住について考えるための基本図書 13
部品・構法の変遷に関する本

紹介図書 リスト (「*」が付いているものは図書室所蔵)

編著者名 タイトル 出版者 出版年
*真鍋恒博 図説・近代から現代の金属製建築部品の変遷 第一巻・開口部関連部品 建築技術 1996
大島隆一 建築構法や部品の変遷を対象とした既往研究に関する概要(日本建築学会関東支部研究報告集) 日本建築学会 1999
*日本建築学会 編 近代日本建築学発達史(復刊版) 丸善 1992(初版1972)
*日本建築学会建築経済委員会建材・部品産業史学術研究会 編 建材・部品産業史研究Vol.1・2 同研究会 1990
*日本建築学会建築経済委員会建材産業史小委員会 編 建材・部品産業史研究Vol.3 同委員会 1993
*日本建築学会建築経済委員会建材産業史小委員会 編 建材産業史4 日本建築学会 1994
日本建築学会関東支部研究委員会材料施工部会建築材料の生産史WG 編 建築材料の生産史に関する調査研究 −戦後における統計でみた仕上げ材の変遷 日本建築学会 1987
*空気調和・衛生工学会 日本建築設備年譜   1973
*空気調和・衛生工学会 空気調和・衛生設備技術史   1991
*大阪建設業協会 編 建築もののはじめ考 新建築社 1973(私家版1966)
*日本塗装工業会 編著 日本近代建築塗装史 時事通信社 1999
*土谷耕介 PC板プレハブ工法 技術書院 1974
*国立国会図書館参考書誌部 編 国立国会図書館所蔵社史・経済団体史目録 紀伊国屋書店 1986
大久間豊 サッシ変遷五十年譜 私家版 1983
*日新工業(株) 編 アスファルトルーフィングのルーツを探ねて 私家版 1984
瀧大吉 建築學講義録 建築書院 1906
中村達太郎 編 建築學階梯 米倉屋書店 1888〜1890
*建築資料協会 編 社団法人建築資料協会十五年史 −日本建築資料発達史 日満工業新聞社 1938
府立東京商工奨励館・建築資料会 建築資料   1924
*建築資料共同型録刊行会 編 建築資料共同型録   1925〜1926
*建築資料協会 編 建築土木資料集覧    
*日本建築学会 編 最近の建築材料 日本建築学会 1949
*中村達太郎 日本建築辞彙 丸善 1926
*建築学会 編 英和建築語彙 丸善 1919
*開国百年記念文化事業会、渋沢敬三 編 明治文化史生活編 原書房 1979(新装版)(洋々社1953)
大河原春雄 建築法規の変遷とその背景 −明治から現在まで 鹿島出版会 1982
生島芳郎 編 本邦主要企業系譜図集・総索引 神戸大学経済経営研究所・経営分析文献センター 1984

●変遷を記録すること
最近では登録文化財制度なども用意され、昭和初期以降の住宅も保存の対象とされることが多くなってきた。しかしこうした記録・保存の対象とされてきた住宅は、限られた階級の「お屋敷」的なレベルのものが殆どで、棟数の過半を占める全く普通の住居は、そこに有名人が住んでいたなどの「ドラマ性」がないかぎり、建物はおろか、設計図書ですら保存の受け皿がないのが現実である。
また、建築物全体の姿を記録・保存し後世に残していくことは重要であるが、建築物は多くの材料・部品類の集合体でもあり、これら材料・部品や構法の変遷が建築の近代化を支えてきた側面は、これまであまり評価されてこなかった。
このように、一般的な事物は、各時代のスタンダードであったにもかかわらず、あたりまえであるが故に記録に残されにくく、気づいた時には遅かりしということが多い。第二次世界大戦後の部品や構法ですら、関係者は次々に引退し、組織も変化し、これに伴い資料が減失しつつあり、もはや一刻の猶予も許されないところまできている。
真鍋恒博は、『図説・近代から現代の金属製建築部品の変遷・第一巻・開口部関連部品』において、「今後の建物の構法を考えるにあたっては、今日に至るまでの各部品の変遷およびその理由や必然性を把握する必要がある」とし、また変遷を記録することは「先人たちへの礼儀であり、これこそが<文化>というものであろう」と述べ、変遷研究の必要性を訴えている。

