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2022年度重点テーマ

多様化する住まい−環境価値の伝え方

研究運営委員会 委員
秋元 孝之(芝浦工業大学 教授)

今回の重点テーマは「多様化する住まい−環境価値の伝え方」であるが「住まいの環境」はいろいろ考えられる。
「省エネ化・低炭素化」に関しては、パリ協定(COP21)において日本が提出した約束草案があり、CO2排出量を2030年までに2013年比で26%削減するという野心的な水準の目標が掲げられ、その実現のために、民生部門で2030年までに約4割削減することが求められ、住宅を含む建築物の省エネ化・低炭素化が推進されてきている。
分譲賃貸を問わず、戸建て住宅・集合住宅のZEH化は、良質なストックの形成の観点からも重要となる。中古住宅の改修においても地域の特性に合わせた断熱化、高気密化が推進されていくべきであろう。
改正建築物省エネ法による「建築士が建築主に対して行う省エネ技術の選択肢説明」の制度運用が開始される。その際には建築士が省エネ住宅ソムリエとして、光熱費削減等の効果のほか、高断熱化による健康・快適性の向上や、創蓄連携設備の導入による防災・減災性能の向上等といったコベネフィット(相乗便益)について、しっかりとわかりやすく紹介することが求められる。
建築士だけではなく、販売や仲介の不動産業者から環境価値やその便益の情報発信・伝達をすることが重要だが、今後はさらにその普及拡大を目指すために、意思決定者である建築主や入居を検討する人に正しく認知・理解されるよう教宣していく方法を探ることが不可欠である。海外における先進的な取り組みに関する現状調査・分析も必要である。
現在、日本ではBELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)による住宅用途の評価書交付数は9万件を超えているが、住まい手への情報提供のボリュームとしてはまだ十分とは言えないし、不動産仲介の現場でも認知されることがまだ少ない。
住宅の室内環境には「空気質・換気」の問題や「光・音環境」「視環境」などがある。また、住戸間や外部の環境もあれば、まちレベルでの「住環境」もあり、いろいろな面からその生活環境価値を向上させる手法やステップが考えられる。いま、こうした情報をいかに一般の人々に伝えていくかが問われている。
現在、図らずも働き方改革が進みつつある。これを新たな働き方、生活の行動変容を読み解き、住まいやまちづくりのあり方を考える好機であると前向きに捉えたい。
今回の重点テーマでは、多様化する住まいの様々な環境価値を研究することによって議論を深めたい。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • 省エネルギー/ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
  • 健康・快適性と住宅
  • 環境情報の発信・伝達
  • 住生活の行動変容
  • 光熱費
  • 高断熱・高気密
  • 不動産情報
  • まちづくりの環境向上

「住宅の省エネ化推進のための情報発信」研究委員会
(委員五十音順)

委員長
秋元 孝之 (芝浦工業大学 教授)
委 員
池本 洋一((株)リクルート SUUMO編集長)
齋藤 卓三((一財)ベターリビング 認定・評価部長)
高口 洋人(早稲田大学 教授)
田辺 新一(早稲田大学 教授)
鶴崎 敬大((株) 住環境計画研究所 取締役研究所長)
オブザーバー
中村 美紀子((株) 住環境計画研究所 主席研究員)

2021年度重点テーマ

「あこがれの住まいと暮らし」

研究運営委員会 委員
後藤 治(工学院大学 教授)

いつの時代にも、人々があこがれる住まいや暮らしの形やイメージがある。その形やイメージ(以下では「あこがれ」という)は、住宅建築のなかに取り入れられ、その時代を特徴づける住宅建築の形をつくっている。
少し前、高度成長期の「あこがれ」には、「庭付き一戸建て」「nLDK」があった。最近では、「タワマン」「ヒルズ族」「田舎暮らし」といったところだろうか。「あこがれ」が形になって流布したものとしては、「玄関」「座敷」や「床の間」といったものがあげられるだろう。
「あこがれ」がつくりあげた形は、住宅の建築としての質的な向上に役立っているだろうか。住宅建築の質的な向上は、社会において重要な役割を果たす。エネルギー消費によるCO2削減は、その典型的なものだろう。最近の「あこがれ」は、住宅建築の質的向上に貢献しているだろうか。歴史上もすべての「あこがれ」が建築の質的向上に結び付いたとは言えないだろうが、質的向上につながったものがあったはずだ。
今回の重点テーマでは、かつての「あこがれ」と住宅建築との関係や、これからの建築の質的向上に結び付くような「あこがれ」の醸成について、様々な角度からの研究と実践を期待します。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • 和室の過去・現在・未来
  • 建築家の住宅はあこがれになりうるのか
  • 住環境・生活環境の国際比較
  • 健康と住まい,幸福度と住まい
  • 日常景観と都市居住のイメージ
  • スマート化・センシングと生活空間

