第135回
(話題)  「ふるさと」としての東京深川−ある個人的な感想−
(要旨)
都市は、柳田国男以来、村落を出た者の仮そめの居どころ、土を離れた人間の便宜上の、しかし精神的に不安定な生活の場として捉えられがちだった。また、「ふるさと」は、都会に出てきた者にとっての、「いなか」の郷土と思われがちだった。
現代的な都市生活の魅力以前にも、都市が生活の場としてもつプラスの面もあったと思われるが、その一方で、たしかに江戸は荒野に人工的に築かれた「諸国の掃き溜め」であったし、東京になってからも地方出身者の、定住性の低い居住地だった。
東京の「川向こう」に居住してきた者は、そこ以外に「ふるさと」というものは考えようがない。だからというのではないが、都市を、農村中心の発想から、人間の集落のあり方としてネガティヴにだけみるのではなく、そこなりの郷土色も認めたい。
江戸=東京という都市のなかの地域が、そこに住む人間の生活文化や心性を造形してきた力とその歴史的な変化、都市のふるさと論が展開された。