第137回
(話題)  永井荷風と東京
(要旨)
明治12年、東京の小石川に生まれた作家・永井荷風は、作品「狐」に描かれたように、風景に対する鋭い感覚を幼いころより持ち合わせていた。また若くして江戸文化に傾倒、落語家に弟子入りし、歌舞伎の作者を目指すなど、奔放な青春時代を過ごしている。
やがて渡ったアメリカ、フランスでは、個人主義的な感覚を身に付けるとともに伝統に根差した芸術の力を理解していった。
帰国後は、日本の表面的な西洋化に反発し、江戸の面影を残す場所や、錦絵をはじめとする江戸芸術に深い興味を覚えるようになる。なかでも東京の街歩きによって完成させた「日和下駄」は、江戸の名残を市中の樹、寺、露地、空地、崖、坂などに託した随筆である。
大正9年からは麻布の洋館・偏奇館に隠棲、読書と庭いじりを愛する生活を送る一方、銀座のカフェーに通い、郊外を散歩するというシングルライフを楽しんでいる。こうした日々は42年間に渡る日記「断腸亭日乗」にも記され、「放水路」「?東綺譚」といった東京を舞台とした作品を生み出した。
荷風は江戸文化の研究者、東京の観察者でもある。