「あこがれの住まいと暮らし」研究委員会(委員五十音順)

委員長
後藤 治 (工学院大学 教授)
委 員
島原 万丈(株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長)
豊田 啓介(noiz architects パートナー)
藤田 盟児(奈良女子大学 教授)
伏見 唯 (株式会社伏見編集室 代表取締役)
山本 理奈(成城大学 准教授)

2020年度重点テーマ

シェアが描く住まいの未来

研究運営委員会 委員
岡部 明子(東京大学大学院 教授)

ひとり暮らしより楽しそうで割安なら一石二鳥と考え、気楽に住まいシェアする。他方、子どもが巣立って余裕ができて、専用住宅だった家の一室をギャラリーやカフェなどにして、住まいシェアする。住み開きとも呼ばれる動きだ。あるいは、空き部屋を宿泊客に提供したりする。
日本では、プライバシーが確保されていることが当然の時代になって、人間的な居住が満たされた上での、さらに豊かな暮らしを手に入れるためにシェアが魅力的に見えるのだろうか。
住まいに限らず、情報ネットワークがインフラとなって、眠っているモノやサービスを個人間でやりくりするシェアリングエコノミーを活用すれば、人口減少社会でだぶつく空き家などの対策になると期待されている。
しかし、そもそも村落共同体ではシェアは逃れることのできない必然だった。また今日でも、地球規模に格差が拡大するなかで、世界的にみると喫緊の住宅問題は、途上国大都市のスラムにある。スラムでは、どこの家も知人や親戚と住まいシェアしている。また、トイレやキッチン、洗濯場など住宅機能の一部を複数家族で否応なしにシェアすることを強いられている。狭い家は、商品やお惣菜をつくる仕事場でもあり、住まいシェアしている。豊かになるにつれて、シェア社会から脱して、住機能の揃った理想の住宅を求めてきたはずだった。
シェアが進めば経済活動もその分拡大すると楽観しがちだが、シェア経済は所有を基盤とした資本主義経済と根本的に相容れず、むしろインフォーマルセクターと相性がいい。スラムに暮らす人たちは、劣悪な住環境下、当たり前に空間をシェアし、シェア経済で生業を見出している。
先進国で高齢化・人口減少が問題視される一方、途上国都市で人口増加とインフォーマル居住が課題となっている現代、シェアの進展は、私たちをどんな社会に導こうとしているのか。そして、住まいはどうなっていくのだろうか。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • シェアリングエコノミー
  • 所有と利用
  • 用途の複合化
  • 空き家、空き地
  • コミュニティ
  • インフォーマル、フォーマル

「シェアが描く住まいの未来」研究委員会(委員五十音順)

委員長
岡部 明子 (東京大学大学院 教授)
委 員
小川 さやか(立命館大学 准教授)
門脇 耕三 (明治大学 専任講師)
山道 拓人 (ツバメアーキテクツ 代表取締役)
鈴木 亮平 (NPO法人 urban design partners balloon 理事長)
前田 昌弘  (京都大学大学院 講師)

2019年度重点テ−マ

「おとなのための住まい学」―住生活のリテラシ−向上のために―

研究運営委員会 委員
碓田 智子(大阪教育大学 教授)

