身や夫婦のみ世帯の数は半数を超え、またひとり親世帯、世帯内単身者、非血縁家族など家族のかたちも多様になり、子育て核家族である「標準家族」はすでに標準ではなくなりました。戦後にモデルチェンジし、プロトタイプとして大量に供給されたnLDK 型住宅ストックは、その使われ方の変容を迫られています。
一方、縮小した家族は、必然的につながりを求めることになります。子育てや高齢者ケアを家族ネットワークで支え合う親子近居はその典型です。またこれからの時代は、シェア居住や住まいを開くことによって、血縁を超えてつながりをつくる住み方も重要性を増していくものと思われます。
一住宅一家族にとどまらず、そうした多様な家族と住み方を受け入れる住宅のかたちやしくみのあり方が問われています。
そこで課題になるのが、どこに住むのかの選択です。コロナ禍を契機とした在宅ワークの普及は、居住地選択の幅を広げました。勤務地との距離よりも住宅やライフスタイルを優先する人が現れ、地方移住も注目を集めるようになっています。Uターン移住による近居や多拠点居住、転職や起業による働き方の変化も含め、移住はライフスタイルの大きな変化を伴います。また関係人口とよばれる地域に強いつながりをもつ人々の存在も注目されます。多様な人口を受け入れ、ネットワーク化する新しい住み方に対応する住宅や場をどう供給するのかは、空き家ストックの活用を含め、高齢化・人口減少の課題を抱える地域としても大きな課題です。働く場を兼ねた住宅、小さな家族や家族を超えた居住を受け入れる住空間は、機能分離を主眼とする nLDK 型では収まりきらず、日本の伝統住宅が持っていた柔軟な空間特性への回帰、再評価も課題になるでしょう。
さらに移住や海外にルーツをもつ多様な人々が、新しい居住地や住宅にどのように馴染み、働き方、住まい、地域の人とのつながりを含め、段階的にライフスタイルをカスタマイズしてゆくプロセスとその支援も重要です。
こうしたネットワーク化する住み方に対応し、家族やコミュニティのダイバーシティと多様なライフスタイルを許容し、だれもが豊かに暮らせる住まいのかたちとしくみづくりに寄与する研究と実践を期待します。

〈研究テーマ設定のためのキーワード〉

  • 家族縮小
  • 家族のダイバーシティ
  • 近居
  • 移住
  • 多拠点居住
  • シェア居住
  • 開かれた住まい
  • 脱nLDK
  • 住宅ストック活用

「つながりをつくる新しい住まいのかたち」研究委員会
(委員五十音順)2023.7月現在

委員長
小伊藤 亜希子(大阪公立大学大学院 教授)
委 員
川田 菜穂子  (大分大学 准教授)
葛西 リサ    (追手門学院大学 准教授)
近藤 民代    (神戸大学 教授)
土井 脩史    (大阪公立大学大学院 講師)
柳沢 究      (京都大学大学院 准教授)

2024年度重点テーマ

「郊外住宅地のネイバーフッドマネジメント」

研究運営委員会 委員
齊藤 広子(横浜市立大学 教授)

重点テーマは、「郊外住宅地のネイバーフッドマネジメント」である。ここでいう、住宅地は、所有形態を問わず、戸建て住宅地、団地、集合住宅、マンション、そしてこれらが混在するものを指している。こうした住宅地では、再生の必要性が高まっている。住宅所有者自身は高齢化し、なかなか自らで再生することが難しい。また、行政も私有財産に手を出すことには課題がある。住宅地・住宅をつくった開発事業者は、「手離れ良く」その場から去っている。そこで、なんとか、地元町内会や自治会での対応もあるが課題が多い。そのなかで、町内会をベースにした NPO、一般社団法人、民間企業などによる再生事例も見られている。今後、補助金に依存した再生は持続可能ではない。再生を市場のメカニズムを使いながら、ソーシャルビジネスや金融等と連携し誰が(主体)どう進めていくのか。そのために必要な対応として法制度、政策なども含めた社会システムのあり方を考えたい。
『ネイバーフッドマネジメント』とは、あらたに設定した概念である。そこで、この言葉への思いを伝えたい。ネイバーフッドとは、近隣のエリア、地域や地区を指す概念で、かつ、ここには人だけでなく、暮らし、空間、その関係性、それを支える、慣習、ルールや文化、制度や仕組み等を含む概念である。従来のエリアマネジメント、コミュニティマネジメント、コミュニティディベロップメント等を包括する概念である。エリアマネジメントでは、地域を限定したマネジメントとなり、クローズドになってしまう。むしろ、エリアを限定せず、核を創り、その核から境界を越え、まわりに影響を与えていくような動きが必要ではないか。コミュニティマネジメントでは、コミュニティが主体となり、主体が限定的になってしまう。主体の多様性や連携がこれからの住宅地の再生に必要ではないか。コミュニティディベロップメントでは、開発がイメージされ、管理や再生が含まれない。そもそも、再生が必要になったのは、日常的な管理が適正に行われていなかった、あるいは、開発時から将来のことを考えた空間の作り方や、マネジメント体制が設定されていなかった可能性がある。そこで、開発、管理、建替え、改善などを総合的に考える必要がある。そうしたネイバーフッドをマネジメントしていこうというのが主旨(テーマ)である。
具体的には、郊外の戸建て住宅地の再生を含んだマネジメントのあり方、団地やマンションのマネジメント、両者を含んだまちのマネジメントなど、その実態と課題を明らかにし、あらたなマネジメント手法の確立と、そのための社会システムのありかたを考察していきたい。ゆえに、挑戦的な実践や、実践事例からのネイバーフッドマネジメントのあらたな手法確立を目指す研究を大いに応援したい。

