住について考えるための基本図書 5
住環境の本 −体験される街の質

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編著者名 書名 発行所 発行年
*タルコット・パーソンズ(鈴木広 訳) 都市化の社会学 誠信書房 1965
*C・A・ペリー(倉田和四生 訳) 近隣住区論 鹿島出版会 1975
*K・リンチ(丹下健三、富田玲子 訳) 都市のイメージ 岩波書店 1968
*J・ジェイコブス(黒川紀章 訳) アメリカ大都市の死と生 鹿島出版会 1969
W・イッテルソン他(望月衛他 訳) 環境心理の基礎 彰国社 1977
*W・イッテルソン他(望月衛他 訳) 環境心理の応用 彰国社 1977
*小林秀樹 集住のなわばり学 彰国社 1992
*G・カレン(北原理雄 訳) 都市の景観 鹿島出版会 1975
*樋口忠彦 景観の構造 技報堂 1975
*中村良夫 風景学入門 中央公論社 1982
*イーフー・トゥアン(小野有五、阿部一 訳) トポフィリア せりか書房 1992
*E・レルフ(高野岳彦、阿部隆、石山美也子 訳) 場所の現象学 筑摩書房 1991
*C・ノルベルグ=シュルツ(加藤邦男、田崎祐生 訳) ゲニウス・ロキ 住まいの図書館出版局 1994
*槙文彦 他 見えがくれする都市 鹿島出版会 1980
*J・ゲール(北原理雄 訳) 屋外空間の生活とデザイン 鹿島出版会 1990
*W・H・ホワイト(柿本照夫 訳) 都市という劇場 日本経済新聞社 1994
*進士五十八 アメニティ・デザイン 学芸出版社 1992
*鳥越けい子 サウンドスケープ(SD選書229) 鹿島出版会 1997
*木下勇 遊びと街のエコロジー(エコロジー建築・都市003) 丸善 1996
*E・クルパット(藤原武弘 監訳) 都市生活の心理学 西村書店 1994
*C・S・フィッシャー(松本康、前田尚子 訳) 都市的体験 未来社 1996
*J・ラング(高橋鷹志 監訳、今井ゆりか 訳) 建築理論の創造 −環境デザインにおける行動科学の役割 鹿島出版会 1992
*C・アレグザンダー他(平田翰那 訳) パタン・ランゲージ 鹿島出版会 1984
*K・リンチ(三村翰弘 訳) 居住環境の計画 彰国社 1984
*三村浩史 他 住環境を整備する(住環境の計画5) 彰国社 1991
*宇沢弘文、高木郁朗 編 市場・公共・人間 −社会的共通資本の政治経済 ※特に5章「都市と社会的共通資本」(間宮陽介) 第一書林 1992

「立派な暮しの価値をおしはかるいくつかの試金石 −学校、公園、小ぎれいな住宅、あるいはそういったもの−が、すぐれた近隣住区をつくるのだと考えられる風潮がある。もしこれが本当なら、人間の生活なんて何と簡単なものだろう!」

J・ジェイコブス

生活は住居の中に留まるものではなくその周囲から地域・都市へと広がっている。今回はそこで体験される住環境の質、街の価値について重要な見方を提示した本を中心にまとめてみた。

●人間生態学的・近隣住区
今世紀初頭、移民の流入によって爆発的に人口が増加したシカゴを対象にして、人間生態学という視点から都市生活にアプローチしたのはパークである。都市社会学の始まりとなった彼の1916年の論文は鈴木広編訳『都市化の社会学』で読むことができる。パークの影響を受け現代の居住地環境のあり方に対して最も影響力を持ったのがペリー『近隣住区論』である。その後、多くの批判も受けた理論ではあるが(デューイによる批判は『都市化の社会学』に収められている)、その背景と、どのような手続きで導き出されたものか確認しておく必要がある。

