蔵書探訪・蔵書自慢 1
住総研図書室−住まいの専門図書室

一般財団法人住総研(住総研)図書室は1984年、現在の場所に社屋が新設された時に開設されました。蔵書数約1万5千冊のこぢんまりとした図書室ですが「すまい」に関する多彩な情報を幅広く収集して、研究者ばかりでなく一般の人にも幅広く公開している住宅専門図書室です。18歳以上で、住宅・建築関連分野に興味のある方であればどなたでも利用することができます。
所蔵資料については、「住」をキーワードに、歴史・計画・意匠・経済・都市計画・設備・構工法・材料・施工などの専門書のほか、住宅と関係の深い社会学・民族学・教育学分野等の図書も幅広く集めています。
すべての書架は開架式となっておりますので、稀覯本なども手にとってご利用頂けます。また、ホームページで所蔵資料の検索を行うことができますので、来室する前に所蔵の有無を確認することができます。(http://www.jusoken.or.jp/
雑誌は、約90タイトル(和70、洋20)を所蔵し特に住宅関係の雑誌が充実しています。発行年が古いものは合本製本の形で所蔵し、これらも自由に閲覧することができます。また、最近では、「谷根千」「千住」「九段界隈桜みち」などの地域雑誌も積極的に収集しています。
「住宅」「都市住宅学会」「住宅土地経済」「都市基盤整備機構(旧公団)調査研究期報」などについては、目次をデータベース化しています。ホームページではまだ検索できませんが、受付で尋ねていただければ、お探しの雑誌記事を検索することができます。
図書室開設時より「図書情報委員会(現情報委員会)」を設け、図書室の性格付けを議論しながら図書資料の収集を行ってきました。委員会は、年3〜4回程度開催し委員も交代制で現在まで、69回を数えます。現在、図書資料の収集については、(1)必ず備えておくべき領域ごとの基本図書、(2)個性ある研究者(委員)が推薦するユニークな図書資料、(3)特定分野についての図書資料群、の3本の軸が設定されています。

「住について考えるための基本図書」
図書室にある程度資料が収集された段階で、基本的文献の漏れをチェックするための作業としてスタートし、さまざまな議論が交わされて、選定されたものが「基本図書」です。「基本」の意味は、単なる入門書のレベルのものばかりでなく、初学者の手引きとしての「必読文献」「先生が学生に渡す文献リスト」に載るようなもの、稀覯本を含め各分野の研究者(委員)から推薦された基礎となる図書資料と位置づけています。さらに、研究が専門分化していることを補う役割も他分野の研究者から期待されます。
基本図書リスト自体に意味のあることから、機関誌「すまいろん」の「図書室だより」の項で、「基本図書シリーズ」として21回にわたり掲載してきました。そこで筆者より紹介された図書は一部を除きほぼ整備されています。

「特定分野」
「江戸東京フォーラム」や「住教育フォーラム」など住総研の活動に連動したものを付加して充実を図ることとしております。「江戸東京学」というコーナーを設けております。

「学位論文」
住総研の助成研究を集め毎年発行する研究年報(29号現在、論文総数927編)を中心に、図書室がオープンした当初より、住宅をテーマとした学位論文を収集しています。現在、約300冊を超え、第一線で活躍されている研究者の論文も見つけることもできます。

「調査研究報告書類」
住宅に関連する団体のものが中心ですが、非売品のため入手しにくい研究機関、シンクタンク、非営利団体などの調査研究報告も収集しています。(財)日本住宅総合センター(調査研究リポート土地・問題研究論文集)、(財)第一住宅建設協会(調査研究報告書)、(財)住宅産業情報サービス(住宅産業シリーズ)、都市基盤整備機構(旧公団)(調査研究期報)、(財)長寿社会センター(調査研究報告書)、(財)ハウジングアンドコミュニティ財団(調査研究報告書)、住文化研究協議会(住文化調査研究報告書)などがあります。

「雑誌復刻版・資料」
蔵書の規模からすると、かなり充実したコレクションとなっており、本年度でほぼ当初予定の刊行図書を集めました。収集資料は以下の通りです。『住宅』『民族建築』『民家』『都市公論』『新都市』『区画整理』『住宅営団』『同潤会基礎資料・同潤会基礎資料II』『東京都市計画資料集成』『東京市社会局調査報告書』『東京市・府社会局調査報告書』『東京市史稿 市街編』『都市計画要鑑』『江戸町触集成』『地籍台帳・地籍地図(東京)』

「阪神淡路大震災関連資料」
阪神・淡路大震災関連の市販されていない大学研究室の報告書・調査書収集の要望があり、図書室にコーナーを設けております。被災地の住宅・マンションに関する資料をはじめ、「復興記録」「居住権」など震災にかかわるさまざまな資料を収集しています。市販品はもちろん、大学・研究機関、行政、支援団体、学術団体、建設会社などからの資料を中心に集めております。まだ百数十冊程度で、網羅的な収集とはいえませんが、今後も収集を続けていく予定です。

「吉川記念文庫」
住宅生産関係に強い熱意を持っていた、吉川清一氏(元当財団理事長)の長年の功績を讃えて設置されたもので、住宅の生産システムに関する文献・資料を中心としています。生産・施工の分野は、蓄積図書に欠けていた分野で、情報委員会の指導を仰ぎながら、当初は戦後の工業化工法を中心に、将来は歴史的、国際的に関連する資料収集する予定となっています。

「鈴木成文先生寄贈資料」
旧建設省「研究所年報」と旧住宅公団の調査報告書および各種研究報告の発足当時からの資料を中心に住宅、まちづくりの地方自治体の調査報告書があります。戦後の住宅づくりの黎明期をうかがう上での貴重な資料となっています。

「巽先生寄贈資料」
1994年、京都大学旧巽研究室所蔵資料約2000点が寄贈され、目録の整備に時間がかかりましたが、整理も終わりコーナーとして閲覧可能になっています。研究の方法論から、住宅・都市・農村にわたる計画・政策論や問題、建築生産・産業など幅広い分野の資料・統計・図表などが中心となっています。研究室の多彩な活動ぶりがうかがえると共に、現在では入手困難な資料もあります。研究室で作成した資料目録を踏襲する形で配架されています。

また、当財団は「住関係分野における研究成果の普及に寄与するため、優れた研究成果でありながら、公刊の機会に恵まれない研究論文の出版に要する経費の一部を助成する」ため、毎年5月に公募し、研究運営委員会で数件選考し、助成しています。それらを展示するコーナーも設けております。
住総研図書室では、皆様のお役に立てるよう、魅力的な資料の収集、サービスの向上につとめています。図書室は利用者によって育てられます。ご利用をお待ちしています。

小黒 利昭(こぐろ・としあき)
(「すまいろん」2004年春号転載)