●これまでの変遷研究の成果を知る
これまでの変遷研究の概要と傾向は、大島隆一「建築構法や部品の変遷を対象とした既往研究に関する概要」(日本建築学会関東支部研究報告集)に示されている。また、一般財団法人住総研から助成中である「建築部品・構法の変遷に関する資料の保存とリスト化に関する研究」(主査:真鍋恒博、研究No.9826)では、既往研究データベースなどの整備をすすめており、来年公表される成果を参照されたい。

●学会での成果物
日本建築学会では、『近代日本建築学発達史』(日本建築学会編)において、材料・施工・構造などの変遷の概要をまとめている。ほかに、生産史の側面から『建材・部品産業史研究Vol.1〜3』および『建材産業史4』(Vol.1,2は日本建築学会建築経済委員会建材・部品産業史学術研究会編、Vol.3,4は同委員会建材産業史小委員会編)や、『建築材料の生産史に関する調査研究 −戦後における統計でみた仕上げ材の変遷』(日本建築学会関東支部研究委員会材料施工部会建築材料の生産史WG編)などがある。
また、空気調和・衛生工学会で『日本建築設備年譜』および『空気調和・衛生設備技術史』に設備の変遷を実例を含めて網羅しているように、学会では大なり小なり成果物があろう。

●市販の単行本
まず読むべきものは『建築もののはじめ考』(大阪建設業協会編)である。今でこそ「何々はじめて物語」などの類いが多く出されているが、この本はそれらの先がけといえる。大阪建設業協会会報の連載記事を単行本にまとめたもので、初版は1966年に私家版で出されている。建築材料は割栗石から始まって、施工法、度量衡、施工機材、果ては土木に至るまでの各変遷が、各業界の関係者によって簡潔に網羅されている。1960年代といえば高度成長の真っ只中であり、ともすれば古いものが捨てられがちな世相の中で、このような記録が当事者自身によってまとめられたことは奇跡的である。
ものの変遷を記録することで最も大切なのは、優れた一次資料の集積、専門家による資料の関連づけと変遷のストーリーの組み立て、それらを通じたインデックスの作成と資料の継続保管、の三点に尽きるであろう。すなわち、優れた変遷研究は、同時に優れた資料インデックスとなって然るべきなのである。その意味から、次の三冊を紹介したい。
『日本近代建築塗装史』(日本塗装工業会編著)には、塗装の起源からの通史はもとより、技術、仕様、価格や工賃、職人組織、さらには教科書などの教育にいたる各変遷が詳細に網羅されており、巻末には年表や実例も示されている。また、本書を通じて、変遷の切り口や、各資料から得られる情報の種類を学ぶことができる。ただ文献リストが整理されていないのが残念である。
『PC板プレハブ工法』(土屋耕介著)は、工法の変化、生産プロセス、品質管理、組織・コミュニケーション論までを包括して著したもので、当時のPC工法開発の状況をトータルに把握することができる。また、豊富な図版類や、巻末に付された参考文献リストは、PC工法の変遷を知るうえで今日なお貴重な資料となっている。
前出『図説・近代から現代の金属製建築部品の変遷』は、著者が昭和58年度から継続してきた変遷史研究の成果であり、開口部関連部品と構法の変遷を、オリジナルから忠実に起こした豊富な図版とともに示している。参考文献も全て明示され、一次資料のインデックスとしても貴重である。続く第二巻の発刊が待たれる。

●「内田賞」のこと
「内田賞」は、内田祥哉先生の東大退官の際に創設された賞で、「建築における事績で、構法に関する技術開発に対する影響が顕著であったものを評価すると共に、その内容を記録することによって、建築の進歩と社会の発展に寄与すること」を目的としている。これまでの事績は、「目透し張天井板構法」(ディテール98号掲載)、「プラスティックコーン式型枠緊結金物」(同106号)、「床上配管システム」(同111号)、「木造住宅用引き違いアルミサッシ」(同117号)、「洗い場付き浴室ユニット」(同122号)、「磁器・せっ器質タイル張り外装」(同128号)、「プレカット加工機械」(同135号)であり、それぞれに開発と普及の経緯がまとめられている。このように、建築物や開発者でなく、一般に広く普及した技術やもの自体を対象にしたところにこの賞のユニークさがあり、顕彰に伴う調査と公表を通して、わが国の技術開発史を後世に遺そうという狙いがある。現在のところ、「内田賞」に触れることができる資料は、私家版の報告書と雑誌記事だが、このような貴重な成果はぜひまとまった形で出版していただけることを願う。

