住について考えるための基本図書 17
住教育

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編著者名 タイトル 出版者 出版年
*バージニア・バートン(いしいももこ 訳) ちいさいおうち 岩波書店 1993(初版1965)
*延藤安弘 こんな家に住みたいナ −絵本にみる住宅と都市 晶文社 1983
*住環境教育研究所 編 住教育 −未来へのかけ橋(住宅政策研究5) ドメス出版 1982
*住宅問題研究会、日本住宅総合センター 編 住宅問題事典 第I部24章・住教育 東洋経済新報社 1993
*鈴木浩、中島明子 編 小澤紀美子 著 居住空間の再生 9章・住環境教育の展望(講座現代居住3) 東京大学出版会 1996
*染川香澄 こどものための博物館 −世界の実例を見る(岩波ブックレットNo.362) 岩波書店 1994
*大原一興 エコミュージアムへの旅 鹿島出版会 1999
*一般財団法人住総研住教育委員会 編 まちはこどものワンダーらんど −これからの環境学習 風土社 1998
*木下勇 遊びと街のエコロジー(エコロジー建築・都市003) 丸善 1996
*アイリーン・アダムスとまちワーク研究会 まちワーク −地域と進める「校庭&まちづくり」総合学習 風土社 2000
*こどもとまちづくり研究会 こどもとまちづくり −面白さの冒険(まちづくり読本2) 風土社 1996
*ジョン・ミラー(吉田敦彦 訳) ホリスティック教育 −いのちのつながりを求めて 春秋社 1994
*マイケル・ノートン(グループ99 訳) 僕たちの街づくり作戦 都市文化社 1993
*カロリン・シェーファー、エリカ・フィールダー(遠州尋美、遠州敦子 訳) シティ・サファリ −子供の都市探検のためのガイド 都市文化社 1989
*英国教育・科学省 編(IPA日本支部 訳) アウトドア・クラスルーム −遊びから環境教育までの校庭づくり 公害対策技術同友会 1994
*佐島群巳 他編 生涯学習としての環境教育(地球化時代の環境教育3) 国土社 1992
*寺本潔、豊田市立元城小学校 編 町おこし総合学習の構想 −ポスター・セッションの試み(総合学習への挑戦1) 明治図書出版 1997
*一般財団法人住総研住教育委員会 編 2000年住教育論文集 一般財団法人住総研 2000

●教員養成系大学で住居学を担当しており、その授業の導入としてバージニア・バートンの『ちいさいおうち』を見せる。一般的に、想像力の種子は、幼児期に絵本を読むことによって育まれるといわれている。日本には膨大な絵本が出版されているが、学生たちが子どもの頃、手にしている住宅や都市に関する絵本の多くは翻訳絵本である。海外調査の機会に購入してきた絵本や日本人の作家による住宅や都市の絵本を学生に見せると、海外の絵本に多くの反応がある。「絵本がもつイメージ形成力と感受性を育む土壌としての役割」に注目して、延藤安弘は『こんな家に住みたいナ −絵本にみる住宅と都市』を著しているが、そこで紹介されている絵本も大半が欧米のものである。
海外の絵本に学生たちの反応が多いのは、一つには、それぞれの国の生活の基底としての住まいやまちづくりの精神や哲学、つまり文化を読みとれるからであろう。第二に、人間と環境とのかかわり、身近な生活の器としての住空間や居住空間としての都市の豊かさや歴史・文化の織りなす多様さに気づくからであろう。そして、住まいや都市の質は「生活の質」に大きな影響を与え、相互に関連し、さまざまな要素の関連性の奥に潜む人間の生活の営みのすばらしさを読みとるからではないか。

●住文化という言葉が示すように、住まいや都市は文化の所産である。博物館や科学博物館で日本の伝統の住まいや住生活を体験する場が増えてきているが、染川が『こどものための博物館』で指摘するように、日本では「ハンズ・オン」スタイルが少なく、知識伝達型展示が多い。大原が『エコミュージアムへの旅』で関係的概念としてのエコミュージアムを定義しているように、地域の文化・風土を研究、保全、学習していくことも住教育には重要な課題であろう。

