蔵書探訪・蔵書自慢 2
工学院大学図書館の自慢話

新宿駅から歩いて5分。
 不動産屋の広告ではありません。工学院大学の場所です。そんな便利なところに,図書館があります。ぜひご利用ください。
 工学院大学は工学系の大学ですが,学園として120年近い歴史があり,工学に関した一般書籍,雑誌の蔵書には誇るものがあります。なかでも自慢できるものに,「ヒッチコック・コレクション」「今和次郎コレクション」があります。
 「ヒッチコック・コレクション」は,1978年に八王子図書館新築記念として開設したもので,故・武藤章先生を中心に,建築学科の協力を得て収集したものです。また,「今和次郎コレクション」は,荻原正三先生のご尽力で,工学院大学の蔵書となったものです。「今和次郎コレクション」については,早稲田大学の蔵書にという話もあったようですが,話が進まず,今和次郎先生のご家族や,竹内芳太郎先生,川添登氏,内井乃生先生などのご高配もあり,工学院大学でお引き受けすることになったとうかがっております。「今和次郎コレクション」を開設したのは1984年です。私が助手の時で,故・今和次郎先生の保谷のお宅にお伺いし,作業の一部をお手伝いしたのを懐かしく思い出します。これらの蔵書は,いまになってみれば,工学院大学の貴重な宝であります。


18,19世紀アメリカの建築図書900冊「ヒッチコック・コレクション」
 インターナショナル・スタイルの定着に務めた,アメリカの建築史家Henry Russel Hitchcock (1903―87)については,ご存知の方も多いと思います。「ヒッチコック・コレクション」は,彼の蔵書を中心としたもので,1830年から1900年までの70年間にアメリカで出版された,建築関係の図書やパンフレット類など約900冊の蔵書です。
 この頃のアメリカの建築界は,ヨーロッパの影響から脱して,独自の世界を築き始めた時期にあたります。1857年にはアメリカ建築家協会が創設され,1866年にはM・I・Tに建築学科が設置されており,1868年にはアメリカ最初の建築雑誌の発行(フィラデルフィア)がありました。また,1871年はシカゴで大火があった年で,シカゴ派が活躍をはじめた頃でもあります。
 コレクションには大型の建築図版集も多く含まれております。また,武藤章先生がヨーロッパで収集した,ガルニエやラスキン,シンケルなどの貴重本10数冊も含まれています。今年の3月には,横浜国立大学・吉田鋼市先生の編訳によって,中央公論美術出版からトニー・ガルニエの『工業都市』が出版されましたが,この出版にヒッチコック・コレクションが役立っています。


考現学の創始者・今和次郎先生の蔵書,研究ノートなど5600冊「今和次郎コレクション」

 「今和次郎コレクション」は,今和次郎先生の約5600冊の和洋蔵書と,スケッチ,研究ノートなどからなります。今和次郎先生が亡くなって約10年後に,書斎の中身一式を受け継いで開設しております。
 先生の業績については多くの方が知っておられることと思います。長い間,早稲田大学で教育・研究を続けられ,民家の研究,考現学の創始,住居論,生活論,家政論,服装研究,造形論など,幅広い研究と評論活動をなされておられます。1971年には,民家,住居,生活に関する研
を通じて,人間性に立脚した建築計画・設計への新しい視野を拓かれた功績により,日本建築学会大賞を受賞されておられます。また1961年には,工学院大学でも講師として「日本文化史」を講義していただいたことがあります。
 「今和次郎コレクション」のなかでも,1910年から1935年の考現学関係の資料は社会から広く注目され,1988年6月の日本生活学会「今和次郎生誕100年・学会15周年記念展―考現学は今」以来,セゾン美術館,青森県立郷土館,新宿歴史博物館,三重県立美術館,神奈川県立近代美術館,渋谷区松涛博物館,横浜市歴史博物館,東京都江戸東京博物館などなど,多くの美術館,博物館などに資料を貸し出し,展示しております。

 「ヒッチコック・コレクション」と「今和次郎コレクション」の書籍,雑誌については蔵書目録がつくられており,利用しやすいように整理されております。蔵書目録については,作成した時に全国の大学および図書館に配布してありますので,そちらで見られた方も多いことと思います。
 「ヒッチコック・コレクション」および「今和次郎コレクション」の書籍・雑誌については,八王子校舎のほうに所蔵しており,八王子校舎で閲覧できますが,必要があれば,新宿校舎に取り寄せて閲覧することも可能です。大学の図書館なので,自由に誰でも入れるわけではありませんが,私工大懇話会図書館連絡会加盟大学の学生や教職員なら,学生証や教職員証を提示すれば入館できるようになっています。もちろん,その他の学生や教職員でも,大学図書館の発行する紹介状があれば入館することができます。ぜひご利用ください。



 

初田 亨(はつだ・とおる)
(「すまいろん」2004年夏号転載)