2017実践研究報告集統合版
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1.2急激な⼈⼝減少による空きストックの発⽣原発事故により避難を余儀なくされ、⼩⾼区内の建物、⼟地は突如利⽤されず、空き家・空き地となった。これらの「空き」はそのままでは空いたままだが、被災前には、全部ではなかったとしても利⽤されていたことをふまえれば、利⽤可能な「ストック」であるといえる。こうした利⽤可能な空き不動産を本論⽂では「空きストッ1背景と⽬的1.1福島県南相⾺市⼩⾼区における原発被災に伴う居住概念の変化福島県南相⾺市⼩⾼区は、福島第⼀原発から20km 圏内にある⼈⼝12,636⼈(2011 年当時)の地域である。東⽇本⼤震災から5 年間は避難指⽰区域となり、居住が禁⽌されてきたこうした利⽤可能な空き不動産を本論⽂では「空きストック」とする。空きストックに対して、環境省は当初、半壊以上の建物を対象に、災害廃棄物処理の⼀環として公費解体を⾏った。しかし⻑期間住宅に住めない状況が続き、⿃獣害被害も加わり、建物は荒廃していった。これを受け環境省は、荒廃家屋も解体撤去の対象に加え、南相⾺市では2015年3⽉から受付が始まった。2017年3⽉現在、旧避難指⽰区域内で2,845件を受付け、1,932件が解体された。津波や地震によ多がきた。南相⾺市の場合は、避難指⽰解除準備区域、居住制限区域については、2012年4⽉以降、避難指⽰解除準備区域、居住制限区域への⽴ち⼊りに制限を設けなかった。そのため、避難先から⽇中住宅を訪れ、⽚付けを⾏う⼈々や、早速理容室などの事業を再開する⼈々も現れた。夜間の宿泊は禁じられていたため、南相⾺市内等の避難先から⾃らの家や事業所り失われた家屋も含め、⼩⾼区内では多くの建物が失われ、空き地となっている。⼀⽅で、避難⽣活を続ける中で、公費解体の申請の期限までに、家屋を残すか否かの判断をし兼ねる⼈々もいた。⼩⾼区内にはまだ多くの空き家が存在している⽂5)。1.3本活動の⽬的以上を踏まえ、本活動では、復興の段階に応じた不動産のに通わなければならない状況がしばらく続いた。その後、数度の特例宿泊を経て、避難指⽰解除準備区域、居住制限区域の避難指⽰は解除となり、帰還した⼈もいるが、今なお⼩⾼区外から通う⼈もいる。⼩⾼区における2017年8⽉31⽇現在の居住⼈⼝、世帯数はそれぞれ2,156⼈、992世帯⽂2)で、震災時点の16.7%、261%である平均世帯⼈員は217⼈(震災当時339⼈)以上を踏まえ、本活動では、復興の段階に応じた不動産の再利⽤と居住実態の変化を調査により把握し、社会実験を通じて、空きストックを実際に活⽤する。こうして原発被災からの復興における空きストックの活⽤可能性を探求することで、⼈⼝激減下において住環境を維持するための実践的知⾒を得ることを⽬的とする。2先⾏事例26.1%である。平均世帯⼈員は2.17⼈(震災当時3.39⼈)、居住⼈⼝に占める65歳以上の割合は51.4%(震災当時27.9%)である。避難指⽰解除後、⼈⼝が少しずつ増えてきた中で、店舗の再開や開業も⽣じている。2010年の国勢調査⽂3)では、⼩⾼区内の世帯や住居形態として、⼆世代以上で居住する世帯(夫婦のみまたは単⾝世帯以外)が約七割、持ち家が86.0%を占めた。まちなか2.1カシニワ(1)概要カシニワ制度とは、2010年度より千葉県柏市全域を対象に運⽤が開始し、地域のオープンスペースや個⼈の庭を「カシニワ=かしわの庭・地域の庭」と位置づけ、緑の保全・創出や⼈々の交流の増進を図ることを⽬的としたものである。空き地を貸したい⼟地所有者と借りたい個⼈・市⺠団体等の(⼩⾼1〜5区)は、持ち家72.5%、公共・⺠間借家が合わせて24.9%と、やや借家率が⾼い。⼩⾼区では、持ち家に⼆世代以上での世帯で暮らす形態から、震災後に単⾝や⼆⼈世帯の⾼齢者世帯が⼤半を占めるようになっている。今後の定住先についての意向調査⽂4),注1)によれば、「震災当時の住居に住みたい」、「同じ地区内に住みたい」と回答した世帯は合計46%、「南相⾺市内(震災当時の地区以外)に住みたい」は126%ある震災当時の住居や地区に居住し空き地を貸したい⼟地所有者と借りたい個⼈市⺠団体等のマッチングを図る「カシニワ情報バンク」と、⼀般公開可能な個⼈の庭や市⺠団体等が管理する庭を市に登録してもらう「カシニワ公開」の⼆つの柱があり、制度への登録者には助成⾦が交付される仕組みだ。住みたい」は12.6%ある。震災当時の住居や地区に居住しない場合でも、⽐較的近い地区への移住を希望する世帯が⼀定数存在している。図1常磐線⼩⾼駅駅前通りにおける建築実態調査注3)図1常磐線⼩⾼駅駅前通りにおける建築実態調査注3)住総研 実践研究報告集 No.44, 2017年版 普及版 23

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