猟書−文献探索のたのしみ 2
住まいを巡る復刻版資料について
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私は仕事柄、復刻本にお世話になることがしばしばである。なぜなら、復刻本は古書市場においては滅多に出てこない既刊書籍・報告書の類が手軽に眺められるからである。そうした貴重な過去の資料の原本なら、国会図書館・建築学会図書館・東大総合図書館があるじゃないか、という気もするが、あるテーマ性をもって「復刻」された図書資料には、オリジナル以上の価値が存在する。それでは、どんなものが「復刻本」に当てはまるのだろうか。筆者自身は図書館学や類型学を学んでいないので、以下素人判断で、復刻版資料の種別を試みることにする。もちろん、ここに挙げた文献が全てではない。

1 古典
いわゆる「古典」と呼ばれる作品は時を経て何度も、いろんな形で発行され続けるものである。建築分野においては、ヴィトルヴィウスやパラディオ、アルベルティなどが挙げられよう。実際の出版形態としては、次の二種が考えられる。

1-1 「単独の本の復刻」:原則としてひとまとまり(1冊)のものの復刻。ハウジングにおける古典としては、エンゲルス『住宅問題』、農商務省商工局『職工事情』、松原岩五郎『最暗黒の東京』、横山源之介『日本之下層社会』といった古典が、岩波文庫から出たが、一刷りのみの発売で買いそびれてしまうこともあるので、要注意である。私がよくお世話になるのは、1『同潤会十八年史』である。古本屋で原本は、数10万円もするが、復刻本を新刊として買えば1万円そこそこである。また、極めてマニアックではあるが、2『閉鎖機関とその特殊精算』はGHQによって閉鎖された戦時特殊団体の精算過程の記録で、その中で住宅営団のことが記されている。住宅営団を調べるには必須であるが、必ずしも全ての頁の情報を必要としない場合に、住総研図書室などにあれば大変ありがたい。

1-2 「テーマ性を持つ複数単行本」:複数の単行本を、あるテーマ性を持ったまとまりとして復刻したもの。ハウジングの分野では、前出の『職工事情』や日本初の本格的住宅地調査である高野岩三郎『月島調査』などを含む3『生活古典叢書』があるが、この復刻本すらも「古典」となっている。なお、比較的近年の4『地方自治古典叢書』では、関一『住宅問題と都市計画』『都市政策の理論と実際』、池田宏『都市経営論』などが収録されている。

2 雑誌・機関誌
都市政策・住宅政策・建築言論などを経年的に調べようと思うと、必須のジャンルであるが、オリジナルの雑誌を創刊号からすべて所蔵している図書館は、ほとんどないといってよい(NACSIS Webcatを見よ)。むしろ5『民俗建築復刻版』、6『復刻 民家』、7『復刻版 都市公論』、8『区画整理 復刻版』、9『復刻版 文化生活』、10『復刻版 新都市』、11『都市計画要覧 復刻版』、12『住宅 復刻版』のような形での復刻本の方が、全巻揃っていたりする。つまり、こうした雑誌・機関誌の復刻においては編者が精力的に全国の然るべき図書館にて、その在庫の有無を確認しているという意味で、オリジナルに優る資料であるし、たいてい編者等による「解説」が付いているので、その資料を大所から俯瞰することも容易となる。このジャンルの中でも出色なのは、13『日本近代建築・土木・都市・住宅雑誌目次総覧』である。これは『建築世界』『住宅』(住宅改良会)『建築と社会』といった、一度はめくってみたい古雑誌の目次がほぼそのままの形で復刻されたものである。それのみではなく、わかっている範囲の建築・土木系雑誌の一覧や、所蔵図書館一覧なども載っていて、さすがに建築ライブラリアン第一人者の菊岡倶也氏ならではの編集であるといえよう。最近では、CD-ROMによる復刻も少しずつ検討されているようである。例えば、『住宅』(日本住宅協会)。筆者は古本屋で三十数万円はたいて同誌のバックナンバーを揃えたので、若干悔しいこともないではないが、いろんな人からコピーや閲覧を頼まれるよりは、こうした復刻CDが世に大量に出回った方がいいかとも思われる。そうした意味で個人的には、都市住宅の研究・実践分野に大きな足跡を残した『都市住宅』を是非復刻して欲しいと願っている。廃刊になったのがわずか15年程前なのであるが、今の学生はその誌名すら知らない。

3 特定のテーマ資料
公共ハウジングをめぐっては、社会福祉・社会保障・都市文化的な視点から関連資料が編まれることが多い。14『日本社会保障前史資料』、15『戦前日本社会事業調査資料集成』は社会福祉史の観点から編まれたものだが、戦前期には「経済的保護事業」というカテゴリーに位置づけられていた住宅政策の資料を多く含む。また、16『近代庶民生活誌』は戦前の庶民生活を彷彿とさせる資料を公文書から文学に至るまで収集したものであり、特に第6巻『職・住』は、生活改善運動から同潤会に至るまでの様々な資料が載っている。17『近代下層民衆生活誌』は、都市社会学の第一人者磯村英一の師匠であった、草間八十雄の著作集である。草間の一途な都市下層民に寄せる情熱から、ここでは著作集というより、テーマ資料に類別させていただく。また18『資料 終戦直後の東京都民の衣・食・住の実態を探る資料』は復刻版資料とはいえないかもしれないが、住総研江戸東京フォーラムのメンバーである天野隆子氏によって、敗戦直後の東京庶民の住まいに関わる週刊誌記事などが精力的に集められている。住総研図書室でしか閲覧できない貴重本といえよう。

