住について考えるための基本図書 10
建築環境と地球環境

紹介図書 リスト (「*」が付いているものは図書室所蔵)

編著者名 書名 発行所 発行年
(1)渡辺要 建築計画原論I 丸善 1962
(2)渡辺要 建築計画原論II 丸善 1963
(3)渡辺要 建築計画原論III 丸善 1965
(4)*木村健一 建築設備基礎理論演習 学献社 1970
(5)*木村健一 建築環境学1・2 丸善 1992
(6)*環境工学教科書研究会 環境工学教科書 彰国社 1996
(7)*Olgyay.V、Olgyay.A Solar control & shading devices Princeton Univ. Press 1957
(8)*Olgyay.V Design with climate Van Nostrand Reinhold 1992
(9)*シム・バンダーリン、スチュアート・コーワン(林明男 訳) エコロジカルデザイン ビオシティー 1997
(10)*Solar energy research institute The design of energy-responsive commercial buildings Wiley Interscience 1985
(11)寺田寅彦 さまよえるユダヤ人の手記より(寺田寅彦全集第三巻)/涼味数題(寺田寅彦全集第三巻) (『思想』1929年9月初出)/(『週刊朝日』1933年8月初出) 1997
(12)*谷崎潤一郎 陰翳礼賛(谷崎潤一郎随筆集) 岩波書店 1985
(13)*藤井厚二 日本の住宅 岩波書店 1928
(14)高田誠二 熱エネルギーのお話 日本規格協会 1985
(15)*槌田敦 熱学外論 −生命・環境を含む開放系の熱理論 朝倉書店 1992
(16)*押田勇雄、藤城敏幸 熱力学 裳華房 1970
(17)*山本義隆 熱学思想の史的展開 −熱とエントロピー 現代数学社 1987
(18)押田勇雄 「エクセルギー」のすすめ −熱力学の革命がはじまっている(講談社ブルーバックス) 講談社 1988
(19)押田勇雄 エクセルギー講義 太陽エネルギー研究所 1986
(20)*Atkins P. W. The 2nd law - energy, chaos, and form Scientific American Books 1994
(21)*Zemansky M. W, Dittman R. H Heat and thermodynamics McGraw-Hill 1981
(22)中村桂子 生命科学(講談社学術文庫) 講談社 1996
(23)マーロン・ホーグランド、バート・ドッドソン(中村桂子、中村知子訳) Oh! 生き物 三田出版会 1996
(24)沢田允茂 考え方の論理(講談社学術文庫) 講談社 1976
(25)*沢田允茂 論理と思想構造(講談社学術文庫) 講談社 1977
(26)*沢田允茂 言語と人間(講談社学術文庫) 講談社 1989
(27)*沢田允茂 哲学の風景 講談社 1997
(28)Lovelock. J The ages of GAIA - a biography of our living earth Norton 1991
(29)*Lovelock. J GAIA - the practical science of planetary medicine GAIA BOOKS 1991
(30)*小原秀雄、下谷二助 きみのからだが地球環境 1〜5巻 農文協 1995
(31)*野沢正光、小玉祐一郎、團山彬雄、槌屋治紀、福島俊介 居住のための建築を考える(シリーズ土曜建築学校1) 建築資料研究社 1994
(32)*奥村昭雄 パッシブデザインとOMソーラー(シリーズ土曜建築学校2) 建築資料研究社 1995
(33)*長谷川敬、村田徳治 「消費する家」から「働く家」へ(シリーズ土曜建築学校3) 建築資料研究社 1996
(34)*中村由行、岩村和夫、小谷部育子、延藤安弘、卯月盛夫 共に住むかたち(シリーズ土曜建築学校4) 建築資料研究社 1997

※本文中の(番号)は上段のリスト番号に対応

人間にとっての「環境」とは、私たち人間を取り巻く"もの"や"こと"のすべてである。私たち人間は、1日24時間のうちの少なくとも8〜10時間を、場合によっては丸々24時間を建物の中で過ごす。建物の中にいる私たちは、壁や窓・床・天井のほか、家具やさまざまな機器に囲まれている。このように建築を構成する"もの"によって区切られた部分の環境を、私たちは一般に「建築環境」と呼ぶ。
地球表面に棲息している人間を含む動物、そして植物・微生物についての知識、地球の地質学的・気象学的活動についての知識などが、20世紀の科学・技術の発達によって飛躍的に増加した。その結果、私たち人間は、地球という大きな環境に囲まれて生きていることを多かれ少なかれ認識するようになってきた。これを「地球環境」と呼んでいるわけである。
「建築環境」は、「地球環境」の内側に存在する。「建築環境」と「地球環境」の間には、「都市環境」や「地域環境」など、境界線の設け方次第でいろいろな大きさの環境を考えることができる。「建築環境」のような小さな環境は、「地球環境」のような大きな環境にはあまり関係がなさそうに思えるかもしれない。しかし、21世紀の半ば過ぎには百億を越えようかという勢いで人口が増加しつつある人間が、これまたたいへんな勢いで「地球環境」のなかにある資源を消費し、廃物や廃熱を「地球環境に」捨てて活動していることを考えると、「建築環境」を「地球環境」と関連させて議論するのは大切だと思う。資源のかなりの部分が、「建築環境」をつくり、それを維持するために消費されることになるからである。