高校までの学校教育での「住」の学習は、安心・安全に住むための力を身に付け、自立した住まい手になるためのものです。生活者としての住生活のリテラシーを身に付ける学習といえます。しかし、学校教育での「住」の学習については、家庭の住宅事情が反映され取り扱いにくい、子どもが実際の住まいや住生活で改善できることが少ない、体験的な学びがむずしいなどの理由により、学習の困難さや課題が多くの研究で指摘されてきました。大学に進んでも、建築学や住居学などを専攻しない学生にとって、「住」について学ぶ機会は非常に少ないといえます。
このような状況の中、私たちの暮らしの中では、適切な住宅の選択や売買・賃借、相続、住宅の建替え、子育て期の住まい、高齢期の住まいの選択、大規模災害後の住まいの再建など、「住」に関わる知識は、おとなになって人生のステージで岐路に立ったり、問題に直面して初めて必要となるものが少なくありません。そのため、「住」についての知識は、日常生活の中の「経験知」だけでは得られにくい側面を持っています。加えて、「住」については専門的な内容が多く、市民と住宅の供給者側との間の情報や知識量の格差が大きいことも指摘されています。それが、「住」に関して様々な問題が発生しやすい要因にもなっています。さらに、「住」の課題は、超高齢社会、介護、子育て、福祉、環境、コミュニティなど、現代の生活を取りまく諸課題と密接につながっています。住まいや暮らしが変容していく中で、居住文化の次世代への継承も大きな課題です。
このように「住」に関わる知識の特質を踏まえると、複雑な現代生活の中で主体的に住生活を営むためのリテラシーを問い直す必要があると考えます。今回は主としておとなを対象に、住まいと生活の変化の中で、主体的な住生活を営むために市民が身に付けるべきリテラシーとは何か、住生活のリテラシーを向上させるにはどうすればよいか等について、新たな展開につながる研究と実践を期待します。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • 住まい・まちづくり学習
  • 住まい・まちづくりの主体形成
  • 住情報
  • 居住文化
  • ライフステージと住まい
  • 住まいの基礎知識
  • 住まいづくり

「おとなのための住まい学」研究委員会(委員五十音順)

委員長
碓田 智子 (大阪教育大学 教授)
委 員
岩前 篤  (近畿大学 教授)
瀬渡 章子 (奈良女子大学 教授)
檜谷 美恵子(京都府立大学大学院 教授)
弘本 由香里(大阪ガス株式会社エネルギー文化研究所 特任研究員)
宮内 貴久  (お茶の水女子大学 教授)

2018年度重点テーマ

「マンション*」の持続可能性
(*ここで言う「マンション」とは、「分譲マンション」を指します)

研究運営委員会 委員
田村誠邦(株式会社アークブレイン 代表取締役・明治大学理工学部 特任教授)*

昭和30年代から普及が始まった区分所有型集合住宅、いわゆる分譲マンション(以下、「マンション」と呼ぶ)は、現在ではそのストック数が620万戸を超え、全国で約1,530万人もの人々が居住し、わが国の都市居住形態の中心をなす存在となっている。
一方で、昭和56年以前に建設されたいわゆる旧耐震のマンションは106万戸あり、その多くは、何らかの耐震補強が必要と言われ、また、エレベーターのないマンションや、給排水のつまりや設備機器の陳腐化、断熱性の乏しいマンションなど、高経年マンションの再生問題は、都市部における住まいの問題の中でも、もはやきわめて普遍的な問題といえよう。
その一方で、高経年マンションのうち、これまでに建替えを実現できたマンションは、平成27年4月現在で211件、15,000戸程度に過ぎず、また、耐震改修や断熱改修、エレベーター設置などの大規模修繕も、それほど進んでいないのが現状である。また、大都市圏郊外部に多く立地する団地型マンションについては、その規模や合意形成、法制度上の問題により、建替えの実現はさらに困難といわれている。
マンション居住については、こうしたハード面での再生の課題のほか、ソフト面での課題も山積している。たとえば、マンションの高経年化に伴い、その持ち主である区分所有者・居住者の高齢化が同時進行しており、マンション管理組合の運営や、マンション内のコミュニティの継続に支障をきたす事例も増加しつつある。また、分譲当時は中間所得のファミリー層が大半だった居住者も、単身者やひとり親世帯、障がい者、子育て世帯など、居住者の多様化と所得階層の多様化が同時進行している。さらに、地方圏や大都市縁辺部の高経年マンションを中心に、空き家率が増加しつつあり、都市部においても、高経年化の進行に伴い、その流動性は低下していく傾向にある。特に、建替えも大規模改修等の再生も合意形成できないようなマンションでは、その傾向は顕著である。流動性の低下は、資産としてのマンションの価値の低下をもたらし、コミュニティの継承にも悪影響を及ぼし得る。
このように、わが国の都市居住形態としてきわめて普遍的になった「マンション」は、その「持続可能性」において、きわめて脆弱な側面を持っており、今一度ここで、“「マンション」の持続可能性を問う”ことが、必要と考えられる。問題の所在は、マンションのハード面のみならず、区分所有法や建築基準法、都市計画法等の法制度の問題、居住者の多様化やライフスタイルの多様化への対応、マンションのガバナンスや経営の問題、地域コミュニティや住宅政策との関係など多岐にわたっており、区分所有に代わる新たなマンション所有形態の可能性などを含めた多角的な視点からの活発な提案や論を期待したい。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • マンション建替え・大規模改修の課題と実現方策
  • 法制度(区分所有法や建築基準法、都市計画法等)上の課題と解決策
  • 2つの老い(マンションの高経年化と区分所有者・居住者の高齢化)
  • 居住者、所得階層、およびライフスタイルの多様化への対応
  • マンション管理組合のガバナンス(意思決定の困難化)とマンション管理の在り方
  • 情報開示と中古マンション流通の活性化
  • マンションの使用価値、資産価値
  • マンション・団地と、地域コミュニティ、住宅政策の関連
  • 区分所有に代わる新たな所有形態や社会システムの提案

