第170回
(話題)  東京エコシティ−新たなる水の都市へ−
(要旨)
東京は、その歴史の中で、ヴェネツィアにも似た「水の都市」と繰り返し言われてきた。事実、江戸は武蔵野台地の東に広がる低湿地に、土木技術を駆使し埋め立てを進めながら、水路が網目状にめぐる独特の都市空間を形成した、自然と共生するユニークなエコシティでもあった。明治から昭和初期にかけても、水辺は都市活動の舞台として生き続けていた。戦後の近代化、工業化ですっかり失われていた東京の「水の都市」も、新たな時代の要請のもとで、近年急速に見直されつつある。しかし、経済構造の変化が急激なため、東京の水辺空間は今、混迷の中にあるように思える。今こそ将来への明確なヴィジョンが求められている。
そのような折、2006年1月27日から3月5日まで、東京都江戸東京博物館において、江戸以来の東京の水辺空間の変遷を歴史的に辿るととともに、将来の豊かな「水の都市」の形成に向けての提案を行うことを目的とした企画展が開催されることになった。
この企画展のオープニングに合わせて、拡大フォーラムとして、東京都江戸東京博物館同館、東京都歴史文化財団、法政大学大学院エコ地域デザイン研究所、東京キャナル・プロジェクトとの共催で実施した。
まず、次の7講演があった。(1)岡本哲志氏(岡本哲志都市建築研究所)「エコシティ江戸東京の形成史」、(2)ロドリック・ウィルソン氏(法政大学エコ地域デザイン研究所)「近代の水辺と舟運」、(3)石川初氏(ランドスケープ・アーキテクト)「地形の東京風景」、(4)田島則行氏(建築家・テレデザイン)「60年代以降の水と都市の変遷」、(5)渡辺真理氏(建築家・法政大学)「建築家たちによる東京湾の未来像」、(6)久野紀光氏(建築家・東京工業大学)「『新たなる水の都市』への提言」である。「水の都市」江戸東京の特徴、地形・立地、エコロジーな都市の姿、産業・経済、文化・遊び等の側面から発表があった。
続く、パネルディスカッションは、講演者と、猪野忍氏(建築家・法政大学)、小林博人氏(建築家・慶応義塾大学)がとして、陣内秀信委員(法政大学)の司会で進められた。これまで存在してきた江戸東京に固有の、自然と共生する多彩な水辺空間のあり方を描きながら、現在を考え、今後を展望する意見交換を行った。