住について考えるための基本図書 4
住宅生産・構法の本

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編著者名 書名 発行所 発行年
*内田祥哉 建築生産のオープンシステム 彰国社 1977
内田祥哉 建築生産の過去・現在・未来 日本建築センター 1988
*日本建築学会構法計画小委員会 編 工業化戸建住宅・資料 彰国社 1983
*松村秀一 監修 工業化住宅・考 −シリーズ・プロのノウハウ 学芸出版 1987
*飯塚五郎蔵 デザインの具象 −材料・構法 エス・ピー・エス出版 1988
*沢田光英 他 プレハブ住宅 日本住宅協会 1963
*Brenda Vale Prefabs - a history of the UK temporary housing programme E & FN SPON 1995
*Miles Glendinning, Stefan Muthesius Tower block Yale Univ. Press 1994
*Brian Finnimore Houses from the factory system building and the welfare state Rivers Oram Press 1989
*Esther McCoy Case study houses 1945-1962 Hennessey & Ingalls 1977
剣持伶 規格構成材建築への出発(剣持伶遺稿集) 綜建築研究所 1974
*大野勝彦 現代民家と住環境体 鹿島出版会 1976
広瀬鎌二、三宅敏郎 建築のディテールの考え方 彰国社 1963
*日本建築学会 編 構造用教材 日本建築学会 1959
*内田祥哉、大野隆司、深尾精一、吉田倬郎 建築構法 市ケ谷出版社 1981
*後藤一雄、武者英二 図解建築構法 彰国社 1985
*目本建築センター 編 モデユラーコーディネーション −考え方と住宅への応用 丸善 1976
(財)住宅部品開発センター 編 センチュリーハウジングシステム (財)住宅部品開発センター 1985
*オランダデルフト工科大学 編 もつれた建築をほどく −オープン・ハウジングの勧め 一般財団法人住総研 1995
*古川修 日本の建設業 岩波書店 1963
*菊岡倶也 建設業を興した人びと 彰国社 1993
*古川修、江口禎 建築生産システム(新建築学大系44) 彰国社 1982
内田元亨 住宅産業 −経済成長の新しい主役(雑誌「中央公論」1967年3月号) 中央公論社 1967
*巽和夫 編 現代ハウジング論 ※特に第3章「住宅生産の技術と組織」(秋山哲一、大垣直明、東樋口護、古阪秀三、佐々木良和) 学芸出版社 1986
*日本建築学会建築経済委員会 編 シリーズ「日本の建築生産研究 −研究の現況I〜III」※特に「II 建築生産主要文献解題」 日本建築学会 1974〜1976
*安藤邦廣、乾尚彦、山下浩一 住まいの伝統技術 建築資料研究社 1995
*真鍋恒博 図説近代から現代の金属製建築部品の変遷・第1巻 建築技術社 1996
*内田祥哉 他 在来構法の研究 −木造の継手仕口について 一般財団法人住総研 1994

住宅は、ある時代のある地域で得られる資源(材料・人材・機材・技術)を利用して、その時代・地域の文化・住様式や経済・社会状況に影響されつつ、独特のプロセス(やりよう=工法)をたどって、個別の様態(ありよう=構法)を持つものとしてつくられる。住宅のつくり方には、資源の調達性や、経済・社会状況にかかわる種々・多様なファクターが絡んでいる。もし、これらのファクターが、時の経過に対してあまり変化しなかったり、広範な地域にわたって共通していれば、住宅のつくり方は固定的なものとなる。こういう状況では、住宅生産や構法に関する研究は起こりづらいに違いない。逆に、もし、これらのファクターが刻々変わり、地域ごとに異なる様相を呈したとしたら、住宅のつくり方は刻々と変化し、多様な状況を呈するであろう。第二次世界大戦後の日本は、まさにこういう状況をたどってきた。したがって、住宅生産や構法に関する研究が盛んになったのも、ここ50年ばかりのことといってよい。ただし、この50年という年数は、一個人が現役として働ける年数の上限に迫る長さであり、短いとはいえ、歴史的な視点が必要となる年限である。ここでは、「住宅生産・構法の本」を歴史的なパースペクティブから追いかけてみたい。

