第149回
(話題)  江戸の女性と布橋灌頂会−立山博物館の試み−
(要旨)
富山県立山博物館は、立山信仰の拠点として栄えた立山山麓の芦峅寺(あしくらじ)に位置し、立山の文化と自然を紹介する施設として、展示館と遙望館が平成3年11月に、また、野外博物館が平成7年7月にそれぞれ開館した。開館にあたり、立山に対する先人たちの思いを従来の「博物館」を超えた視点での伝承を試みた。そのひとつが「立山曼荼羅」の復原である。現代に活かすための復元が発表された。
平安時代から、立山はその厳しく凄惨な自然環境に、人々はこの世の地獄を見て、立山を精神的な戒めの場としていた。そこには、実際に立山を訪れ、地獄と浄土を疑似体験するという「立山信仰/立山登拝」の豊かな文化が育ち、その世界は「立山曼荼羅」にも描かれている。なかでも「布橋灌頂会」は、此岸の閻魔堂に入って閻魔の裁きを受けた後、目隠しをして、僧侶のたてる音曲や香、足元の布(橋)の感触を頼りに彼岸としての姆堂へ入るというものである。この儀式はかつて「女人禁制」のため霊山に登れなかった女性の救済を目的とした独自のもので、諸国より救済を求めて女性たちが集まった。
復原されたこの儀式を来館者が体験すると、人間の五感覚そのものにまで及ぶ立山登拝の文化の本質を理解するうえで、また現代という時代の課題を考えるうえでも、示唆に富むものが得られているのではないかと述べられた。