蔵書探訪・蔵書自慢 5
工学院大学図書館所蔵 ヒッチコック・コレクション
本稿では工学院大学図書館が所蔵する「ヒッチコック・コレクション」、目録には"Fine Collection of American Architectural Books in the 18th & 19th Centuries"と記されているコレクションを紹介します。本コレクションは、1978年に本学八王子図書館新築記念として、米国の建築史家ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック(Henry Russel HITCHCOCK、1903〜87)の蔵書の一部913冊を購入したものです。これは八王子図書館の設計者である故武藤章教授の意向でもありました。
建築史家ヒッチコックについて
米国の著名な建築史家で、1903年にボストンにて生まれ、当地のハーヴァード大学で学び(1924年卒業)、ヴァッサール・カレッジ、ニューヨーク大学を経て、1948〜68年にはスミス・カレッジで教鞭をとりました。フランク・ロイド・ライトについての論文(1928、1942)やヘンリー・ホブソン・リチャードソンについての論文(1936)を発表しています。また、建築史家協会(The Society of Architectural Historians)の創立にも深く関わり、機関誌の創刊も含めて、中心的な役割を果しました。
多数の著作のなかでは、建築家フィリップ・ジョンソン(Philip JOHNSON、1906〜2005)との共著“The International Style: Architecture since 1922”(New York、1922)が『インターナショナル・スタイル』(武沢秀一訳、東京、1978年)として邦訳されています。この著作や『近代建築−ロマン主義と再統合(Modern Architecture: Romanticism and Reintegration)』(New York、1929)にあらわれているとおり、米国においてモダン・ムーヴメントによるインターナショナル・スタイルの定着に努めたといわれています。
しかし、第2次世界大戦後は早くも国際近代運動と袂を分かち、ペリカン美術史叢書の『19世紀・20世紀建築(Architecture: Nineteenth and Twentieth Centuries)』(1954)では、近代運動陣営から過去をなぞるだけの空しい営為としかみなされていなかった19〜20世紀の様式建築にも関心を注ぎました。『イギリス初期ヴィクトリア朝の建築(Early Victorian Architecture in Britain)』(2巻、 ニュー・ヘイヴンおよびロンドン、1954)は悉皆的な建造物目録であり、ヴィクトリアン・ソサイアティの発展にも寄与しました。19〜20世紀建築のみならず、18世紀ドイツ建築についての『ドイツ・ロココ−ツィンマーマン兄弟(German Rococo, the Zimmermann Brothers)』(1968)、『南ドイツのロココ建築(Rococo Architecture in Southern Germany)』(1968)も著しています。
本学ヒッチコック・コレクションについて
当コレクションの発行年代別冊数、および、日本十進分類表7版による分類別冊数は下記のとおりです。年代別では19世紀後半、内容分類別では、現在の学会区分でいう「計画・歴史・意匠」分野についてのものよりも、建築材料及び工学や建築設備など、当時の建設技術に関する書籍の充実ぶりが目立ちます。19世紀後半の米国ではスカイスクレイパーの建設とそれに伴うエレベーターなどの各種技術が飛躍的発展を遂げており、当コレクションの内容にもそれが反映しているものと思われます。
日本建築についての2冊は、MORSE, Edward S. : "Japanese homes and their surroundings"、New York、1895、および、1893年のシカゴ・コロンビア世界博覧会の日本館「鳳凰殿」のパンフレットであるOKAKURA, Kakudzo: "The Ho-O-Den (Phoenix hall)"、Tokyo、1893です。その他、ラスキンの著作"The poetry of Architecture"、"Lectures on Architecture and Painting"(いずれもニューヨークで再版されたもの)、ヴィオレ=ル=デュクの『建築講話』英訳、ジェイムズ・ファーガソンの"History of Architecture in All Countries"全2巻の第2版(1865、1867)と第3版(1899)、それに19世紀米国の公共建築の竣工当時のパンフレット類が目をひきます。
その他、本コレクションには武藤教授によってトニー・ガルニエの『工業都市』初版などの貴重本が加えられました。
内容別分類 | 発行年代別冊数 | ||||
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総記 | 3冊 | 住宅建築 | 97冊 | 1770年代 | 1冊 |
哲学 | 8冊 | 建築設備 | 52冊 | 1780年代 | 0冊 |
歴史 | 4冊 | 建築装飾 | 15冊 | 1790年代 | 3冊 |
地理(欧) | 10冊 | 機械工学 | 14冊 | 1800年代 | 4冊 |
(北米) | 25冊 | 電気工学 | 3冊 | 1810年代 | 3冊 |
社会科学 | 18冊 | 鉱物冶金学 | 5冊 | 1820年代 | 5冊 |
自然科学 | 6冊 | 化学工業 | 11冊 | 1830年代 | 27冊 |
工学技術 | 22冊 | 製造工業 | 5冊 | 1840年代 | 41冊 |
土木工学 | 30冊 | 家事 | 17冊 | 1850年代 | 95冊 |
建築学 | 85冊 | 産業総記 | 29冊 | 1860年代 | 80冊 |
日本建築 | 2冊 | 農業 | 16冊 | 1870年代 | 140冊 |
東洋建築 | 2冊 | 園芸 | 15冊 | 1880年代 | 215冊 |
西洋建築 | 70冊 | 造園(風致工学) | 58冊 | 1890年代 | 208冊 |
建築材料及び構造 | 48冊 | 畜産業 | 8冊 | 1900年代 | 12冊 |
建築設計 | 107冊 | 芸術・美術 | 39冊 | 発行年代不詳 | 67冊 |
各種の建築 | 75冊 | 英米文学 | 2冊 | パンフレット | 12冊 |
中島 智章(なかしま・ともあき)
(「すまいろん」05年春号転載)