住について考えるための基本図書 15
居住の権利をめぐって

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編著者名 タイトル 出版者 出版年
宮崎繁樹 編 解説・国際人権規約 日本評論社 1996
*近畿弁護士会連合会 阪神・淡路大震災人権白書 −高齢者・障害者・子供・住宅 明石書店 1996
*三村浩史 人間らしく住む −都市の居住政策 学芸出版社 1980
*中林浩 監修 住宅の権利・誓約集 −世界人権宣言からハビタットIIまで 日本住宅会議 1997
*United Nations Centre for Human Settlements An urbanizing world - global report on human settlements 1996 Oxford Univ. Press 1996
*国土庁長官官房参事官室 居住問題に取り組むハビタット 大蔵省印刷局 1998
*日本住宅会議 編 国際居住年と日本の住居 日本評論社 1987
*早川和男 編集代表 講座現代住居(全5巻) 東京大学出版会 1996
*井上繁 まちづくり条例 −その機能と役割 ぎょうせい 1991
*日本住宅会議 編 あなたの家は住宅といえますか −住宅憲章 岩波書店 1988
*日本住宅会議 編 すまいと人権 −第1回日本住宅会議の記録 ドメス出版 1983
*日本住宅会議 編
(2001年分より所蔵)
住宅会議   1982〜(年3回発行)
*日本住宅会議 編 住宅白書 ドメス出版 1985〜(隔年発行)
*早川和男 住宅貧乏物語 岩波書店 1979
*早川和男 住宅は人権である 文新社 1980
*早川和男 住宅人権の思想 学陽書房 1991
*住宅問題研究会、日本住宅総合センター 住宅問題辞典 東洋経済新報社 1993
*岩波書店 『世界』1990年11号 (特集:「住む」権利 −方法はあるか) 岩波書店 1990
*大谷幸夫 都市にとって土地とは何か −まちづくりから土地問題を考える 筑摩書房 1988
*西山夘三、山崎不二夫、山本荘毅 国土と人権 −国土問題の総合的分析 時事通信社 1974
*安藤元夫 居住点の思想 −住民・運動・自治 晶文社 1978
*若竹まちづくり研究所 人権回復のまちづくり理論 明石書店 1985
*内田雄造 同和地区のまちづくり論 −環境整備計画・事業に関する研究 明石書店 1993
*日本寄せ場学会 寄せ場 現代書館 1988〜(毎年刊行)
<笹島>問題を考える会 <笹島>問題をめぐる現状と政策提言 −寄せ場と野宿   1998
Habitat International Coalition Still Waiting housing rights violations in a land of plenty - the Kobe earthquake and beyond Habitat International Coalition 1996
金子麻実、神村厚利、寺川政司、前田圭子、渡辺玲子 被災地の声を世界へ −ザ・ボイス・フロム・神戸 ハビタットII NGOフォーラム活動報告書 ザ・ボイス・フロム神戸事務局編集委員会 1997
*熊野勝之 奪われた居住の権利 −阪神大震災と国際人権規約 エピック 1997
*近畿弁護士会連合会 救済はいつの日か −豊かな国の居住権侵害 近畿弁護士会連合会 1996

今からほぼ50年前の1948年、国際連合第3回総会において「世界人権宣言」が採択された。人権の国際的な保障を初めてうたった宣言として有名である。この中に、居住にまつわる権利が2カ所うたわれている。1つは、国内における居住地選択の自由を保障する権利(第13条第1項)であり、もう1つは、衣・食・住・医療に関して自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利(第25条第1項)である。この宣言を規約の形でより実体的にしたものが、1966年の国際人権規約であり、日本がこの規約を批准したのは1979年であった。この規約は、社会権規約と自由権規約に分かれており、社会権規約の第11条に、「十分な生活水準、衣食住、生活条件の向上の権利」が明記されている。ここに社会権としての居住権(housing rights)の国際法的根拠が与えられるわけだが、こうした国際法上の居住の権利については、宮崎繁樹編『解説・国際人権規約』、近畿弁護士会連合会『阪神・淡路大震災人権白書』などに詳しい。さらに、社会権規約委員会は1991年に「一般的意見」を付し、居住権に関わる住居概念を、単に雨風を防ぐ物理的施設に限定せず、居住権を「安全に、かつ平和に、かつ尊厳をもって住む権利」とする解釈を示した。一方で、1976年には、初めての居住に関する国際会議、「人間居住国際会議(ハビタットI)」が開催され、そこで採択された「人間居住宣言」の中で、適切な住居を人びとに保証することが政府の義務であることが確認された。さらに、その2年後、人間居住分野を統括する国際組織として初めて、国連人間居住センター(ハビタット)が設立された。こうした国連を舞台とした居住権に関する議論の経緯については、三村浩史『人間らしく住む』、中村浩監修『住宅の権利・誓約集』などに詳しく、居住権を含む最近の国際居住政策の潮流については、『An Urbanizing World』を見るとよく分かる。また、国連人間居住センターについては、国土庁長官官房参事官室『居住問題に取り組むハビタット』に詳しい。