筆者は20年ほど前に建築環境工学の世界に身を置くようになり、光と熱に関わる問題を中心に研究を始めたが、そのころは、「建築環境」と「地球環境」を比較してみよう、あるいは両者につながりを見出してみようなどとは考えなかった。ところが、今に至ってそんなことを考えるようになった。そのように筆者の考えが発生・展開してきたのである。筆者の考えが拡がり展開していくのに影響した書物をいくつか紹介してみよう。これらは、「建築環境」と「地球環境」を考えるための、いま現在の筆者が考える基本図書である。

「建築環境」がどんな状態にあるかを、私たちは五官・五感によって知覚する。五官は、耳・目・皮膚・鼻・口、五感は聴覚・視覚・触覚・臭覚・味覚である。五官に対する刺激は、音・光・熱・空気・水といった「建築環境」を構成する要素である。これら物理的な要素の振る舞いをどう扱うかを、建築計画のための科学的基礎「建築計画原論」として体系的にまとめた(1)〜(3)が、筆者にとって建築環境工学の世界への入門書だった。
「建築計画原論」は、今日までのあいだに照明や暖房・冷房・換気などの建築設備技術の基礎的学問としての役割をも担うように、というよりは主要な役割をそちらの方に移すようになって、一般に「建築環境工学」と呼ばれるようになって久しい。他の諸科学の分野と同様に、建築環境工学は、分科の学として著しく発展してきた。この間に、「環境」や「設備」を書物のタイトルの一部に冠した教科書は、(4)〜(6)に示すもののほか数多くある。
「建築環境工学」の教科書は、光・熱などの建築環境の要素のそれぞれについて、羅列的な記述をしていることが多い。定説となっている知識をできるだけ多く盛り込むことに重点が置かれているからだ。それに対して、環境要素と計画を結びつけることに重点を置いて著されたものとして重要なのが、(7)(8)だと思う。最近に著わされた(9)なども同様の意味で重要だと思う。(10)も参考になる。(11)(12)などは「建築環境」とは何かを再考するためにとても良いし、関連して(13)などに述べられたことを改めて掘り起こすことも重要だろう。

筆者は、「建築環境」を良好な状態にするための建築的・機械的・電気的仕掛けを総称して、「建築環境システム」と呼ぶことにしている。この建築環境システムが働くには、<流れ>と<循環>の存在が重要である。そのことが認識できるようになったのは、筆者の場合、熱力学と生物学の書物を素人なりにひもといたからだ。熱力学と生物学は、筆者にとっての「建築環境工学」を「建築環境学」へと、閉じた世界から開かれた世界へと導いてくれたといっても過言ではない。
熱力学は、抽象性の高い学問で、なかなか取っ付きにくい領域ではあるが、扱う対象の多くが、実は私たちの誰もが日常的に体験できる現象であって、わかろうとする気持ちさえ持続すれば必ず理解できる。ここでは、数多い熱力学の書物の中で、(14)〜(21)を挙げておきたい。筆者は、熱力学の世界にかなり深入りしてみたが、そうしたところ、エネルギーやエントロピーのほか、エクセルギーと呼ばれる重要な概念が次第にきちんとつかめるようになって、以前には気づかなかったことに気づくようになった。
生き物の振る舞いに興味がでてきたのは、熱力学がわかり始めてからのように思う。生物学の書物を素人がひもとくのは、熱力学と同じように骨の折れることではあるが、「建築環境システム」がどのようにして成り立つのかを考えるうえではやはり重要である。ここでは、読みやすくしかも内容が広くかつ深い(22)(23)を挙げておきたい。

「建築環境」の要素である光や熱は、私たちが直接知覚できるけれど、「地球環境」は、私たちが直接知覚できる対象ではない。「地球環境」はあくまで、私たちの頭(心)の中で認識されるものである。認識は「ことば」によって行なわれるから、論理・言語といったことについて考えることは大切だ。そのために役立つ書物として(24)〜(27)を挙げたい。
筆者の場合、熱力学や生物学を素人なりにひもとくことで、筆者の<認識の風景>の中に「地球環境」が入ってきたように思う。そうして、例えば(28)〜(30)に目を通してみると、そこに述べられていることが腑に落ちてくるように思えた。
<認識の風景>が豊かになって、いま一つ思いを巡らすようになったことは、私たち人間が「地球環境」に備わっている仕組みをうまく利用した「建築環境システム」をつくっていくには、住まい手と住み手、住まい手とつくり手、つくり手とつくり手の豊かな関係性をつくっていくことが如何に大切かということだ。そのことが視野に入ってくると、(31)〜(34)に述べられていることの大切さがわかってくるように思う。

宿谷 昌則(しゅくや・まさのり)
(『すまいろん』98年秋号転載)