第152回
(話題)  近代皇族邸宅にみる和風と洋風
(要旨)
近代皇族において、「洋風化の手本」は明治天皇であった。洋館を積極的に建設し、洋風の生活様式を一貫して選択したとこれまで指摘されてきた。しかし、それは皇族邸宅のごく一面に過ぎないのでなはいかという発表であった。
天皇の住まいである明治宮殿は、紆余曲折の末に和風を主体として建設されたが、内部は広範囲で椅子座が導入され、奥御殿等で畳の上に絨毯を敷く床仕上げが採用されていた。これは別荘である御用邸・離宮でも踏襲され、和館を主体としながらも、天皇や皇太子が直接使用する部屋で椅子座が採用されていたのである。
一方、皇族の本邸は、明治初期には洋館が積極的に導入されたが、明治中期以降は和館を強調する構成へと変化した。また別荘は、その多くが和館を主体とし、天皇の別荘である御用邸等に比べて、床座の生活様式が根強く遵守された。
明治宮殿等に見る和館内部への椅子座の導入は、明治5〜18年の明治天皇地方巡幸にその萌芽を見いだすことができる。巡幸の際、天皇が休息・宿泊するための行在所が各地で用意され、天皇はその建築様式にかかわらず、椅子・テーブルを持参して椅子座を通した。その一方、「天皇の御座所」という格を示すために、床高・天井高の違いや座敷飾の有無など和風の規範が用いられた。絨毯を敷き詰めるにもかかわらず畳を敷くという御用邸の方法は、この行在所における「格」の表現を踏襲した可能性があると言及された。
近代皇族邸宅の和風と洋風を、意匠、生活様式、そして空間の格を表現する規範という、3つの視点から検討され、近代皇族はこれらをどのように使い分けられ、どんな意味を持っていたのかについての発表であった。
この研究は当財団の2000年度研究助成「明治期のおける行在所の建築様式と使い方に関する研究−皇室にみる洋風から和風への回帰とその背景−」及び、1999年度研究助成「近代における皇室別荘の立地・沿革及び建築・使い方に関する研究」によっている。