住について考えるための基本図書 18
まちづくり

紹介図書 リスト (「*」が付いているものは図書室所蔵)

編著者名 タイトル 出版者 出版年
*J・ジェコブス(黒川紀章 訳) アメリカ大都市の死と生 鹿島研究所出版会 1969
*M・アンダーソン(柴田徳衛、宮本憲一 訳) 都市再開発政策 −その批判的分析 鹿島研究所出版会 1971
*P・ブレイク(星野郁美 訳) 近代建築の失敗(SD選書150) 鹿島出版会 1979
*K・リンチ(丹下健三、富田玲子 訳) 都市のイメージ 岩波書店 1968
*C・アレグザンダー(平田翰那 訳) パタン・ランゲージ −環境設計の手引 鹿島出版会 1984
*有斐閣 編 ジュリスト増刊 特集:日照権 有斐閣 1974
森村道美 編著 コミュニティ・デザイン(建築文化別冊) 彰国社 1976
*高見澤邦郎 編著 居住環境整備の手法 −まちをデザインする(建築文化別冊) 彰国社 1988
*鹿島出版会 都市住宅(雑誌・月刊) 鹿島出版会 1968〜1986
*建築資料研究社 造景(雑誌・隔月刊) 建築資料研究社 1996〜
*佐藤滋 編著 まちづくりの科学 鹿島出版会 1999
*田村明 まちづくりの実践(岩波新書) 岩波書店 1999
*SD編集部 編 都市デザイン 横浜 −その発想と展開(SD別冊22) 鹿島出版会 1992
*大河直躬 都市の歴史とまちづくり 学芸出版社 1995
木原啓吉 ナショナル・トラスト −自然と歴史的環境を守る住民運動ナショナル・トラストのすべて(三省堂選書) 三省堂 1992
*日本建築学会 編 阪神・淡路大震災調査報告 建築編10−都市計画/農漁村計画 日本建築学会 1999
*山岡義典 編著 NPO基礎講座 1〜3 ぎょうせい 1997〜1999
*小林重敬 編著 地方分権時代のまちづくり条例 学芸出版社 1999
*福川裕一 文、青山邦彦 絵 ぼくたちのまちづくり 岩波書店 1999

●なぜ「まちづくり」か?
すでにこのシリーズのNo.5で「住環境」が、No.11で「都市計画」が取り上げられている。「まちづくり」は両者と大いにかかわるので、都市計画→住環境→まちづくりの順に通読すると理解が深まると思う。
では、なぜ「まちづくり」なのか?筆者の考えでは、大きく2つの説明ができると思う。
第1は、世界共通の流れである。1960年代から70年代にかけ、それまでの都市計画に疑問が投げかけられた。端的にいうと、近代都市計画は人間のためになっていない、という批判である。ジェコブズ(1961、邦訳1969)、アンダーソン(1964、邦訳1971)、ブレイク(1974、邦訳1979)などアプローチはさまざまであるが、いずれも「近代」的思考や実践への痛烈な批判を伴っていた。そうした批判や反省のうえに、リンチ(1960、邦訳1968)やアレグザンダー(1977、邦訳1984)らが人間の感性や慣習や協働に基づく新たな方法論を切り開いていったのである。(原著の発行年と邦訳年のズレや、訳された範囲、訳者の解説を注意深く見ると、当時の日本の状況が読みとれる。また、同一著者のその他の著作をたどっていくのも楽しみ方の1つである)。
第2は、日本の都市計画に固有の問題である。明治維新以来、近代化に邁進し敗戦後も高度成長をとげた日本の都市計画はきわめて中央集権的であり、お役所的であり、人びとの生活に役立っていないとの批判である、広原(1991 ※注1)が「歴史的にみれば、まちづくりは都市計画、正確にいえば都市計画の特殊日本的形態としての官治的都市計画(国家資本主義的都市計画)に対する民衆の対抗概念として生まれ、その対抗関係の中で歴史的に発展してきたと考えられます」と表現しているように、日本では自立した個人が育たないまま中央主導・行政主導で近代都市計画が行なわれてきた。「公害国会」(1970)が開かれて高度経済成長の歪みが誰の目にも明らかになった頃、ようやく人びとは自分の生活のための都市計画の必要性に気づき始めたのである。それまで低層だった住宅地へのマンション建設も居住環境の破壊と認識され、日照権を守る運動が展開された。(なお、「まちづくり」という日本語は1960年代はじめに、名古屋市栄東地区における再開発の検討の際に初めて使われたとされる ※注2)。