4 機関資料
ある特定の機関に関する資料を集めたもの。その中にすでに発行された単行本を含むこともある。19『東京市社会局年報』、20『東京市社会局季報・時報』、21『日本近代都市社会調査資料集成1 東京市社会局調査報告書』は東京市社会局により刊行された社会調査の全集である。東京における公的ハウジングを調べるならこれに当たらないといけない。22 『近現代都市生活調査 同潤会基礎資料』、23『戦時・戦後復興期住宅政策資料 住宅営団』は普段私がよくお世話になる書籍である。同潤会・営団関連資料は東京都公文書館のいわゆる「内田祥三文庫」で公開しているが、何度も行くと司書の人から煙たがられる。故に、こうした資料を一般の図書館で見ることができるのは大変幸いなことである。ただ、23は、精力的に設計図書の収録を行っているものの、22では、設計図書の復刻はまだ行われていない。編者である内田青蔵氏によると、図面集を出したいのは山々だが、建築関係の人にしか売れない恐れがあるため、出版社は二の足を踏んでいる状況であるらしい。また、24『日本の民家調査報告書集成』は、全国の教育委員会から出た民家緊急調査(昭和41年〜)の記録を復刻したものであり、機関資料としては異色であるが、民家研究にとって極めて重要な復刻作業である。
このほかにも、著名な研究者の著作集、建築家の図面集、地図の復刻、さらには「図書館目録・総覧」というものも、復刻のジャンルに入れることができると思ったが、誌面の都合で割愛させていただく。


復刻本はもちろん全部読む必要はない。10巻前後から、場合によれば数十巻も発刊されるものすべてに目を通していたのでは、当然論文や報告書の締め切りに間に合わない。したがって、どこにお目当ての記事・情報が載っているかを検索しやすいのが、復刻本構成の大きなポイントとなる。そのためには、各別冊にその復刻シリーズの全体像がわかるような記事を奥付の前あたりに掲載するのが一番望ましいであろう。ただし、編集作業を行いつつ、第1回配本、第2回配本、という形で復刻の全貌がつかめないままに出版されたりすると、そうはいかなくなる。そういうときのために、別冊として各巻の索引や、解説をまとめたものを発行することもよくとられている手段である。こう考えてくると、復刻の編集作業もなかなか大変なものである。
復刻本は、基本的にごく少数しか売れない、主として図書館向けである。従ってその値段も馬鹿にならない。出版社にとっては、値段の高い本の在庫を抱えることは極力避けたいので、売るのに必死である。逆に、それを日常的に必要とする個人研究者の場合、少数部数しか刊行されないことから、ようやく小銭を貯めて買おうとした場合に、売り切れとなっている可能性も高い。住総研図書室のような、比較的誰でもが気軽に利用できる場所に、こうした高価な復刻本をたくさん置いて頂くのは大変ありがたい。

大月 敏雄(おおつき・としお)
(『すまいろん』02年冬号転載)

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編著者名 タイトル 出版者 出版年
1 宮澤小五郎 同潤会十八年史 青史社 1993
2 閉鎖機関整理委員会 閉鎖機関とその特殊精算(全3冊) クレス出版 2000
3 安藤良雄 生活古典叢書(全8冊) 光生館 1970〜71
4 神戸都市問題研究所 地方自治古典叢書(全6冊) 学陽書房 1988〜92
*5 日本民俗建築学会 民俗建築復刻版(全12冊) 柏書房 1968〜99
*6 民家研究会(代表竹内芳太郎) 復刻 民家(全2冊) 柏書房 1986
*7 都市研究会 復刻版 都市公論(全66冊) 不二出版 1988〜92
*8 区画整理刊行会 区画整理 復刻版(全17冊) 柏書房 1990〜91
9 文化生活研究会 復刻版 文化生活(全11冊) 不二出版 1995
*10 都市計画協会 復刻版 新都市(原書名「復興情報」)(全10冊) 不二出版 1996
*11 内務省大臣官房都市計画課 都市計画要覧 復刻版(全7冊) 柏書房 1988
*12 内田青蔵 雑誌「住宅」〔復刻版〕(第1期全10冊、第2期全10冊) 柏書房 2001〜(続刊予定)
*13 菊岡倶也、藤井肇男 日本近代建築・土木・都市・住宅雑誌目次総覧(全12冊) 柏書房 1990〜91
14 社会保障研究所 日本社会保障前史資料(全7冊) 至誠堂 1981〜84
*15 社会福祉調査研究会 戦前日本社会事業調査資料集成(全10冊) 勁草書房 1986〜95
*16 南博、江原恵、柏木博、藤森照信、布野修司、大竹誠、内田青蔵、松山厳 近代庶民生活誌(全20冊) 三一書房 1984〜95
*17 草間八十雄、磯村英一 近代下層民衆生活誌(全3冊) 明石書店 1987
*18 天野隆子 資料 終戦直後の東京都民の衣・食・住の実態をさぐる資料(全12冊) 一般財団法人住総研 1995
19 東京市社会局年報(全9冊) 柏書房 1992
20 東京市社会局季報・時報(全10冊) 柏書房 1993
*21 近現代資料刊行会 日本近代都市社会調査資料集成1 東京市社会局調査報告書(全65冊) SBB出版会 1995
*22 内田青蔵、藤谷陽悦、本田豊、吉野英岐 近現代都市生活調査 同潤会基礎資料(第1期全9冊)(第2期全10冊) 柏書房 1996〜98
*23 西山夘三記念すまい・まちづくり文庫 住宅営団研究会 戦時・戦後復興期住宅政策資料 住宅営団(全19冊) 日本経済評論社 2000〜01
24 各府県教育委員会 日本の民家調査報告書集成(全16冊) 東洋書林 1997〜99