住について考えるための基本図書 6
住宅政策の本

紹介図書 リスト (「*」が付いているものは図書室所蔵)

編著者名 書名 発行所 発行年
*住田昌二 他 社会のなかの住宅(住環境の計画4) 彰国社 1988
*住宅問題研究会 住宅問題事典 東洋経済新報社 1993
*巽和夫 編 現代社会とハウジング 彰国社 1993
*巽和夫 編 現代ハウジング用語事典 彰国社 1993
*早川和男 編集代表 講座現代居住(全5巻) 1.歴史と思想 2.家族と居住 3.居住空間の再生 4.居住と法・政治・経済 5.世界の屠住運動 東京大学出版会 1996
*大本圭野 証言日本の住宅政策 日本評論社 1991
*建設省住宅局住宅政策課 新時代の住宅政策 −第七期住宅建設五箇年計画のポイント ぎょうせい 1996
*建設省住宅局住宅政策課 図説日本の住宅事情 第2次改訂版 ぎょうせい 1996
*日本住宅公団 日本住宅公団史 日本住宅公団 1981
*住宅・都市整備公団 豊かな都市とすまいを求めて −住宅・都市整備公団10年の歩み 住宅・都市整備工団 1991
*西山夘三 これからのすまい −住様式のはなし 相模書房 1947
*濱口ミホ 日本住宅の封建性 相模書房 1949
*ディビッド・ドニソン、クレア・アンガーソン(大和田健太郎 訳) 明日の住宅政策 ドメス出版 1984
*社会保障研究所 編 住宅政策と社会保障 東京大学出版会 1990
*王置伸悟 編 地域と住宅 勁草書房 1994
*東京都住宅局 東京都住宅白書(平成4、6〜8年度) 東京都 1992、1994〜1996
*八田達夫、岩田規久男 住宅の経済学 日本経済新聞社 1997
*伊豆宏 日本の住宅需要 ぎょうせい 1979
*平山洋介 コミュニティ・ベースト・ハウジング −現代アメリカの近隣再生 ドメス出版 1993

戦後の住宅政策を象徴する存在であった住宅・都市整備公団の役割の見直しが本格化している。わが国の住宅政策が転換期にあることは繰り返し指摘されてきたが、省庁の再編、規制緩和、金融制度改革などと関連しつつ、現実に住宅政策の枠組みの変化が始まったということであろう。こうした時期に住宅政策の基本図書を選ぶのは容易ではないが、あまり肩に力を入れず、一つの試みとして、多様な方向性を持つ将来の住宅政策について考えるための本を取り上げてみたい。

●住宅政策のパースペクティブ
住田昌二他『社会のなかの住宅』、住宅問題研究会『住宅問題事典』は、わが国の住宅政策がどのような広がりをもって成立しているか、あるいは今後どのような展開が考えられるかについて見通しを与えてくれる。前者は図版を多用し、簡潔にわかりやすくまとめられた本であり、後者は住宅問題・住宅政策に関する35の論点が体系的に論じられている。また、従来の住宅問題・住宅政策という用語にかえて、「ハウジング」を掲げて新しい住宅政策の構築を目指そうとする巽和夫編『現代社会とハウジング』は、編者の退官記念論文集であり、編者自身の論文をはじめとして多くの示唆に富む論文を含んでいる。同じ編者による『現代ハウジング用語事典』は「ハウジング」に関する主要なキーワードを簡潔に解説したものである。早川和男(編集代表)『講座 現代居住』(全5巻)は、やや生硬な論文を含むものの、住宅問題を「居住」という行為から捉えなおすことによって、より広い文脈で住宅政策に対する視点を得ることを可能にしている。

●戦後住宅政策の展開
戦後の住宅政策は、公営住宅、公団住宅、公庫融資によって進められ、1960年代後半以降は住宅建設五箇年計画によって体制が統合化された。大本圭野『証言 日本の住宅政策』は、この戦後体制の成立と展開を、関係者へのインタビューによって明らかにした貴重な記録である。住宅建設五箇年計画が実際にどのように策定されているのかは、建設省住宅局住宅政策課『新時代の住宅政策 −第七期住宅建設五箇年計画のポイント』に詳しい。また、五箇年計画策定の背後には住宅統計調査等に基づく現状認識があるが、これをコンパクトにまとめた建設省住宅局住宅政策課『図説 日本の住宅事情(第2次改訂版)』は、住宅問題の現状を知る上で便利な資料集である。
公団住宅がハードウェアの供給を通じて戦後のわが国の住生活、住様式に大きな影響を与えたことは誰も否定しないだろう。その具体的な歩みは『日本住宅公団史』『豊かな都市とすまいを求めて −住宅・都市整備公団10年の歩み』によって辿ることができる。公団住宅の平面計画を生み出す思想を提示したとされる西山夘三『これからのすまい 住様式のはなし』、濱口ミホ『日本住宅の封建性』については、「住居計画の本」(1996年夏号)、「住生活の本」(1996年秋号)でも取り上げられているので参照していただきたい。

●居住層・地域の視点
これからの住宅政策はどこに向かうのだろうか。一つには年齢、性、家族形態、国籍、所得などの面で居住層がより多様になっていくことを認識し、これに対応しなければならないという点である。ディビッド・ドニソン他『明日の住宅政策』はイギリスの住宅政策について15年前に書かれた本であるが、こうした認識から出発しており、示唆的である。ただ、わが国では女性、単身世帯、外国人等の問題がまだ明確ではなく、新たな居住層への政策関心の多くは高齢者世帯に向けられている。実際に「住宅政策のパースペクティブ」で取り上げた本のすべてで高齢者の問題は扱われており、また社会保障研究所編『住宅政策と社会保障』では高齢者福祉と住宅との関連が多面的に検討されている。
こうした居住層の多様化への対応の他に、住宅政策の方向としては、住宅単体から住環境重視へ、直接供給から市場の誘導へといったものがあるが、これらはいずれも自治体の対応如何が住宅ストックの良し悪しにつながる性格を有している。玉置伸編『地域と住宅』は重要性が増す自治体住宅政策の動向と課題を論じており、またこれまで4冊刊行された『東京都住宅白書』は、それぞれ異なるテーマで現状と課題を整理している。

●住宅供給の手段と主体
これからの住宅供給主体は民間の比重がより増していくことになろう。このことは住宅建設がマクロ経済動向の影響をより受けやすくなること、したがって住宅政策は市場への介入という要素を強めることを意味している。近年、住宅分野において経済学者の活躍が目立つようになってきたが、その先導者である八田達夫・岩田規久男による『住宅の経済学』は、これからの刊行ではあるものの、基本図書にあげておいてよいだろう。また、住宅市場の実態分析も同様に重要性を増していくが、その先駆的な仕事として伊豆宏『日本の住宅需要』がある。
しかし、比重を増す市場とそこに介入する政府だけで社会に必要な住宅供給が可能かというと、決してそうではなかろう。非市場、非政府の供給主体は、アメリカでは既に無視し得ない存在になっている。平山洋介『コミュニティ・ベースト・ハウジング −現代アメリカの近隣再生』は、この新しい問題に取り組み、その実態と意味の把握をめざした力作である、この仕事が今後わが国の文脈にどのように引き継がれるのかは興味深い点である。
なお、海外の住宅政策については十分に言及しえなかったが、「住宅政策のパースペクティブ」で取り上げた本の中で扱われているので参照していただきたい。

大江 守之(おおえ・もりゆき)
(『すまいろん』97年秋号転載)