住について考えるための基本図書 14
住宅の管理 (主として集合住宅)

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編著者名 タイトル 出版者 出版年
新海悟郎 家の寿命(建築文庫30) 彰国社 1958
*田村恭 他 維持管理(新建築学大系49) 彰国社 1983
*日本建築学会 編建築物の耐久計画に関する考え方 丸善 1988
*日本建築学会 編 建築物の調査・劣化診断・修繕の考え方(案)・同解説 丸善 1993
小林清周 ビルの維持管理 森北出版 1957
*飯塚裕 建築維持保全 丸善 1990
*橋本正五 マンションのスラム化と維持管理 鹿島出版会 1986
*有泉亨 編 集合住宅とその管理 東京大学出版会 1961
*有泉亨 編 ヨーロッパ諸国の団地管理 東京大学出版会 1967
*E. Moberly BELL Octavia Hill a biography Constable & Co Ltd 1946
John Macey Housing management 4th edition The Estates Gazette Limited 1982
*共同住宅編集委員会 編 共同住宅 ※特に5編「共同住宅の管理と維持保全」 技報堂 1966
*金沢良雄 他編 住宅経営(住宅問題講座5) 有斐閣 1968
*公社賃貸住宅研究会 公社賃貸住宅の家賃に関する研究 公社賃貸住宅研究会 1992
*中村幸安 立体生活学入門 講談社 1977
*有斐閣 編 集合住宅 −居住性と維持・管理(ジュリスト増刊総合特集17) 有斐閣 1980
日本住宅公団管理部 監修 集合分譲住宅の管理と実際 住宅管理協会 1981
*日本建築学会近畿支部住宅部会マンション管理研究班 編 民間マンションの管理に関する研究 日本建築学会 1981
*小林清周 分譲マンションのすべて 鹿島出版会 1980
(財)国土開発技術研究センター、建築物耐久性向上技術普及委員会 編 保全・耐久性向上技術の経済性評価手法 技報堂 1986
*社団法人新日本建築家協会 マンション百科 シープランニング 1994
藤木良明 マンションのメンテナンス 住宅新報社 1982
*関西分譲共同住宅管理組合協議会 編 居住者のマンション管理 都市文化社 1988
社団法人日本住宅協会 編 コンクリート・アパートすまい方読本 新建築社 1958
*住田昌二他 ハウジング(新建築学体系14) ※特に4章「住宅・居住地管理論」 彰国社 1985
*巽和夫 編 現代ハウジング論 ※特にIV章「住居管理と維持保全」 学芸出版社 1986
*巽和夫 編 現代社会とハウジング ※特にVI章「住居管理の思想と技術」 彰国社 1993
*玉置伸伍 編 地域と住宅 ※特に第III部「家賃問題と住宅管理」 頸草書房 1994
*北村君 他 住居管理学 朝倉書店 1970
*山崎古都子 住居の社会的管理に向けて 都市文化社 1998

はじめに
住宅管理の基本図書は、他の分野も同様であろうが、研究の発展過程や新しい住宅タイプの誕生と関わって生まれてきている。住宅タイプで見ると、木造戸建て、ついで賃貸RC集合住宅、分譲マンションとなる。また追求された研究テーマで見ると、まずメンテナンスの課題からマネージメントや生活管理の課題へと移っている。こういった歴史的な流れに沿って基本図書を挙げてみたい。

●新海文庫
住宅管理を考える場合、まず初めに住宅はいったい何年ぐらいもつものか、住宅の一生にはどんな過程があるのか、そんなことを理解しておくことが大事だ。その点で私は先輩から「新海文庫」を教えられた。戦後新しい住宅供給が始まるが、それは新しい住宅管理の始まりでもあって、住宅管理についての基礎的な研究が精力的に進められる。一連の調査研究のレポートが研究のリーダーであった新海悟郎氏の手元に残されるが、それらが建設省建築研究所の「新海文庫」となった。氏の著書として『家の寿命』(彰国社)がある。

●メンテナンスに関する図書
住宅の物的な維持管理(メンテナンス)は建築物一般に共通する課題であり、住宅管理の基本図書としてメンテナンスに関するものが含まれることとなる。新建築学大系の49巻に『維持管理』があり、日本建築学会の考え方を整理したものとして『建築物の耐久計画に関する考え方』『建築物の調査・劣化診断・修繕の考え方(案)・同解説』がある。
古典というと言い過ぎだろうが、小林清周の『ビルの維持管理』や飯塚裕の『建築維持保全』はいずれも住宅に関するものではないが、体系的に論じられている書だ。住宅に関するものとしては橋本正五『マンションのスラム化と維持管理』がある。

