第151回
(話題)  モダン都市・東京の読書空間−読書装置の1920〜30年代−
(要旨)
講師が『モダン都市の読書空間』(日本エディタースクール、2001年刊)に著した研究を中心にした発表であった。
同書は大正から昭和期にかけての東京の書店や古本屋、貸本屋、露店、図書館などの読書装置を丹念に調べて、モダン都市東京における読書の地理学を浮かび上がらせている。書店や図書館、露店などはこれまで、出版流通史や図書館史、建築史や都市史といった異なる分野で別個に扱われてきた。これらを読書行為を支える都市基盤として横断的に捉え、都市のなかで読書がどのように可能になっていたのかが検証された。
また、大正末以降の通勤電車の発達にも注目し、通勤という新しい移動空間を基盤にして「通勤読書」という読書行為の登場が指摘された。それが、読書装置としての駅売店を生み、さらに活字メディアの中身においても「それほどの集中力を必要とせずに気軽に読めるものや短い時間でも読み切れる」大衆的なジャンルが登場してきたと述べられた。
この研究は、かつて前田愛さんが書物と読者、またその関係を成り立たせる出版やメディアとしての都市の問題を一歩進めたものである。フォーラムでは、更に佐藤健二が読書研究やメディア史、都市史の文脈の中での位置づけなどについてのコメントがあった。
出版の危機が叫ばれるなか、都市と読書の関係を本格的に論じるフォーラムになった。