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第94回すまいろんシンポジウム 2020年10月13日(火)14:00~17:00

『郊外暮らしの再発明』 終了しました。

産業革命後のイギリスやアメリカでは,“生産”の場としての都市が発展した。小規模な作業所から大規模な工場まで様々な生産拠点が都市に集積し,多くの労働者も各地から移り住んだ。その結果,都市とは,ばい煙にまみれながら劣悪な住居で密集しながら暮らす,極めて住み心地の悪い場所となってしまった。

19世紀末のアメリカでは,馬車鉄道に変わって,電気を用いた路面電車が登場した。そこで,労働者の中から,劣悪な環境の都市を離れてその外側で住宅を購入する人たちが現れ,”ストリートカーサバーブ”が誕生した。さらに20世紀になると,都市の外周部には高速道路網が整備され,自動車が普及していく。幹線沿いには,ガソリンスタンドやモーテルなどが建ち始め,後にはロードサイドのチェーン店や巨大なショッピングモールが消費の場となっていく。

こうして,都市から離れた場所にマイホームを購入し,都心の職場に満員電車や渋滞道路を我慢しながら毎日通勤して,週末には家族でショッピングモールに買い物へ出かける,そんな新たなライフスタイル=「郊外暮らし」が発明され,「郊外の世紀」と言われる20世紀のアメリカで,さらにはそれを後追いするように高度経済成長期の日本で,多くの家族にとっての夢の住処となっていったのである。

しかし,21世紀に入って,このような“生産”の場である都市と“消費”の場である郊外の関係は,大きく変質した。20世紀の各国の発展を支えていたマンチェスターやデトロイト,北九州市などの重工業都市が衰退していく一方で,工業化に乗り遅れていたポートランドや福岡市などがスタートアップ都市として発展をしていく。それを支えているのは,「ミレニアル世代」と呼ばれるインターネットネイティブな若い世代であり,リチャード・フロリダが「クリエイティブ都市」と命名したような,多様な人が集い異文化に寛容で創造性に富む都市へと集まってくる。脱工業化した都市においては,郊外へ退避するメリットはなくなり,むしろ仕事と生活が切れ目なく連続するような新たなライフスタイルの場として,刺激や魅力に満ちた街なかでの暮らしが求められるようになる。特に日本では,規制緩和の影響もあって,退屈な郊外に代わって都心のタワーマンションが新たな夢の住まいとなっていった。

一方で,高度経済成長期に日本中で開発された郊外住宅地では,高齢化が進む一方で子世代は帰ってこないため,空き家・空き地が増加しつつある。これから人口がさらに減少し続ける日本において,郊外は,もしかしたら1世代限りで“使い捨て”られてしまうかもしれない。

無理に郊外を“再生”する必要はない。元の林や森に返る地域もあっていいだろう。ただし,団塊世代がサラリーマン人生をかけてローンを組み,造成費用から住宅の建設費までの一切を負担して生み出してくれたニュータウン。それが,現在では非常に安価で空き家を借り,ときには無償で空き地を使わせてもらえる。DIY精神で自ら場を生み出すポテンシャルを持っている人たちにとって,これほど“美味しい”場所はない。

今回の特集では,そんな空き家を使って,家具工房でものづくりをしたり,居場所のない子供のたまり場を設けたり,小商いのスタートアップカフェで地域の母親を支援したりしながら,街なかとは異なる多様性,寛容性,クリエイティビティを郊外で創出している担い手たちとともに,ディスカッションを行いたい。

特に,ウィズコロナの状況下でテレワークが本格化している現在,都心で密集しながら働き暮らすこと,あるいは毎日通勤することの意味が改めて問い直されている。まさに,郊外を単なる“消費の場”ではなく,新たな価値や魅力を生み出しながら暮らす“クリエイティブな場”とする好機,あるいは最後の機会といえよう。

新しい時代の“郊外暮らし”を,我々の手で再発明していこう。


企画:柴田建(大分大学/住総研すまいろん編集委員)

主催:一般財団法人 住総研

第94回すまいろんシンポジウム 『郊外暮らしの再発明』

主催
2020年10月13日(火)
14:00~17:00
日時
ZOOMによるオンライン開催・参加費無料
参加費
60名
定員
柴田建(大分大学)
注意事項
吉浦隆紀(吉浦ビルオーナー・株式会社樋井川村村長)「住みてのクリエイティビティ:DIY賃貸から街のDIYへ」
片山健太(自然と暮らしの学校『てつなぐ』代表)「坂の上の子どものたまり場」
豊田規秀(チューイチョーク株式会社代表)「米軍住宅リノベから理想の街づくりへ」
吉田啓助(東邦レオ株式会社 クリエイティブグリーン事業部統括責任者)「ラボ拠点から始まる郊外型エリアマネジメント」

※講演者等は変更になる場合がございます。
申し込み
本シンポジウムは、「Zoom」を用いたオンライン配信で開催します。(参加無料)
下記の申込フォームからご登録いただいた方に、オンライン参加用のリンクを後日お送りいたします。(定員60名:先着順)
問合せ
一般財団法人 住総研
e-mail sumairon★jusoken.or.jp (★は@(半角)に変えて下さい。)
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-12-2 朝日ビルヂング2階
TEL:03-3275-3078/FAX:03-3275-3079

このシンポジウムの内容は、2021年2月発行予定の『すまいろん』(No.108)に掲載予定です。

会場

みどりto ゆかり(千葉県市川市塩浜4-2-3ハイタウン塩浜)

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