●共同住宅の管理
RC共同住宅の管理についての調査研究は1955年に発足した住宅公団によって積み重ねられるが、その中で共同住宅の歴史の長いヨーロッパ諸国の実態をまとめたものが、2冊の図書として出版される。有泉亨編『集合住宅とその管理』と『ヨーロッパ諸国の団地管理』である。出版されてから30数年の年月が経過しているからして、これらの書に書かれた内容は大きく変貌しているのであるが、それでも諸外国の様相をこのように体系的に紹介した書は見られないし、共同住宅の管理を考える上でどんなことが問題かを教えてくれる。
近代的な住宅管理のシステムがどのように形づくられていったかを理解するためには、英国におけるオクタビア・ヒルの実践史が欠かせない。彼女の住宅管理の経験から生まれた原則は英国の公的住宅管理の方法として現代に引き継がれ、わが国も含め諸外国に影響を与えている。E・Moberly BELL "OCTAVIA HILL"は彼女の伝記で、住宅管理システム形成の過程がわかる。英国の現代の住宅管理の理解のためには、John Macey "HOUSING MANAGEMENT"が基本図書となる。ここでいうハウジング・マネージメントの概念は、われわれが使う住宅管理より相当広い概念としてハウジング全般を対象にしているのだが、住宅管理とはなにかをオーソドックスに概念規定していると私は思っている。
わが国の共同住宅の管理研究を踏まえて、総括的に述べている「共同住宅の管理と維持保全」(『共同住宅』所収)は、初期の研究の成果をもとに書かれており、教えられるところが多かった。
住宅管理の中には住宅経営の側面が含まれ、特に賃貸住宅の場合、その側面は重要な部分を占める。住宅問題講座5『住宅経営』は住宅タイプ別の住宅経営、住宅管理の諸事項を整理している。賃貸住宅の場合、家賃は重要なテーマとなるが、案外整理された文献が見当たらない。そのような中にあって、大阪府住宅供給公社の賃貸住宅家賃を分析した『公社賃貸住宅の家賃に関する研究』は、公的賃貸住宅の家賃構成を示し、貴重な基礎的データを提供している。
団地やマンションでの生活体験から問題点を浮き彫りにした最初の書として、中村幸安『立体生活学入門』がある。その後、マンションなどの生活体験を踏まえて何冊か似た本が出るが、この本は早く書かれたのにもかかわらず、考察は深い。

●分譲マンション管理
分譲マンションが普及しだして、その管理問題がクローズアップされ、新たに住宅管理が社会的問題となったが、先駆的な図書には、問題を総合的にまた体系的に捉える努力が見られるものが多い。ジュリスト増刊総合特集『集合住宅 −居住性と維持・管理』はその後さまざまな形態で生まれてくる課題を予測するかのように論じられていて、今見ると興味深い。かなり早く公団の分譲集合住宅を中心に実態調査をまとめたものに『集合分譲住宅の管理と実際』がある。民間のマンションについては日本建築学会近畿支部住宅部会の『民間マンションの管理に関する研究』が最初だが、これは我々のグループが取り組んだ調査研究の報告書で、総合的に論点が提起されていて、その後の研究の糸口を示している。分譲マンションの理解を助ける書として小林清周『分譲マンションのすべて』も忘れられない。
メンテナンス面では総プロ研究の一環として取り組まれた『保全・耐久性向上技術の経済性評価手法』が、基礎的資料を整理し、保全計画指針に結び付けている。マンションの維持管理にかかわった建築家たちがまとめた『マンション百科』は住民に丁寧な解説をしているし、藤木良明『マンションのメンテナンス』も管理組合や居住者を意識している。
このようにマンションの管理問題は住民生活との接点が大切だが、関西のマンションの管理組合が編集した『居住者のマンション管理』は、マンションでの生活管理も含めて管理組合の多様な経験をまとめ、住民にとって良きテキストであるとともに、マンションの管理問題を理解する書となっている。
集合住宅の生活管理にかかわる基本図書というのはなかなか見当たらないが、日本人が鉄筋コンクリートのアパートに暮らし始めた頃出版された『コンクリート・アパートすまい方読本』は、住様式の顕著な転換時に暮らしの指導はどんなところに求められるのか、それを教え、生活管理を考えるのに参考となる。

●ハウジングの中の居住管理論
ハウジングは広い概念で、社会全体が住み手に快適な居住空間をいかにして提供し続け、快適な居住を確保するかを考えるが、ハウジングの中で建設・供給とともに管理は重要な部分を占める。住居管理住宅管理よりも居住者の生活や組織との関連を深めている。新建築学大系14『ハウジング』、巽和夫編の『現代ハウジング論』『現代社会とハウジング』、玉置伸吾編『地域と住宅』の中の該当章がこれに当たる。また教科書として北村君ほか『住居管理学』がある。
最後に戸建ての住宅管理について、最近、山崎古都子氏が書かれた『住居の社会的管理に向けて』を挙げておきたい。私は集合住宅の管理を研究しながら、戸建ての管理は問題がないのかと気になっていた。そして、戸建ての管理は補修や手入れの方法といったことが中心に語られてきたが、実はこの住宅タイプの管理を個人任せにせず、社会的に良質に長寿命に管理していく方法を考えることが極めて重要なことなのではないかと思うようになった。特に、阪神大震災以降はその念は強まった。そのような社会的な管理のシステムがわが国は大変弱い。そのことを本書は指摘している。
法律関連の図書は重要なのだが、ここでは省いた。また建て替えも管理の範囲と考えるべきなのだが、別の機会を期待して含めなかった。

梶浦 恒男(かじうら・つねお)
(『すまいろん』99年秋号転載)