2022実践研究報告集No.2124
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<研究主査>・井上 岳 建築設計事務所GROUP共同主宰<研究委員>・齋藤 直紀 建築設計事務所GROUP共同主宰・大村 高広 建築設計事務所GROUP共同主宰・一般財団法人 窓研究所 スタッフ*当実践研究報告普及版は『住総研 研究論文集・実践研究報告集』 No.49の抜粋版です。参考文献は報告集本書をご覧ください。前のように仕事場や活動の場が,賃金が高く,場所の狭い都市に存在する必要性が薄くなってきており,職住一体の暮らしの実践者も既に存在する。こうしたことを踏まえると,以前では難しかった都市と離れて生活を行うことがテクノロジーの進歩や社会状況の変化によって現実味を帯びてきており,今までと異なる「家」の在り方が浮かび上がってきている。そうした新たな暮らしや働き方には,以前の方法論ではない新たな方法論を必要とするが,そうした中で,堀田が述べた共同運営は郊外という都心とは異なる場所において有効であり,今後の実践へと活かせる示唆を与えてくれた。4. 総括・展望 私たちは工房付きアパートメントへの改修における設計のプロセスを示し,現在の運営や使用状況について明らかにした。そこでは,一般的な施主と設計者という枠組みではなく設計以前から設計者を含めた数人が住まいながら設計が進んでいくという通常と異なるプロセスによってつくられたことで,単なる住まいとしての機能だけでなく,多様なステイクホルダーを巻き込み,工房を併設することで,アパートメントのホームページの開設など外部との関わりしろを持つことが可能となった。運営においても,こうした外部との有機的な関係性によって建物自体への持続的な手入れを必要とさせ,工房という住むこと以外の空間が放置されることなく現在でも様々な人々によって使いこなされている。一方で,工房では不特定多数の利用によって管理が難しいことやオーナーを含む運営側への収益化など使われることで見えてきた問題も明らかになった。加えて,改修後も運営として関わり続けることで見えてきた課題や知見を共有し,それを基にした新たな運営方法も示した。 3章ではコロナウイルスによって郊外の空き家へと移動を伴った本実践と引越し(=社会環境の変化における移動)として捉えることで,共通点を見出し,建築以外を専門とする様々な人たちへ「引越し」に関するインタビューを行った。そこでは,実践における課題や知見を基にインタビューを行い,運営に対する新たな展望や社会環境の変化における「家」の価値について共に再考した。 今後は本実践研究を通して,アパートメントでのイベントや運営の収益化,運営と管理体制の再構築が引き続き取り組むべき大きな課題であることが明らかとなった。こうした課題を様々なメディアを通して広く社会と共有することで,今後の空き家の利活用を結びつける建築的な知見を広げていくことを実践を通して引き続き行っていきたい。本実践を一過性のものとはせず,関わり続けることで,長期的な知見を獲得し,変わり続ける社会環境の中で「家」がいかなる役割を担うのか考えていきたい。

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