●近年、日本人の住まいに対する関心は非常に高くなってきてはいるが、その質的な水準は衣生活、食生活などと比較すると未だ低い水準にあるのではないだろうか。
若者や女性向けの雑誌の美しいインテリア、新聞やテレビにあふれる住宅の広告・コマーシャルなどの住情報は、生活者として自分らしさや家族の暮らしを創り出していくスキルを育成するというより、情報の洪水におぼれさせ、判断力をゆがめているともいえる。
一方、遠距離通勤を余儀なくされる郊外の住宅地、防災的にも問題の多い狭小宅地、子どもが遊ぶための空間や生活関連施設の整備も不十分なところに立地する住まいを購入している、日本の居住者自身の現実容認の意識や行動をどのように変革すべきか、大きな課題が横たわっている。居住空間の子どもの発達に与える影響や住まいを取りまく環境の重要性に目をつぶり、あるいはあきらめて、「自分の家さえもてれば住環境の劣悪さは我慢する」といった現実の住宅政策のひずみの容認や住環境意識の低さを克服していかなければならないだろう。
そこで住教育の充実、つまり「人々が住まいについての正しい知識や理解を身につけることは、国民の住生活を改善し、経済大国としてのわが国の国民の生活を均衡のとれた豊かなものに転換させていくための、きわてめ今日的で焦眉の課題」(岸本幸臣著「住教育」、『住宅問題事典』所収)であり、学校教育で展開する重要な意義がある。なお住教育の内容に住まいを取りまく地域の環境も含めたい。
現在、学校教育で住環境教育にかかわりをもつ教科としては、家庭科、社会科、理科、保健、美術がある。その中でも一領域を構成し、男女ともに学習する教科は家庭科だけである。しかし、その教科のもつ性格から、「住環境教育の展望」(『講座現代居住3 居住空間の再生』)で指摘しているように、人間の日々の営みにかかわる学術の軽視を克服しなければならないであろう。
さらに、小・中・高校の限られた家庭科という授業時間の中で発達段階にそって住教育として何を教えるべきか、どのようなスキルを付けるのか、どのような方法で行なうべきか、そのための教師教育はどうあるべきか(『住教育 −未来への架け橋』)、議論が重ねられているが、21世紀に向けての教育界の動きとして出てきた「総合的な学習の時間」の活用を視野に入れると、住環境教育の可能性は広がる。
今、日本の教育界では今まで「何を学ぶ」かに力点がありすぎ、「どう学ぶ」かといった視点からの教育が十分でなかったことの反省が出されてきており、大きな教育改革が進められてきている。21世紀における教育は、「知識伝達(注入)型の教育観」から子ども一人ひとりが自ら課題を見いだし、構想を立て、さまざまな探求活動を通してよりよく問題を解決する資質や能力を育成し、自分の考えを表現・発表し、さらに討論を深めていく過程を通してさまざまな意見に対する寛容さや価値を認識していくプロセス重視型の学習としての「探求創出表現型の教育観」への質的転換が求められている。「総合的な学習の時間」において遊びや文化を通して(through)学ぶという概念も教育界では重要な方法となってくるであろう(木下『遊びと街のエコロジー』)。

●子どもや市民が住まいやまちづくり計画策定や形成活動の過程に参加することによって、主体としての意識の形成や共生していくことの自覚が生まれるのであろう。
イギリスでは1960年代に住環境形成活動の基盤づくりが答申され、今日の学校教育、社会教育に受け継がれている。初等教育に関するプラウデン報告書(1967年)で学校教育における環境の活用(ここでの環境には住宅・建築・都市の人工的環境や歴史的環境などの諸相が含まれている)の価値が答申され、さらに環境計画の決定過程における住民参加手続や機構を検討したスケフィントン報告書(1969年)では、都市計画の情報を義務教育に組み込むべきこと、さらに子どもたちに成人してから都市計画にかかわるための資質を育てておくという内容が答申されている。
こうした審議会の答申を受けて、学校教育や地域(アーバンスタディーズセンターなど)でストリートワークなどの手法を導入した体験学習が活発になり、さらに1990年代の教育改革によって学校カリキュラムに「まちづくり教育」が位置づけられるようになった。具体的には、ナショナルカリキュラムのなかのクロス・カリキュラムのテーマとして「環境教育」と「市民教育」が位置づけられている。環境教育は単なる自然保護教育ではなく、人工的な環境にかかわる内容も学ぶようになっている。
市民教育とは、「コミュニティ」「多様な社会」「市民であること」「家族」「活動の中の民主主義」「市民と法」「仕事、雇用と余暇」「公共サービス」といった内容を複数の教科の目標と関連させて体験型学習として展開されるものである。
こうした内容と方法は、『まちはこどものワンダーらんど −これからの環境学習』『まちワーク −地域と進める校庭&まちづくり総合学習』などで紹介されているが、今年3月11日に行なわれた当財団主催の「住まい・まち学習」論文発表会でも全国から29編の論文の応募があり、日本においても多彩な体験型・参加型の教育手法が展開され、定着してきているようだ。

小澤 紀美子(こざわ・きみこ)
(『すまいろん』00年夏号転載)