住について考えるための基本図書 1
住居計画の本

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編著者名 書名 発行所 発行年
*L・コルビュジェ(坂倉準三 訳) 輝く都市 −都市はかくありたい 丸善 1956
*西山夘三 これからのすまい −住様式の話 相模書房 1947
*池邊陽 すまい(岩波婦人叢書) 岩波書店 1954
*吉阪隆正 ある住居 相模書房 1960
*S・シャマイエフ、C・アレキサンダー(岡田新一 訳) コミュニティとプライバシー 鹿島出版会 1967
*西山夘三 住宅計画 勁草書房 1967
*P・ブードン(山口知之 他訳) ル・コルビュジェ −ペサック集合住宅 鹿島出版会 1976
*鈴木成文 集合住宅 住戸(建築計画学6) 丸善 1971
*O・ニューマン(湯川利和 他訳) まもりやすい住空間 −都市設計による犯罪防止 鹿島出版会 1976
*E・グランジャン(洪悦郎 他訳) 住居と人間 −住居における人間工学的基礎データ 人間と技術社 1978
*鈴木成文 他 集合住宅 住区(建築計画学5) 丸善 1974
*宮脇檀 編 日本の住宅設計 −作家と作品 その背景 彰国社 1976
*GLC 編(延藤安弘 監訳) 低層集合住宅のレイアウト 鹿島出版会 1980
*D・ハイデン(野口美智子 他訳) 家事大革命 −アメリカの住宅、近隣、都市におけるフェミニスト・デザインの歴史 勁草書房 1985
*R・J・ローレンス(鈴木成文 監訳) ヨーロッパの住居計画理論 丸善 1992
*N・ウェイツ、C・ネヴィット(塩崎賢明 訳) コミュニティ・アーキテクチュア −居住環境の静かな革命 都市文化社 1992
*鈴木成文 住まいの計画住まいの文化(鈴木成文住居論集) 彰国社 1988
*神谷宏治 他 コーポラティブ・ハウジング 鹿島出版会 1988
*佐藤滋 集合住宅団地の変遷 −東京の公共住宅とまちづくり 鹿島出版会 1989
*日本建築学会 編 集合住宅計画研究史 日本建築学会 1989
*黒沢隆 近代・時代のなかの住居 −近代建築をもたらした46件の住宅 リクルート出版 1990
*I・コフーン、P・フォーセット(湯川利和 監訳) ハウジング・デザイン 鹿島出版会 1994

「住居計画」は単なる設計の前段階という意味ではない。それは、必ずしもその時々において確立された理論に基づいて行なわれてきたのではなく、少数派の主張であったり、場合によっては痛烈な批判に曝されたりもしてきた。もちろん、ここでは「計画」の普遍性と体系化を目指して、今日において重要な位置づけを占めるに至った名著を誌面の限り取りあげたいと考えている。しかし、私は「計画」という言葉には、「慣習との闘い」という猛々しさと危うさが運命的につきまとうのではないかと思う。普遍性のために「住居計画」を中立化して、何と「闘って」いるのかを意識しなければ、その本来の意味は読みとれない。それ故、この解題も個々の著書の内容よりも、むしろその背景を中心に述べたいと思う。個々の著書と読者自身の接し方こそが大事だと考えるからである。また以上の考え方から、ここでは住居の設計・建設とその主張、住居の調査・研究のまとめ、住居にかかわる市民運動やユーザー参加の記録などをすべて「住居計画」として広く捉えることにしたい。

住居計画は、近代建築運動を抜きにして考えることはできない。しかし同時に、二度の大戦により、多くの一般市民の住居が失われたという現実が、新しい建築の潮流に勢いを与えたという事実も見逃せない。廃墟の前に立つ人びとにとって科学技術は、古い様式を乗り越え平和と繁栄をもたらす力であり、一つの手段であった。コルビュジェ『輝く都市 都市はかくありたい』は、その理念を記した代表的著書である。宮脇『日本の住宅設計 作家と作品−その背景』や黒沢『近代・時代の中の住居 近代建築をもたらした46件の住宅』は、住宅建設の歴史を通観して住居計画の展開を明らかにした好著であるが、やはり近代建築運動が全体を位置づける中心となる。またブードン『ペサック集合住宅』は、コルビュジェの建設した集合住宅を、後日、住み手の側から見た異色の一冊である。一方、同時代の日本の建築家の著書としては、池邊『すまい』が科学的に住居を考えることを一般向けに説き、吉阪『ある住居』が自邸の建設理念を小論として記していることが、それぞれに近代建築運動の受け取り方の違いも感じられ興味深い。

日本の近代化は、西洋的な生活様式や価値観の浸透と古い住宅形式との相克という特殊性をもっていた。特に家における個の確立は、戦後民主主義の考え方と相まって、間取りのつくり方を住居計画の中心的課題として据え付けた。西山『これからのすまい』は、戦後日本の住居計画の原点といえるが、戦前の居住調査に基づいて庶民の立場にたった新しい住宅のあるべき姿を説いている。戦前の生活様式を一掃するために、当時の調査研究のまとめは強い威力を発揮したと思われる。その後の庶民住宅は、調査研究と並行して公共住宅の設計・建設が進められることで変化していった。その経緯は、西山『住宅計画』や鈴木『建築計画学6 集合住宅 住戸』から知ることができる。
一方、近代以降の住居計画に対する最も大きな批判と反省は、それがコミュニティの形成に何ら寄与せず、むしろ阻害をしているという点であった。シャマイエフほか『コミュニティとプライバシー』やニューマン『まもりやすい住空間 都市設計による犯罪防止』には、コミュニティの必要性とその計画理論が述べられている。鈴木ほか『建築計画学5 集合住宅 街区』は、その調査研究として先駆的であり、GLC編『低層集合住宅のレイアウト』は、コミュニティ形成に配慮した日本のタウンハウス設計にも大きな影響を与えた。さらに、ウェイツほか『コミュニティ・アーキテクチュア 居住環境の静かな革命』や神谷ほか『コーポラティブ・ハウジング』は、居住者の直接参加による住宅建設やコミュニティづくりについての記録である。また佐藤『集合住宅団地の変遷 東京の公共住宅とまちづくり』は、戦前戦後につくられた公共住宅のコミュニティの今後を考える上で示唆的である。

この他、グランジャン『住居と人間 住居における人間工学的基礎データ』のように住宅を居住性能として表そうとする考え方、ハイデン『家事大革命 アメリカの住宅、近隣、都市におけるフェミニスト・デザインの歴史』のようにフェミニズムから見た住居なども、住居計画を考える上では重要な視点であった。

住居計画は、個別性や地域性といった概念をも取り入れて進展をしてきた。その経緯は鈴木『住まいの計画住まいの文化 鈴木成文住居論集』に詳しい。日本建築学会編『集合住宅計画研究史』は、日本における住居計画研究の到達点を、ローレンス『ヨーロッパの住居計画理論』やコフーン『ハウジング・デザイン』は、ヨーロッパにおける住居計画研究の到達点をそれぞれ総覧するものと考えられる。しかし、すべてが充足したかに思え、住居計画が闘うべき相手が明確にされない今日、なぜ研究という手段がなおも必要なのか。その答えを見いだすことができるか否かが、ここで取り上げた著書との重要な接し方ではないかと私は思う。

横山 勝樹(よこやま・かつき)
(『すまいろん』96年夏号転載)