2017実践研究報告集統合版
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2.7特定⾏政庁でない市町村と県との協議の困難さ特定⾏政庁でない市町村がその他条例を定める場合、都道府県との協議が必要になる。しかしながら、特に都道府県の建築指導課では、建築基準法が「最低の基準」であり(同法第1条)、その他条例の活⽤に消極的になるものと考えられる。「重要⽂化財として指定された建築物については、個々の建築物の歴史的・⽂化的・社会的価値、建築物の構造、利⽤⽬的通常想定される利⽤形態等を総合的に考慮してそれぞ3神奈川県葉⼭町における別荘建築群3.1葉⼭の住まいとまちなみの変遷加地邸保存の会葉⼭team及びNPO法⼈葉⼭環境⽂化デザイン集団の知⾒に拠れば以下のようにまとめることができる。①農・漁村期(明治20年以前)豊かな⾃然があった海岸線と背後の⼭並み⽬前の富⼠的、通常想定される利⽤形態等を総合的に考慮して、それぞれの建築物について本来有すべき安全性を判断する必要がある。」と判⽰している。最終的には個別的な判断を要するものの、ハード+ソフトによる合理的な⽅法により安全性を確保する⼿段を講じていたのであれば、建築基準法を適⽤除外したことにより直ちに瑕疵が認められることはないのであって、結果として、国家賠償法第1条第1項の違法性が認められることはないと考え豊かな⾃然があった。海岸線と背後の⼭並み・⽬前の富⼠⼭と江ノ島・⾕⼾や⾥⼭が織りなす、漁村集落、農村集落という様相であった。②別荘全盛期(明治20年代〜第2次世界⼤戦終戦)明治27年の御⽤邸造営を契機に別荘地として⼤いに発展した。初期には海辺の漁村集落の間に宮家の別邸や華族の別荘ができ、⼤正から昭和初期にかけては⼭裾や川沿いに新興られる。また、特定⾏政庁の指定による法的責任については、法の仕組み上、当該特定⾏政庁による実質的な審査は想定されていないことから、平成24年最判を前提とすると、責任が認められるのは極めて限定的な場合に限られる(例えば、同意基準に適合しないことが地⽅公共団体の設ける委員会等からの報告から明らかである場合などに限られることが想定され資産家の別荘が建てられた。③海⽔浴客と⼾建て住宅団地開発期(終戦〜昭和末)別荘の多くは企業の保養所になり、丘陵地には⼤規模な住宅団地が開発され、⾕⼾や⼭裾に住宅地がスプロールしていった。④マンション⼾建てミニ開発期(平成初頭〜現在)の報告から明らかである場合などに限られることが想定される)特定⾏政庁である都道府県においては、こうした法的責任の枠組みを踏まえた対応が求められる。2.8⼩括神奈川県下におけるその他条例には、多様性が認められた。地域の資産は、各⾃治体によって区々であり、まちづくりの歴史も異なる。そのような違いに柔軟に対応できるのが条例④マンション、⼾建てミニ開発期(平成初頭〜現在)森⼾地区を中⼼に、マンション、⼾建てミニ開発ラッシュが起こっている。明治半ばころから昭和初期にかけて段階的に形成されていった別荘群であるが、昨今の⼾建て分譲による敷地の細分化などの再開発に伴う取り壊しの状況は加速度的で、残存率が3分の2という状況であり、現存している別荘でも、状況はよろしくない。原因としては、もちろん経年による各所の損傷が散⾒されであり、当該地域の実情に応じてその他条例に多様性が認められたのは、条例の趣旨を踏まえた状況にあるといえる。他⽅で、特定⾏政庁でない市町村においてその他条例が制定された例は、まだ兵庫県豊岡市の「豊岡市城崎温泉地区における歴史的建築物の保存及び活⽤に関する条例」に限られる。同じく特定⾏政庁でない箱根町においてその他条例が制定された場合、その運⽤が注⽬される。るため、修理⼯事(に費⽤)を要することが⼤きいが、敷地が⼤きいことが個⼈にせよ企業にせよ、継承を困難にしている。また、平坦とは⾔えない地形により⼯事に際には搬出⼊等の仮設経費が割⾼になる。3.2検討を要する建築基準法の規定加地邸に限らず残された葉⼭の別荘建築において、継承するにあたり何が問題なのだろうか承するにあたり、何が問題なのだろうか。まず、対象の建築は、建築基準法の制定された昭和25(1950)年以前の建築が多いので、そもそも建築基準法の規定に適合しない箇所がある可能性があることが⼤きい。そのまま⽤途を変更せずに維持修繕をする継承であれば特に遡及適⽤はないが、以下の点で不適合となっている可能性があるため、⽤途変更だけでなく、⼀定の規模の修繕や模様替えや増築を⾏う際には適合させなければならない。①単体規定(1)敷地・建築物の敷地が、接する道の境界線よりも⾼くない。・地盤⾯はこれに接する周囲の⼟地より⾼くない。(2)構造現⾏規定する安全な(耐震)構造を有しな図3-1 葉⼭の別荘の建設年代(作図:NPO法⼈葉⼭環境⽂化デザイン集団)・現⾏で規定する安全な(耐震)構造を有していない。・⽕災についての性能に関する⼀定の技術的基準(耐⽕・準耐⽕等)を満たしていない。(3)防⽕・避難・現⾏で規定する、避難についての性能に関する⼀定の技術的基準を満たしていない。(4)衛⽣・住宅の居室等に採光のための⼀定⾯積開⼝部がない。住総研 実践研究報告集 No.44, 2017年版 普及版 16

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