「『マンション』の持続可能性を問う」研究委員会

委員長
田村 誠邦((株)アークブレイン 代表取締役/明治大学理工学部 特任教授)*
委 員
大木 祐悟 (旭化成不動産レジデンス(株) 主任研究員)
齋藤 広子 (横浜市立大学 教授)
園田 眞理子(明治大学 教授)
三浦 展  ((株)カルチャースタディーズ 代表取締役)

*2018年5月現在 田村誠邦((株)アークブレイン 代表取締役/明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授)

2017年度重点テーマ(平成29年度)

「住まい手からみた 住宅の使用価値(Value-in-Use)」

研究運営委員会 委員
野城 智也(東京大学生産技術研究所 教授)

日本人は生涯収入の相当な割合を住宅建設・購入にあててきた。しかし既存住宅市場が未成熟であるため、持ち家の売却可能価格は、建設・購入への支出総額には遠く及ばない。「持ち家取得で住宅双六上がり」は幻想となり、住宅費の支出は資産形成のための費用ではなく、消費財への支出となってしまっている。
住宅が(資産のふりをしながら)消費財に留まっていることは、人口構成変化や経済構造の老朽化により日本の縮みこみを加速させ、長寿社会における住まいへのあり方に暗い影を落としている。 では、日本の既存住宅は住むにたえない、二束三文で扱われる代物なのであろうか?見えざる欠陥住宅が少なからず存在してはいるものの、総じてみるならば、過去半世紀以上にわたる先達たちの努力の結果、耐震性・耐久性は格段に向上し、これから豊かな住生活をおくる器として使用に耐えるストックは数多く蓄積されている。
問題の本質は、住まい手からみた使用価値(Value-in-Use)と、長年の慣行のなかで形成されてきた市場における使用価値評価が大きく乖離していることにある。 本重点テーマは、この不毛な乖離を如何に埋めていくことができるのか、を包括的に考察していくことを目的とする。具体的には以下の四つの論点をたてる。

1. 「住まい手からみた使用価値」を見える化するためには、どのような情報をどのように用意すればよいのか? そのためにはどのような「逆・転写」技術*注1が活用できるのか?
2. 「住まい手からみた使用価値」を、誰がどのように評価すればよいのか? 言い換えれば、どのような住まい手視点の、わかりやすく、かつMRVの原則*注2を満たす物差しを用意すれば、使用価値を、市場価値に翻訳できるのか?
3.どのような社会システムを構築すれば、新たな評価システムが社会実装できるのか?
4.構想された社会システムを「絵に描いた餅」にしないためには、どのようなシナリオを描き、アクションをおこしていけばよいのか?そのためには、どのようなプレーヤーの関与が必要となるのか?そのためには、どのような動機付けを用意すればよいのか?