そして、1987年には「家なき人々のための国際居住年(International Year of Shelter for the Homeless)」が制定され、世界各国で居住問題への取り組みがなされたが、日本では、折しもバブルの風に煽られ、居住権・居住問題が政府レベルで集中的に議論されることが少なく、「for the Homeless」の部分を省いた「国際居住年」として受け入れられた(日本住宅会議編『国際居住年と日本の住居』)。こうした居住権・居住問題をめぐるさまざまな分野、さまざまな地域における近年の集大成としては、早川和男編集代表『講座 現代居住(全5巻)』が有用であろう。
とはいえ、1987年当時の日本で「for the Homeless」を省略した国際居住年で、問題が全てカバーされていたわけでは当然なかった。日本国憲法では、第25条の国民の「健康で文化的な生活を営む権利」として、人間の生存権がうたわれているが、生存権としての居住権が日本においてすべからく保障されているとは言い難いのが現状であり続けている。

イギリスの住居法を筆頭とする西欧の一連の居住政策を目指して、日本型の住居法・住宅基本法を制定しようという動きは、遠く大正時代までにさかのぼるが、戦後では、1970年代から法制定への動きが盛んになり、80年代に入ってから複数の政党から法案が衆議院に提出された(名称は区々)が、今日に至るまで制定されていない。ただ、1990年、世田谷区住宅条例で「良好な住生活を主体的に営むことができる権利」がうたわれたことは注目すべき出来事といってよいであろう(井上繁『まちづくり条例』)。こうした運動の中で、特筆すべきは「日本住宅会議」(1982年発足)の持続的取り組みであり、機関誌『住宅会議』や『住宅白書』の中では継続的に幅広い居住権をめぐるテーマが議論されている。また、日本住宅会議のオピニオン・リーダーの1人である、早川和男には、『住宅貧乏物語』をはじめとする、居住の権利をめぐる多くの著書がある(下記図書リスト参照)。このほか、住宅問題研究会編『住宅問題事典』も居住権そのものに関する書ではないが、住宅問題を居住問題として捉えるさまざまな視点を提供してくれる。また、バブルの時期の地上げ屋問題や地価高騰による住宅取得困難の状況は、雑誌『世界』1990年11月号特集『「住む」権利』や大谷幸夫編『都市にとって土地とは何か』などに詳しい。

居住権を考えていくと、そこに住む人びとの自治権と密接な関わりを持つ。西山夘三ほか『国土と人権 -国土問題の総合的分析』、安藤元夫『居住点の思想』は、国土計画から地域住環境までの幅広い次元における居住の権利を問うている書である。
このほかにも、借地借家法をめぐる議論も戦後一貫して居住権を1つのキー・ワードとして議論され、日照権問題を中心とした開発・非開発の議論、近年の日本における定住外国人の居住をめぐる諸問題(賃貸拒否など)も大きな居住権問題として継続的に議論されているが、ここでは割愛させていただく。

また、日本における伝統的被差別地区における住環境改善へのここ80年あまりの主体的取り組みも、居住の権利を考える上で避けては通れない貴重な経験である(若竹まちづくり研究所編『人権回復のまちづくり理論』、内田雄造『同和地区のまちづくり論』等参照)。また、路上生活者をめぐる問題としては、日本寄せ場学会の機関誌『寄せ場』などに詳しいが、穂坂光彦「野宿生活者の"居住の権利"」(『<笹島>問題をめぐる現状と政策提言』所収)は、国際法上での居住権を路上生活者のそれとどのように考え併せるかについての画期的論文である。また、阪神大震災でも居住権が大きなテーマとなり、1997年に開催された「第2回人間居住国際会議(ハビタットII)」を契機とした居住権運動の盛り上がりと軌を一にした観があった。「避難所→仮設→復興住宅」という復興過程で、公的住宅復興からこぼれていった人びとの居住権に対して、ハビタット国連調査団の報告には、適切な居住の権利が十分に尊重されてこなかった、と記されていた(Habitat International Coalition『Still Waiting』等参照)。

このように、居住権をめぐる諸問題はさまざまな分野で議論され、さまざまな運動として展開しているが、正面きって「居住権」「人権」を唱えるのは、すぐ「右」か「左」かを問われる状況では近づきにくいことも確かであるが、「居住」を根本から考えるときに避けては通れない課題ではあろう。なお、第三世界で展開されている居住権をめぐる運動に関する図書もひもときたかったが、ここで書面が尽きてしまった。またの機会を待ちたい。

大月 敏雄(おおつき・としお)
(『すまいろん』00年冬号転載)