住について考えるための基本図書 11
都市計画の本

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編著者名 タイトル 出版者 出版年
*日笠端、日端康雄 都市計画 第3版 共立出版 1998
*都市計画教育研究会 都市計画教科書 第2版 彰国社 1995
*住環境の計画編集委員会 住環境を整備する(住環境の計画5) 彰国社 1991
*石田頼房 日本近代都市計画の百年 自治体研究社 1987
*藤森照信 明治の東京計画 岩波書店 1982
*越沢明 東京の都市計画 岩波書店 1991
*日本都市計画学会 近代都市計画の百年とその未来 日本都市計画学会 1988
*高山英華 私の都市工学 東京大学出版会 1987
*L・ベネヴォロ(横山正 訳) 近代都市計画の起源 鹿島出版会 1976
*L・ベネヴォロ(佐野敬彦、林寛治 訳) 図説都市の世界史1〜4 相模書房 1983
*E・ハワード(長素連 訳) 明日の田園都市 鹿島出版会 1968
渡辺俊一 アメリカ都市計画とコミュニティ理念 技報堂出版 1977
*C・Aペリー(倉田和四生 訳) 近隣住区論 鹿島出版会 1975
*K・リンチ(丹下健三、富田玲子 訳) 都市のイメージ 岩波書店 1968
*奥平耕造 都市工学読本 −都市を解析する 彰国社 1976
ブキャナン(八十島義之助、井上孝 訳) 都市の自動車交通 鹿島出版会 1965
*E・ベーコン(渡辺定夫 訳) 都市のデザイン 鹿島出版会 1968
*渡辺定夫 アーバンデザインの現代的展望 鹿島出版会 1993
*下総薫 イギリスの大規模ニュータウン 東京大学出版会 1975
*原田純孝他 現代の都市法 −ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ 東京大学出版会 1993

人びとは「都市計画」という言葉から何を思い起こすのであろうか。世界都市博覧会の中止にも関わらず、休日になると賑わう「臨海副都心」や、同様にウォーターフロントに展開されている「みなとみらい21」であろうか。あるいは「多摩ニュータウン」や「つくば研究学園都市」のような丘陵地や農地を新しい都市に変えていく動きであろうか。それとも阪神・淡路大震災で明らかになった密集市街地の形成過程における「都市計画」の不在と、それを少しずつ改善していこうとする「まちづくり」の動きだろうか。もちろん、そのいずれもが「都市計画」の対象とする領域であり、それはとりもなおさず「都市計画」が多義的・重層的な概念であることを示している。近年、「まちづくり」という言い方が加わり、「都市計画」が身近なものになったように感じる反面、多義性がいっそう増したようにも思われる。

●都市計画の教科書
「都市計画」って何だろう?と素朴な疑問に答える本としては、まず標準的な教科書を挙げることができるだろう。大学の教科書として最も多く使われていると思われるのは、日笠端・日端康雄『都市計画(第三版)』で、1977年の初版以来9万部発行されたというベストセラーである。本書は昨年亡くなられた日笠端氏の単著であったが、生前の日笠氏の意向で日端康雄氏が共著者に加わり、これまでと同様にきめ細かい改訂が続けられることになった。本書の特徴は、地区レベルの計画・設計を詳しく取り上げている点にあるが、反面、都市計画制度や幹線道路・鉄道・港湾といった都市の基本的施設の計画に関する記述がやや少ない。
もう一冊の定番教科書は、都市計画教育研究会編『都市計画教科書(第二版)』で、こちらは建築系・土木系・造園系のバランスがほどよく保たれている点に特徴がある。都市の現状分析と将来予測のための数理的手法や第三世界の都市計画などへの目配りもいき届いている。この他、住環境の計画編集委員会編『住環境を整備する(住環境の計画5)』は、住居と一体の近隣空間の整備に関して、関西を中心とした1980年代までの取り組みが手際よく整理され、質の高い教科書になっている。『住環境の計画』シリーズは改訂が進められており、この第5巻も阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた改訂版が出版されるだろう。