*注1 「逆・転写」技術とは、センサーやスキャナーなどを活用し、既存住宅という人工物の物理的様態、機能様態を映し出す情報を作り出す技術である。図面という情報が人工物に「転写」されて、住宅が新築されるプロセスの逆プロセスとなる。
*注2 Measurable(計測可能), Reportable(報告可能), Verifiable(検証可能)の略語で、物差しが、市場取引や政策規制・誘導など経済・社会で使用されるための要件となる。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • 住まい手の使用価値
  • 住まい手からの情報
  • 新たなる社会システム(住宅金融システム、住宅関連の法制度、住宅流通システム、等)
  • 中古住宅のマーケット・資産価値
  • 住宅の維持管理の制度化・家カルテ(住宅履歴情報)
  • ライフステージに合わせた住み替え

住まい手からみた住宅の使用価値研究委員会

委員長
野城 智也 (東京大学生産技術研究所 教授)
委 員
大垣 尚司 (立命館大学大学院 教授/立命館大学金融・法・税務センター長)
齊藤 広子 (横浜市立大学 教授)
園田 眞理子(明治大学 教授)
中林 晶人 (優良ストック住宅推進協議会 事務局長)
森下 有  (東京大学生産技術研究所 助教)

2016年度重点テーマ(平成28年度)

「住環境を再考する」

研究運営委員会 委員
田辺新一(早稲田大学 教授)

2013年に省エネ法の基準が改正され、住宅・建築も一次エネルギー消費量、いわゆる燃費性能で評価されるようになった。先進的な住宅ではゼロ・エネルギーやゼロ・エミッションも可能になってきた。日本の住宅分野におけるエネルギー消費量は増加を続け、いまや日本全体のエネルギー消費量の約15%を占めるまでになっている。断熱や気密性に優れている住宅が建設されているにも係わらず、増加の主な原因として挙げられているのが、核家族を主な原因とする世帯数の増加とともに、居住水準の向上を目指す住まい手の要求、それを可能にしてきた設備機器の発展などである。
こうした動向に加え、スマートコミュニティやスマートシティ等の送配電網に関わる新規技術も提案されるようになった。しかしながら、技術が先行している感があり、建築空間の提案や生活の豊かさに関して考察を加えた研究は必ずしも多くない。住宅の環境は古くからそれを使用する人間との関係で考えられて来たが、近代になって冷暖房技術の発展によって安易に技術に頼り過ぎる傾向もみられるようになった。
また、地球環境レベルでは、温暖化による気温変動や異常気象、PM2.5等の大気中の有害物質の増加など、これまでの想定を超える状況も起きてきている。これら対策面では、国内での世帯数は2019年をピークに減少するため空き家がさらに増加し2028年には住宅ストックの約23.7%に達するとの試算もあり、大多数を占める既存住宅が大きな課題となる。高齢化もさらに進み健康で快適な暮らしをどのように持続するのかが課題になってきている。
個々の住まいから地域、そして地球規模に広がりを見せる住環境への対応には、家電などの個々の設備や技術単体から住まいとの融合、更には地域、そして地球の温暖化対策へと連続した、横断的かつ総合的な対策が求められている。将来的には、自然の持っている水や大気の浄化力や循環力の利用、自然の生態系との融合を図り、限られた地球という空間での永続できる環境を創出することが要求される。これから未来へ引き継いでゆく居住環境について、多面的な議論と研究の深化により、新たな展望を描くことを期待して柔軟な提案が出来るように設定したテーマです。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • 住環境の豊かさと幸福感
  • 健康で快適に住むこと
  • 人間の環境行動を誘発する住宅
  • 燃費性能とデザイン
  • ICTと住宅
  • 未来へ引き継いでいく住宅(住環境の持続性)
  • 住環境に配慮した新しい木造住宅

「住環境を再考する」研究委員会

委員長
田辺 新一 (早稲田大学 教授)
委 員
岩船 由美子(東京大学生産技術研究所 特任教授)
甲斐 徹郎 ((株)チームネット 代表取締役)
清家 剛  (東京大学大学院 准教授)
星  旦二 (首都大学東京 名誉教授)
山本 恵久 ((株)日経BP 建設局 プロデューサー)

2015年度重点テーマ(平成27年度)

「受け継がれる住まい」

研究運営委員会 委員
内田青蔵(神奈川大学 教授)

