2022実践研究報告集No.2124
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写真2-2 共用棟の様子写真2-4 ホームページ上でのイベント告知2.2 運営方法 上述のように,竣工後から現在も全ての棟に入居者 がいる状態が続いる。各棟の家賃は個別に設定されており,共用棟は住人やその関係者であれば無料でいつでも使えるようになっている。共用棟の管理においては,住人同士でやり取りが行われ,現在では日常的な制作の場として機能している(写真2-3)。 運営では,建築家である私たちとクライアント兼オーナーとの月一回の打ち合わせを重ねることで,竣工後の建物の状態の共有,イベントの企画,ホームページの作成等の運営も共同で行なっている。一般的なアパートメントの事例では,竣工後の建物の運営に建築家が関わっておらず,建物のその後の様子はブラックボックス化するといったケースも見受けられた。そうした,一方通行な運営方法ではなく,定期的な打ち合わせを重ねることで,様々な関わりしろを持った建物になっている。 具体的には竣工後,アパートメントのホームページの開設とイベントの開催を行なった(写真2-4)。  アパートメントのホームページはオーナーとの打ち合わせの中で生まれたアイディアであり,アパートメントという私的なプログラムでありながら,そこに住まう人以外でもこの「家」に関わることのできる開かれたプラットホームとなっている。そこでは,この設計プロジェクトの関係者や住人が制作したプロダクトの販売やイベントの告知を行っており,誰でもアクセス可能である。 関係の人たちもイベントを介して,都市から離れて活動するアーティストと接点を持つことが可能になる。イベントでの収益は主催したアーティストに入る仕組みとすることで彼らの活動を次につなぐ仕組みとしている。  つまり、この場所は金銭的な支援や制作の場所の提供にとどまらず,ホームページやイベントの開催などこの建物から派生的につくられたコンテンツを含め,一つの広告メディアとして「家」の枠組みを超えながら様々な情報発信を行うことで,アーティストの持続的な活動を支え,それぞれの領域を拡張するような場となっている。 このようにして,「家」という私的な側面が強く表れる機能に対して,ハードの側面だけでなくソフトによって建築を開く実践を行なっている。こうした実践によって建物は断続的に手が加えられることで放置されることなく場所が使いこなされ,新たな生活の痕跡を生み出していく。さらに,都市から離れたアーティストの活動もホームページを介して都市とつながることで,自身の活動を広々とした工房で精力的に行うことが可能である。最近では出産を控え,今後制作だけでなく育児との両立という新たなフェーズに入るアーティストもいる。「家」という機能は内包されながら,どういった形でこの場所が使用されていくのかは見守っていきたい。以上のように,竣工後も設計者が持続的に関わりを持つことで,こうした幾つかの運営における知見を獲得できた。2.3 運営と管理における課題 2.2では工房付きアパートメントの運営方法を示しながら,具体的にどういった形で使用され,それらがもたらす効果的な側面について明らかにした。一方で,幾つかの課題点も同様に明らかになった。ここでは、そうした課題を明らかにしつつ,今後の運営に向けて,現状の改善方法と展望を示す。 1点目︓共用棟のメンテナンス 先ほども示したように,共用棟の利用は住人やその関係者であれば基本的に自由に使用できる。そのため,この場所の管理体制が曖昧になっており,何度か作業が途中の状態のまま放置されていたり,廃棄物と制作物が混在して保管されている状態も見受けられた。 2点目︓イベントの収益化 現在イベントの収益はその主催者に入る仕組みである。この方法はアーティストの活動を支えるためであり,そこでの収益が建物の管理費や運営費としてオーナーや共同運営の私たちのもとにまで回っていない。現状はこうしたキャッシュフローであっても,問題なく回っているが時間の経過とともに建物の管理や備品の更新等の必要性が出てくることは明らかである。そこで,今後の建物の管理やこの場所を通した更なる取り組みを行う上で,新たな事業計画を模索しなければならない。 以上の2点が現状の運営における課題として挙げられる。

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