●まちづくりの展開
さきの広原(1991)によれば、日本のまちづくりは、1960年代は理念・運動型、1970年代は計画・参加型、1980年代は事業・経営型と呼べるような形で展開してきた。1990年代は「以上の3つが幾重にも折り重なって流れている大河のよう」で、まちづくりは多元化・多様化したとされる。
基本図書の観点からみると、1960年代は先の海外文献に頼らざるを得ない。1970年代の基本図書としては森村編著(1976)が、1980年代の実践を通して書かれた基本図書としては高見澤邦郎編著(1988)を薦める。ただしこれらは建築系雑誌の別冊として出版されていて、特に前者は手に入らないかもしれない。まちづくりは常に現在進行形なので、そのときどきの雑誌記事が基本図書といえなくもない。そういう意味では雑誌『都市住宅』(1968年に発行開始。月刊。70年代には時代をリードしたが80年代に低調となり廃刊された)や『造景』(阪神・淡路大震災後の1996年に発行開始。隔月)が良い。皮肉にも、この2つの雑誌の谷間にあたる1980年代後半から1990年代前半は日本ではバブル狂乱時代であり、「まちづくり」はいわば影の存在であった。(そういう時期にこそ各地でまちづくりの基礎体力が蓄えられたのであるが!)
なお、1999年秋に刊行された『まちづくりの科学』を、現在進行形の「まちづくり」の蓄積の全体像を現時点で俯瞰できる基本図書として薦めたい。

●まちづくりの意味
多元化・多様化した「まちづくり」の意味をあえて説明するなら、田村(1999)が参考になるので引用しておく。それぞれの視点から多数の図書が発刊される昨今である。
(1)官主導から市民主導へ
(2)ハードだけでなくソフトを含めた総合的な「まち」へ
(3)個性的で主体性のある「まち」へ
(4)すべての人が安心して生活できる人間尊重の「住むに値する」まちへ
(5)マチ社会とその仕組みづくり
(6)「まちづくり」を担うヒトづくり
(7)環境的に良質なストックとなる積み上げ
(8)小さな身近な次元の「まち」に目をむける
(9)広域的に考え、世界の「まち」と繋がる
(10)理念や建前だけでなく実践的なものへ

●まちづくりの諸分野:事例と手法
最後に、地域別、テーマ別、手法別にいくつかの図書をあげておく。ここまでくると基本図書かどうかというより、「こういう読み方もあるので、あとは気に入った分野を自分で開拓して下さい」とお願いするしかない。
地域別では横浜市のものが入手でき基本的なものでもある。出版ルートに乗っていない貴重な図書もたくさんあるので、ぜひ探してほしい。諸外国の図書も近年多数刊行されている。テーマ別では、歴史や自然とまちづくり、阪神・淡路大震災後の復興まちづくりをあげておく。高齢化、情報化、NPOなども興味深いテーマである。手法別では、都市計画法や建築基準法といった法律、地方独自の「まちづくり条例」などの制度などが関係してくる。
まちづくりは、誰にでもチャレンジできる、とても楽しくわくわくすることなのだ。福川・青山(1999)の「絵本」は、人びとをそんな気持ちにさせるチャーミングな図書である。

※注1 新建築家技術者集団 編『生活派建築宣言』第五章 東洋書店 1991年
※注2 全国市街地再開発協会 編著・発行『日本の都市再開発史』 住宅新報社 1991年

高見沢 実(たかみざわ・みのる)
(『すまいろん』00年秋号転載)