図4-1 制作したテントの図面(作成協力︓丸田知明氏)骨組みにはホワイトウッド2×4材を用いた1.2 住むことに能動的になるためのレッスンとして 本実践はそのような時代背景のもと,「住むこと」に関する能動性を回復させるための,いわばレッスンとして,冬場の生活には欠かせない暖房を,日頃見慣れた落ち葉に内在しているエネルギーを引き出すことによって手作りすることが可能か,という実践である。ホームセンターなどで簡単に入手できる材料で,一般の人でもある程度練習すれば使用できるレベルの工具を用いて暖房を自作することを試みる。《広告看板の家 札幌》 ひとつは2022年1月22日から2月18日の4週間に渡って札幌市中央区にあるアート・ギャラリー「CAI03」の屋外テラスで行われた《広告看板の家 札幌》である。農業用ビニールシートを使ってテントを作り,内部に温床を作る。秋のうちに集めておいた落ち葉を温床内で発酵させ,その際に出る発酵熱を暖房として利用しながら筆者が寝泊まりをする。《落ち葉温床のテントハウスに泊まるワークショップ》 もうひとつは同年3月から4月にかけて7回行われた《落ち葉温床のテントハウスに泊まるワークショップ》である。札幌での知見をもとに,東京都内にある「つつじヶ丘アトリエ」の屋外テラスにて,大人一人が眠れる程度の大きさのビニールテントを制作,同じく落ち葉を用いた暖房を作り,参加者を募って一晩泊まって体験してもらうというものである。1.活動の背景と目的1.1 自然災害と住むことの受動性という問題 ここ10年あまりの期間に限っても,我々は東日本大震災,広島市の土砂災害,御嶽山の噴火,熊本地震,その他台風,大雨,豪雪など数多くの自然災害に見舞われてきた。それはほとんどの場合において,電気やガスなどの生活に必要なライフラインの一時的な寸断を引き起こした。2011年の東日本大震災では,地震と津波の影響により延べ891万戸が停電した。約80%の地域では3日で解消されたが,解消に3ヶ月以上を要した地域もあった。 特に東日本大震災は,電気を使う現場である住宅から遠く離れた大規模発電所から運ばれてくる電力に頼らなければ,扇風機ひとつ動かせないという危うい現状を我々に突きつけた。むろん電力に限らず,いまや我々の生命維持には欠かせないガス,水,食糧など,生活に必要な物資のほとんどは,それが消費される現場からは離れた場所で作られ,運ばれている。災害によるライフラインの寸断は多くの被害をもたらすが,それは同時に自分たちの日常生活がいかに不安定な基盤の上に成り立っているのか,考える機会を与えてくれる。 我々は大勢の他者との共同作業によって個々の生活を営むことができている。この分業体制は社会を持続させるためには必要だが,同時にそれは,自らの住み方が災害等に左右されてしまうという側面も生み出す。いまや水・ガス・電気・食料はもちろん,食器や服や,鉛筆一本すら,ほとんどの人は自分で作ることはできない。2.活動の概要 本実践にはふたつの段階がある。3. 《広告看板の家 札幌》を行うにあたって の前提3.1 なぜ札幌なのか 札幌市は200万人もの人が生活を営んでいる大都市であり,かつ日本の政令指定都市のなかで最も平均積雪量が多く,寒さの厳しい場所(気象庁発表による2022年1月の平均気温は-3.2度)なので,ガス等のインフラが生活に欠かせない。本実践は既存のインフラに頼らずに暖房を作るというものなので,その成果を多くの人に伝えるためには,札幌がふさわしいと考えた。3.2 落ち葉の発酵熱利用の歴史 落ち葉の発酵熱は,農家の間ではおもに「踏み込み温床」と呼ばれる方法で利用されてきた。これは落ち葉や稲わらなどの炭素材(C)と,鶏糞や米ぬかなどの「チッソ材(N)を,炭素率(C/N比)が20程度になるように混ぜ,水を加えることで落ち葉に付着している土着菌が活動し,その際に出る発酵熱を上から適度に踏み込むことで調整しながら,冬季の苗床として使うというものである。これは各農家がそれぞれに独自の方法で行なっているものだが, 『現代農業』や『のらのら』などに基本的な方法の記述がある。
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