〈研究テーマ設定のためのキーワード〉

  • 郊外住宅地
  • エリアマネジメント
  • 住宅地再生・団地再生・マンション再生・まちの再生
  • 公民連携(PPP、PFIなども含む)
  • 市場活用・民間力活用
  • ソーシャルビジネス・社会関係資本
  • HOA・管理組合

「郊外住宅地のネイバーフッドマネジメント」研究委員会
(委員五十音順)2023.9月現在

委員長
齊藤 広子(横浜市立大学 教授)
委 員
佐藤 元 (横浜マリン法律事務所 弁護士/横浜市立大学大学院 客員准教授)
柴田 建 (大分大学 准教授)
長谷川 洋(国土交通省 国土技術政策総合研究所 建築研究部長)
藤井 さやか(筑波大学 准教授)
矢吹 剣一(東京大学先端科学技術研究センター 特任助教)

2023年度重点テーマ

「住まい造りの将来像」

研究運営委員会 委員
蟹澤 宏剛(芝浦工業大学 教授)

重点テーマは、「住まい造りの将来像」である。住まい造りの技能者不足は深刻であり担い手の確保・育成は喫緊の課題であるが、新築と伝統技能を主眼とした技能者像、住まい手と造り手の関係などの観念を転換しなければ住まい造りの将来像は描けない。本テーマの趣旨は、住まい造りに関わる様々な視点での研究および、国内外の事例、胎動している新しい活動等々を調査・集積し、夢と希望のある住まい造りとその担い手の将来像を描くことにある。
日本の住まい造りを担ってきた技能者(職人)は減り続けている。特に木造住宅の中核を担う大工の減少は著しく、1980年のピークには90万人以上だったものが2015年の国勢調査では40万人まで減った。このままの勢いで減り続けると2030年代前半に20万人を割り込むことになる。高齢化も著しく、2020年では推定40%が60歳以上である。
担い手不足の要因は、賃金が低いこと、休日が少ないことなどにあるとされる。それは、技能者全般に共通することであるが、例えば大工に関しては、近年、急速に仕事内容が陳腐化してきたことが大きく影響していると考えられる。
かつて、大工は労働の付加価値も高く、棟梁は憧れの存在であったが今では仕上や建具の商品化が進んだことも相まって、大工は最終工程の取り付けを担うだけの存在になってしまった。
他方でDIYやセルフビルドが注目され、専門の情報誌やネット上の動画情報サイト、自由にDIYできることを売りにした賃貸物件なども増え、カリスマと称される「DIYer」も存在している。リノベーションを活用したコミュニティデザイン活動なども胎動している。しかし、それらに取り組む人々と技能者や建設業の側との隔たり、のみならず、業界内部における設計ともの造り、工務店等の組織と技能者の側との隔たりは小さくなく、課題や問題を共有できていないのが現状である。

この重点テーマでは、大工を中心とした住まい造りの担い手、技能者・職人に関する問題を整理すること、各地で胎動している住まい造りに関する新しい動きを拾い集めること、セルフビルドを始め国内外の様々な住まい造りの事例を収集すること、のみならず、従来隔たりの大きかったエンドユーザーと技能者、設計と実際のもの造り等々を繋ぐための実践的活動を皆様と共に試行しながら、住まい造りの楽しさややり甲斐と労働の付加価値向上を両立し、若者が憧れる新しい時代の住まい造りとその担い手の将来像を描きたい。

〈研究テーマ設定のためのキーワード〉

  • 住まい手・住まい方
  • リフォーム・リノベーション
  • DIY・セルフビルド
  • 大工・技能者・職人
  • 技能・スキル
  • 担い手の確保・育成
  • 工務店・専門工事会社

「住まい造りの将来像」研究委員会(委員五十音順)

委員長
蟹澤 宏剛 (芝浦工業大学 教授)
委 員
河野 直  (つみき設計施工社 代表)
権藤 智之 (東京大学大学院 特任准教授)
佐々木 留美子(東北工業大学 講師)
角倉 英明 (広島大学 准教授)
森田 芳朗 (東京工芸大学 教授)