かつて、イエの象徴としての住まいは、家族の場としてのものだけではなく、地域社会に根差した風俗習慣などの生活文化を維持する器であり、安定した社会や身分・生活を維持すべく祖先から受け継ぎ、未来の後継者に受け渡すものでもあった。いわば、住まいは過去からの一族の存在やその繁栄の歴史を示すものでもあり、それ故、人々は住まいに畏敬の念を抱き、その住まいが自らの代で失われることを恐れた。そして、その一族の繁栄や住まいの維持のために時には、養子を求めた。こうした住まいや生活文化を受け継ぐことは、基本的には、職業を受け継ぐことを前提とした身分制社会の中で生まれたシステムであった。しかしながら、わが国は、近代化の中で、とりわけ、明治期以降の性急な欧米化の動き、および、第二次世界大戦後の民主化の動き、という2つの大きな変革を経るなかで、従来の受け継がれてきたものを維持できなくなってきたように思う。
こうした近代化の中で、住まいや住文化の意味やその実態も大きく変化してきた。住まいは、一族のものから当主の存在はもちろんのこと趣味・教養あるいは経済力などを示す個人のものとなり、受け継がれるものとしての意味が希薄になってきたのである。
それでも、現実社会では、親や親族から住まいや敷地などの財産を相続したり、仏壇やお墓を任されることもある。ただ、相続された住まいの多くは、若い世代の生活の場には適さない場合が多いものの、家族との思い出などの心情面から売却も解体もできず、結果的には放置し朽ちるのを待つという処置を採ることもあるという。こうした現実の中で、近年、十分使える空き家の再利用をめざした研究や、また、逆に受け継ぐ意思があっても経済的に維持できないという切実な問題の中で住まいを受け継ぐ方法を探る研究も開始されている。また、文化財としての住まいの継承をどう展開し、社会に位置付けていくのかという問題も重要な課題といえるであろう。
いずれにせよ、住まいや住文化の追求は重要な課題であるが、一方で、これまでつくられ維持されてきた多様な多くの住まいを社会の共有資産として有効活用することも極めて重要な課題といえよう。そのためにも、われわれは受け継がれる住まいについて、すなわち、“もの”としての<家屋、建物>と、“こと”としての<暮らし、作法、習慣、儀礼、美意識>の継承について、その意味や在り方、方法、あるいは、受け継がれるべき住文化とその展開といった様々な問題を真剣に考える時期に来ているのではないかと思う。今回は、こうした受け継がれる住まいを巡る問題を様々な角度から掘り下げ、提起されることを期待して選定されたテーマです。

〈研究テーマ設定のためのキーワード(参考例)〉

  • 1.受け継がれる住まい・受け継がれない住まい
  • 2.受け継がれる住文化・受け継ぎたい住文化
  • 3.住まいを受け継ぐための仕組み

受け継がれる住まい調査研究委員会(所属・肩書は当時のもの)

委員長
内田 青蔵 (神奈川大学 教授)
委 員
小林 秀樹 (千葉大学大学院 教授)
祐成 保志 (東京大学大学院 准教授)
早田 宰  (早稲田大学 教授)
松本 暢子 (大妻女子大学 教授)

2014年度重点テーマ(平成26年度)

「作られたものから作るものへ」−主体形成としての住宅

研究運営委員会 委員
木下勇(千葉大学 教授)

高度消費社会の中で、各地の歴史や文化的な背景のもとで造られてきた住まいは、住宅供給の産業化とともに、現代的なテクノロジーを武器に住宅産業に参入したハウスメーカーやデベロッパー等で巨大化した市場経済の仕組みに呑みこまれようとしている。こうした状況のなかで、住まいはますます商品化の傾向を強め、住まいの「作るもの」*注1という住まい手の主体性や、伝統的住文化、生産の仕組みを支えていた職人の技術や地域文化もが失われるのではないかと危惧される。
技術をはじめ様々な進歩は否定されるものでもなく、また過去に戻れということでもないが、このテーマの背景は、今を生きる我々が、未来を見つめる時に、もういちど住むという根源(それは“「場所」に存在を関係づける、生きる主体的行為”)に立ち返り、主体性を発揮する道を見つめ直すべきではないかとの疑問にある。
ここでは伝統技術や文化の継承だけではなく、人口減少や少子高齢化及びストックの利活用などの社会的課題への対応や、国際化、環境問題、エネルギー問題など、これからの時代において、かかる課題の解決も主体の問題として考慮する必要があるだろう。過去から未来へ持続可能性、住む・作る主体が形成される住宅(住宅地)のあり方を、研究・実践面での多様な角度から提起されることを期待して選定されたテーマです。