●工業化
過去50年間の日本の住宅生産は、「工業化」抜きには語れない。内田祥哉『建築生産のオープンシステム』では、1950年代から1970年代後半にかけての、住宅生産の工業化の流れが包括的にまとめられている。この本は、1977年に刊行されているが、読者は、その後今に至るまでの20年間に起きたことが、この本で書かれている事象の延長上にあることを発見して驚くに違いない。また、同著者による『建築生産の過去・現在・未来』は、戦後40年間の構工法の歴史的変遷がコンパクトにまとめられている。
戸建てのプレファブ住宅の歴史的変遷を通史的にとらえるには、日本建築学会構法計画小委員会『工業化戸建住宅・資料』や、松村秀一監修『工業化住宅・考』がよい。飯塚五郎蔵『デザインの具象 −材料・構法』は、1940年代後半以降、建築家がどのような試行錯誤をしながら「工業化」というテーマに取り組んできたかを伝える歴史的証言のアンソロジーである。前記の通史と併せて読むことによって、過去の時代状況を立体的に捉えることができる。
日本の住宅の工業化は、欧州各国の状況に影響を受けてきた。奇しくも、英国でも住宅の工業化にかかわる通史が近年続々著されている。(例えばBrenda Vale『Prefabs - a history of the UK temporary housing programme』、Brian Finnimore『Houses from the factory system building and the welfare state』、Miles Glendinning & Stefan Muthesius『Tower Block』いずれも未邦訳)。これらと日本の通史を読み比べてみると、グローバルな視点から、日本の住宅の工業化を見つめ直すことができよう。
また、イームズ夫妻のケーススタディハウスも日本に少なからぬ影響を与えたが、これはEsther McCoy『Case study house 1945-1962』(未邦訳)に詳しい。工場生産されたコンポーネントで住宅をつくり上げるという考えは、剣持伶『規格構成材建築への出発』や大野勝彦『現代民家と住環境体』に濃厚にみられる。これらの著作は、その後の思潮を形成したといってよい。

●性能と構法
工業化が進展し、住宅技術が多様化するとともに、住宅の技術を具体的な仕様ではなく、性能によって記述しようという試みがなされてきた。1950年代以降のBE(ビルディング・エレメント)論は、日本国内でこの考え方の先鞭をつけたものであろう。広瀬鎌二・三宅敏郎『建築のディテールの考え方』は、性能に対して、住宅・建築の構法が具体的にどのように実現されるのかを解説しようと試みたおそらくはじめての単行本である。今日の基本的な構法については、日本建築学会『構造用教材』、内田祥哉・大野隆司・深尾精一・吉田倬郎『建築構法』、後藤一雄・武者英二『図解建築構法』などの教科書を参照するとよい。また、コンポーネントをどのように組み合わせるかについては、日本建築センター編『モデュラーコーディネーション 考え方と住宅への応用』や、(財)住宅部品開発センター『センチュリーハウジングシステム』に詳しい。コンポーネントの足し算で住宅ができるわけではない。このような組み合わせ技術の重要さは、デルフト工科大学教授ファンランデン氏を中心に編まれた『もつれた建築をほどく オープンハウジングの勧め』でも大いに強調されている点である。

●社会システムとしての住宅生産
工業化は、単に住宅のありよう(=構法)や、やりよう(=工法)を変えただけでなく、住宅をつくる組織を含んだ社会システムそのものを変化させてきた。古川修『日本の建設業』は、日本の建設産業を歴史的視点のなかでとらえた名著であり、その流れの中で社会システムとしての建築生産に関わる研究の先鞭がつけられてきた。日本建築学会建築経済委員会のシリーズ『日本の建築生産研究』研究の現況I〜IIIは、1970年代に至るまでの研究状況を伝える貴重な文献である。古川修・江口禎『建築生産システム』は、住宅生産も含め、建築生産について体系的に論じた書物である。
内田元亨『住宅産業 経済成長の新しい主役』(『中央公論』1967年3月号)は、<住宅産業>という語が使われた初期の例であろう。爾来、確かに住宅生産にかかわる諸主体のうち相当の割合は自らを住宅産業として意識してきたし、<住宅産業>を振興させる諸政策も政府によってとられてきた。巽和夫編『現代ハウジング論』の「第3章 住宅生産の技術と組織」には、秋山哲一・大垣直明・東樋口護・古阪秀三・佐々木良和らによる、社会システムとしての住宅生産についてその後の研究の原点ともいえる論稿が収められている。

●伝統構法の再評価
1950年代において、在来構法は、工業化構法によって駆逐される対象として位置づけられていた。しかしながら1980年代以降、伝統構法、在来構法を再評価しようという動きが強まってきた。安藤邦廣・乾尚彦・山下浩一『住まいの伝統技術』は、その動きに先鞭をつけたといってよい。そこに描かれた巧みな技術そのものも興味深いが、住宅生産技術は、進歩史観で捉えるべきものではなく、むしろ時代・地域の状況を反映して最適技術を求め続ける性格を持つべきであるというパラダイム・シフトをおこした著作として、この本は価値が高い。内田祥哉ら『在来構法の研究 木造の継手仕口について』は、伝統的継手仕口の目的・機能・形態・強度とその変遷を集大成したものである。

以上、「歴史的」パースペクティブから図書を選んでみたが、お詫びしなければならないのは、紹介した本のうち、非売品だったり、絶版となっていたり、また日本で翻訳されていなかったり、はたまた、発行元の本国ですら入手しづらいものが含まれていることである。住宅生産や構法に関する本は、発行時点での技術的問題に取り組んだものが多く、時間が経過すると、その技術的な様相が変わり絶版の憂き目をみてしまう。また、そもそも、印刷媒体に記録されることなく散逸してしまった情報も多い。こういう点が、この分野の研究の難しさである。せめて、これからは、アーカイブをしっかり整備しておきたいものである。

野城 智也(やしろ・ともなり)
(『すまいろん』97年春号転載)