●企業・業界による記録の試み
変遷資料の定番、社史・業界史を探すには、主要な図書館で『国立国会図書館所蔵社史・経済団体史目録』(国立国会図書館参考書誌部編)などの目録をまず探すとよい。
企業人が自身の仕事を振り返ってまとめたものは私家版が多いが、当事者による記録という点で貴重である。ただ、『サッシ変遷五十年譜』(大久間豊著、私家版)や『アスファルトルーフィングのルーツを探ねて』(日新工業(株)編、私家版)などのように、製品や構法自体の変遷を中心にまとめたものは少なく、また「資料として有用な形にまとめ上げる」ためにはそれなりの技術が必要で、この類いの本は得てして参考文献が不明であったり出典が不明瞭なものが多いことに気を付ける必要がある。

●材料の本・カタログ類
材料の変遷はそれこそ古代まで遡るが、工業製品として量産化されてからの変遷に限れば、『建築學講義録』(瀧大吉著)や『建築學階梯』(中村達太郎編)あたりが黎明期の資料であろう。
われわれが今日利用しているような建材総合カタログは戦前からあり、これらを時系列的に眺めることも変遷を知る手助けとなる。戦前は建築資料協会の活躍が大きい。同協会の変遷は『社団法人建築資料協会十五年史 −日本建築資料発達史』(建築資料協会編)でわかる。
わが国では、関東大震災後の復興にあたって、総合カタログとしては古参であるイギリスのSweet's catalogを手本につくられたのが始まりである。『建築資料』(府立東京商工奨励館・建築資料協会)から始まり、『建築資料共同型録』(同刊行会編)、その後の『建築土木資料集覧』(建築資料協会編)へとつながる。また、戦後混乱期の資料には『最近の建築材料』(日本建築学会編)などがある。
その他、仕様・施工・見積便覧やそれらの実例集など、きりがないので割愛する。

●辞書
筆者も現代人、古書の解読には苦労しており、『日本建築辞彙』(中村達太郎著)や『英和建築語彙』(建築学会編)などをよく使うが、辞書もこれだけ古いと読み物として十分面白い。

●変遷の背景を考える本
変遷の背景を考えるためには、世の中の変化全般について広く興味を持つことが必要である。『明治文化史・生活編』(開国百年記念文化事業会/渋沢敬三編)など、民俗学分野での成果を材料・部品・構法という観点で読み返してみることも面白い。
建築関連法規の変遷は『建築法規の変遷とその背景 明治から現在まで』(大河原春雄著)にまとめられている。
また、企業というものは離合集散するから、変遷に関連する企業・団体の系図を把握しないと、技術開発の流れを再現できない。そういった意味では、たとえば『本邦主要企業系譜図集・総索引』(生島芳郎編)のように、経済学でも変遷を扱う分野があることを申し添えたい。

●さいごに一言
以上のように、変遷に関する情報を得るためには、古今東西の貴重な資料を横断的に眺めることが必要である。したがって、ここにあげた本は、基本図書というよりも、あくまで数多くの一次資料を辿るためのきっかけとして紹介したものであることを断っておきたい。
また、一次資料の多くは企業に一冊しかないカタログや保存部数の少ない古書であるから、閲覧には何とぞ細心の注意をお願いしたい。建築学会図書館も、以前は古書の複写は謝絶されたが、最近は本を上向きに置いて複写できる機械が導入され、複写にも応じるようになった。厚綴じに限らず、本を伏せて複写すると確実に傷むので、図書館にはこのタイプの複写機を必ず備えていただきたいものである。
ただし何より優先されるべきは、部品や構法の開発と普及にかかわった方々が亡くならないうちに、きちんと話を聞き、ヒアリングメモを書き起こしておくことである。これに勝る資料はない。

加藤 雅久(かとう・まさひさ)
(『すまいろん』99年夏号転載)