住について考えるための基本図書 2
住生活の本

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編著者名 書名 発行所 発行年
*B・タウト(篠田英雄 訳) 日本の家屋と生活 岩波書店 1966
*今和次郎 住生活 相模書房 1945
*今和次郎 住生活(生活学 今和次郎集第5巻) ドメス出版 1971
*浜ロミホ 日本住宅の封建性 相模書房 1949
*吉阪隆正 住居学汎論(改訂版『住居学』) 相模書房 1950(1965)
*G・バシュラール(岩村行雄 訳) 空間の詩学 思潮社 1969
*O・F・ボルノウ(大塚恵一 他訳) 人間と空間 せりか書房 1978
*西山夘三 住み方の記 文芸春秋新社 1965
*西山夘三 住み方の記(増補新版) 筑摩書房 1978
*A・ラポポート(山本正三 他訳) 住まいと文化 大明堂 1987
*石毛直道 住居空間の人類学 鹿島出版会 1971
*多木浩二 生きられた家 −経験と象徴 田畑書店 1976
*多木浩二 生きられた家 −経験と象徴(新版) 青土社 1984
*西山夘三 編 住居学ノート 勁草書房 1977
*B・ルドフスキー(多川道太郎 監修、奥野卓司 訳) さあ、横になって食べよう −忘れられた生活様式 鹿島出版会 1985
*前川愛 都市空間の中の文学 筑摩書房 1982
*大河直躬 住まいの人類学 −日本庶民住居再考 平凡社 1986

今回取り上げるのは「住生活の本」である。住生活は住居計画を目的として捉えられてきた面を持つので、前回取り上げられた幅広い「住居計画の本」の中には、住生活を捉えた本が少なからず含まれている。それらの本にも言及し、位置づけながら、今回は、住生活の捉え方に中心を置き、その視点や方法を切り拓いてきた(という意味での)基本図書を取り上げることとしたい。したがって、住生活を捉える目的は限定せずに「住生活を捉えている本」を取り上げることになる。これらの集合体は、「住むとはどういうことか」を考えさせてくれる本、ということにもなるはずである。

「住生活」は、第二次世界大戦後に用いられ始めた語であり、この語を初めて用いたのが、今和次郎『住生活』であるといわれる。今和次郎の著作の中では最も体系的なまとまりを持つこの本では、住生活が五つの"部面"で捉えられている。この本が全く住居計画を意識していないわけではないが、池辺陽『すまい』などが住生活の分類を住空間の機能分化に結び付けているのとは異なり、"部面"はあくまで住生活を捉える視点である。

「住生活」の語とともに成立していったのが、それを中心概念とした住居学であり、その住居学形成期の代表的な一冊が吉阪隆正『住居学汎論』である。"心の中の住居"という章から始まるこの本には、後の環境心理学、文化人類学の視点がすでに盛り込まれている。その後、住居学が定着したと思われる頃、あらためて、住居学について正面から論じた本が出された。西山夘三編『住居学ノート』である。この頃には住居学の分野名として、また、講座名としても定着していた「住生活」について、西山学派の人びとが、それぞれの角度からサーチライトをあてて、その意味と捉え方を浮かび上がらせている。

また、池辺陽『すまい』におけるような家事への着目は住居学の特徴の一つだが、その家事を協同的あるいは社会的サービスとして捉え直したのが、D・ハイデン『家事大革命』である。居住にかかわるサービスの視点は、今後の住生活を捉える上で、さらに比重を増すことだろう。

住生活を捉える基本的方法である住み方調査も、元来、住居計画を目的とした方法であり、住生活の中から計画に結びつく要素を的確に切り取って捉える方法といえる。これに基づく計画論が、第二次世界大戦後の日本の住居の近代化に果たした役割は極めて大きかったが、その住み方調査を確立した本人が、やがて、計画とは距離を置いて、自らの住生活を記述したのが、西山夘三『住み方の記』である。自らの住生活は「住み方」を越えて幅広く、かつ、時間的変化とともに語られ、表現されている。このような住み手自身による住生活の把握については、P・プードン『ル・コルビュジェ ペサック集合住宅』が、より主体的に住みこなす存在としての住み手に着目して、その意識を住み手の生の言葉で表現している。

以上のような、建築の分野の、幾分なりとも住居計画を目的とした本と異なり、住居を規定する枠組みを探る文化人類学の視点から住生活を捉えた本が、石毛直道『住居空間の人類学』である。ほぼ同じ頃、A・ラポポート『住まいと文化』も社会文化的要因が住まいを優位に規定していると論じた。遡れば、時間の経つほどに(実体が失われて)価値が高まってくるように思われるB・タウト『日本の家屋と生活』がある。特に異文化の住まいに触れたとき、住宅とともに、生活を捉え、文化を捉える視点を持たざるを得ない。その点、住居を生活の視点から捉えた先駆的な本のひとつである浜口ミホ『日本住宅の封建性』は、自国の住生活の文化的枠組をこそ批判した本であった。大河直躬『住まいの人類学』になると、絵巻物などを手掛かりに、より実証的、歴史的に住まいの文化的枠組が追究されている。

B・ルドフスキーの本は一冊ごとに住生活を見る新しい視点を提供してきたが、ここでは、『さあ、横になって食べよう −忘れられた生活様式』を挙げておこう。住生活の大事な要素である起居様式、姿勢、しぐさに着目し、絵画やもの(道具)によって住文化の多様性に目を開かせてくれる。

さて、「住生活」を「住むこと」と捉えた時、取り上げなければならない一群の本がある。まず、G・バシュラール『空間の詩学』は、人が空間のイメージの中に住むことを描き出し、O・F・ボルノウ『人間と空間』は、より広く人間存在と空間のかかわりを論じた。吉阪隆正が試みた言語からの解明をさらに深めた後の"家屋のやすらぎ"の章ほど住むことの意味を伝えてくれる記述はないといえるほどだ。それらに触発されて、多木浩二『生きられた家』はその論考を住まいに、前田愛『都市空間の中の文学』は日本文化の中に住むことを集約している。

以上が、住生活のどのような側面に着目したのか、どのような方法で捉えたのか、何を資料としているのか、どのように表現しているのか、などの観点から、その広がりにも考慮して選びだした「基本図書」である。第二次世界大戦後という時期に生まれた、時代性も持つ「住生活」を捉える視点は、いまだに一般的には定着していない視点であるように思う。その意味では、家族生活、地域生活、起居様式といった住生活としての基本的なところをより重視して選定すべきだったかもしれない。

在塚 礼子(ありづか・れいこ)
(『すまいろん』96年秋号転載)