●リンチとジェイコブス
1960年代の初めに都市の価値について決定的に重要な二冊の本がアメリカで出版された。リンチ『都市のイメージ』は都市の形態が生み出す人びとのパブリック・イメージを分析し、イメージアビリティとレジビリティ(わかりやすさ)という質を示した。ジェイコブス『アメリカ大都市の死と生』は、グリニッチ・ビレッジに代表されるダウンタウンの生活を描くことで都市に住むとはどういうことであるか(いってみれば見知らぬ人びととある秩序をもってやっていくこと)を説き、近隣住区に代表される計画論を徹底的に批判した。

●環境心理・テリトリー
1970年代の初めに、過密や疎外といった都市問題を背景として、また物理的セッティングと行動の関係を扱う方法論を目指して「社会学でも心理学でもなく、また建築学でも都市計画でもない、一つの領域」として環境心理学が確立した。イッテルソン他『環境心理の基礎』『同応用』では、この学問の当初のパースペクティブを確認できる。
環境心理は人間−環境系について多くの概念を提出したが、生物の縄張り概念をベースに、防犯、社会集団、行動範囲、地域認識等を媒介にして住居計画と結びつき最も追求されたのはテリトリーであろう。本欄第1回<住居計画>で紹介済みのニューマン『まもりやすい住空間』、鈴木成文他『集合住宅 住区』はその代表例である。また小林秀樹『集住のなわばり学』はさまざまなタイプの居住地を対象にした調査から住居近傍の共有領域の構造を明らかにした。

●風景と場所
建物の見え方の問題はそれまでもデザイン・知覚心理学的な分析が行われていたが、カレン『都市の景観』を先駆として、景観・風景は都市体験の大きな要素として、また文化・歴史的な価値と結びついていった。わが国の代表的な著作として樋口忠彦『景観の構造』、中村良夫『風景学入門』がある。
風景論とパラレルに70年代半ばに現象学的地理学の分野から場所性を論じたのがイーフー・トゥアン『トポフィリア』とレルフ『場所の現象学』である。さらにノルベルグ=シュルツ『ゲニウス・ロキ』は土地固有のコンテクスト(地霊)に焦点をあてている。80年代後半以降、以上のような視点から街を読む試みが数多く行なわれた。例えば槙文彦他『見えがくれする都市』は微地形・道・建築に注目して東京の空間構造を浮かび上がらせた。

●社会的接触・生態学的視点
街路・広場等のパブリックスペースの価値については古くから多くの議論があるが、特にさまざまなレベルの社会的接触の重要性を指摘したものとして、ゲール『屋外空間の生活とデザイン』、ホワイト『都市という劇場』がある。
確実に共有されつつあるのが生態学的な価値観である。進士五十八『アメニティ・デザイン』等の自然環境をベースにしたものはもちろんのこと、視覚に偏りがちだった感覚を全感覚に開く一歩である鳥越けい子『サウンドスケープ』、遊び行動に留まらずプレイランドスケープ概念に展開する木下勇『遊びと街のエコロジー』など、いずれも広い意味でのエコロジカルな視点を持っている。

最後に各分野の歴史的系譜を概観できる図書と、デザイン・計画に関する図書を幾つか挙げておく。クルパット『都市生活の心理学』は心理学分野の、フィッシャー『都市的体験』は都市社会学分野の、ラング『建築理論の創造』は建築デザインの立場から、80年代半ばまでの流れがまとめられている。
有機的に結びついたパターンによって住居から街まで設計することを目指すアレグザンダー他『パタン・ランゲージ』は、それ自体が住環境の捉え方の提言でもある。リンチの『居住環境の計画』は彼の集大成的著作であり、活力性・感覚・適合・アクセス・管理という五つの規範を提示している。理念から実践的手法まで広範囲にカバーしたものとして三村浩史他『住環境の計画5 住環境を整備する』がある。また宇沢弘文他編『市場・公共・人間:社会的共通資本の政治経済学』は、場所を社会的共通資本として位置づける試みであり示唆に富む。

鈴木 毅(すずき・たけし)
(『すまいろん』97年夏号転載)