研究課題の例はこちらをご覧下さい

*注1「作られたものから作るものへ」は西田幾多郎の『絶対矛盾的自己同一』(1939年初版、岩波書店1989)よりの引用である。

主体性のある住まいづくり実態調査委員会(所属・肩書は当時のもの)

委員長
木下 勇  (千葉大学大学院 教授)
委 員
松村 秀一 (東京大学大学院 教授)
内田 青蔵 (神奈川大学 教授)
村田 真  ((株)日経BP建設局 編集委員)
宮前 眞理子(NPOコレクティブハウジング社 副代表理事)

2013年度重点テーマ(平成25年度)

「一般市街地」のすまいと居住を再評価する

研究運営委員会 委員長
森本信明(近畿大学 名誉教授)

戦後の高度経済成長下での都市化の流れの中で、大都市・地方都市を問わず、郊外部では大きな団地の計画開発が進められるとともに、都心や駅前では大規模な土地利用の転換が図られ高層住宅の建設や再開発が実施されてきました。これら新しく大規模開発されてきた住宅地を「図」であるとすると、「地」にあたる一般市街地では、一般的な法規制の下で小中規模の私的開発が積み重ねられてきました。その結果、面積的には「図」よりはるかに広く、また多くの住民が住むにもかかわらず、建て方や用途の混在化が進み、まちなみ・景観という点からも問題視されてきました。研究面でみても、密集市街地など基盤未整備地区での防災上の危険な地区は除き、大きな注目を集めることもありませんでした。しかしながら、これら一般市街地を持続可能性という視点から見直すと、空間更新の柔軟性、居住世帯の多様性、生活利便施設との近接性など、居住地としての「すみよさ」が再発見され、幾つかの点から見直しがされるようになってきています。これら「地」としての一般市街地におけるすまいと居住は、どのように再評価できるものなのか。新たな視点での研究と活動を期待して選定されたテーマです。

市街地実態調査委員会(所属・肩書は当時のもの)

委員長
高見澤 邦郎 (首都大学東京 名誉教授)
委 員
森本 信明  (近畿大学 教授)
竹内 陸男  (シビックプランニング研究所 所長)

2012年度重点テーマ(平成24年度)

「リアルな地域のあり方を住まいとの関係で描く」

研究運営委員会 委員長
松村秀一(東京大学大学院 教授)

現代の「地域」の多くは、かつて生業が住まいとともにあった時代の「地域」とは異なります。この数十年の間「地域」は、市場経済とは異なる原理で人々の住まいや暮らしを支えるものと期待されながらも、必ずしもその期待に相応しい実態を伴っていなかったのではないでしょうか。しかし、最近になって状況は少しずつ変わり始めているように思われます。ストック型社会への移行、家族形態の変化、少子高齢化の急速な進展といった社会変化の中で、個々の「住まい」を支える社会的あるいは空間的な環境として、「地域」に求められる事柄が、具体的になってきていると感じられます。
こうした認識の上に立って、現代社会の生活者が潜在的に希求している、社会的あるいは空間的な環境としてのリアルな「地域」、そのあり方について「住まい」との関係の中で描き出し、個々の「住まい」ではなし得ない「住生活の向上」に資する研究・活動を提案して頂きたいと願って研究運営委員で決めたものです。
エネルギー・水・資源に関わる環境経営、介護や子育てといった生活支援、空き家の有効活用や、関連する雇用の創出といった生活環境としての地域の持続的な経営、それぞれの風土に応じた効果的な災害対策、住に関わる地域内産業の活性化等々、個々の「住まい」では到底解決できず「地域」で捉えてこそ解決への道が開ける事柄は、多方面に亘ると思われます。本年度の重点テーマ「リアルな地域のあり方を住まいとの関係で描く」は、「住生活の向上」に資すると予測される様々な視点から、住まいと地域の関係を描き出されることを狙いとして選定されたテーマです。