●都市計画の発展
通常われわれが「都市計画」と呼んでいるのは、19世紀後半以降に成立した近代都市計画システムのことで、法による土地利用の規制・誘導と公共施設プランを通じて市街地開発をコントロールしようとする仕組みである。わが国では1888年の東京市区改正条例をもってその成立とする見方が有力で、今年で110年が過ぎたことになる。石田頼房『日本近代都市計画の百年』はその通史としてよくまとまった読みやすい本である。藤森照信『明治の東京計画』には、市区改正に至るまでの間に焦点をあてた、封建都市江戸を近代都市東京につくりかえるドラマが描かれている。一方、越沢明『東京の都市計画』は事業面からみた東京の都市計画史であり、「ここはこんなふうにしてできたのか」がわかって楽しい。
また10年前に、都市計画百年を記念して編まれた日本都市計画学会編『近代都市計画の百年とその未来』は、豊富なカラー図版を含み、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、アジアとの比較の中で日本の都市計画を位置づけた貴重な資料集である。ちょっと変わったところで、高山英華『私の都市工学』を挙げておこう。東大の都市工学科創設を主導された高山先生は、戦後日本の都市計画史の生き証人であり、本書ではそれらを縦横に語る高山節に接することができる。
海外の都市計画の発展に関する図書は多いが、その中で、L・ベネヴォロ『近代都市計画の起源』は、近代都市計画の成立に寄与した19世紀前半の英仏の空想社会主義者たちの主張と行動に多くの頁を割いている点に特徴がある。なお、同著者による『図説都市の世界史』は近代以前の都市も含み、資料的価値が高い。E・ハワード『明日の田園都市』は一度は読んでおきたい都市計画の古典である。渡辺俊一『アメリカ都市計画とコミュニティ理念』は、単なるアメリカ都市計画の紹介ではなく、ある社会の都市計画システムとそれを生み出す背景との関係についての学術研究書であり、都市計画研究の面白さを教えてくれる。本書で1章を割かれているC・A・ペリー『近隣住区論』は翻訳で読むことができる。住宅地計画の古典である本書は、コミュニティの物的側面に慎重に議論をとどめることによって、近隣住区を国際的に流通する普遍的モデルたらしめたともいえる。

●分野別の計画論
都市計画には多くの部門別分野がある。都市の把握という分野に関しては、K・リンチ『都市のイメージ』と奥平耕造『都市工学読本:都市を解析する』を挙げておこう。前者は、都市の使い手にとっての都市の認識構造を読み明かそうとした先駆的著作であり、後者は計画への応用を前提に都市を数理的に解き明かす手法を紹介したものである。交通計画分野においては、住宅地の環境を守るための道路の階層性や総合交通体系を提案し、今日の都市交通計画の基礎をつくったブキャナン『都市の自動車交通』が古典としての輝きを保っている。
アーバンデザイン分野では、E・ベーコン『都市のデザイン』を古典とすれば、渡辺定夫編著『アーバンデザインの現代的展望』が、今日の日本における事例を詳細に紹介することを通じてアーバンデザインの問題を考えさせてくれる。ニュータウン開発は、ハワードの田園都市を出発点とし、戦後世界各地に伝搬した都市計画システムであるが、下総薫『イギリスの大規模ニュータウン』は、1960年代まで住宅地開発の世界的リーダーシップをとった英国におけるニュータウン開発の背景と展開を独自の語り口で明らかにしている。法制面に関しては、原田純孝他編著『現代の都市法 ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ』が充実している。欧米の都市計画関連制度のパースペクティブを得たい人は必読であろう。
分野別の計画論は、これ以外にも数多くあり、「まちづくり」に関わる住民参加論など今後重要性を増す分野を取り上げることができないのは残念であるが、これは別にまとめて扱う機会を設けたい。以上では比較的オーソドックスな選書としたが、都市計画も曲がり角にあることは間違いない。これらを読み返す中から新たな展望を得ていただきたい。

大江 守之(おおえ・もりゆき)
(『すまいろん』99年冬号転載)