図2-1 三方格子システム図2-2 タイプAプロトタイプ1. 活動の背景と目的・意義 竹は極めて強い繁殖力を有し,古来より生活の様々なところで用いられてきた。しかしながら,工業製品の普及に伴って竹材の利用が減り,管理されなくなった竹林の荒廃と拡大が各地で問題になっている。一方,近年ではSDGsなど環境意識の高まりに伴い,その有効活用に関して様々な取り組みがされている。 竹は鉄の1/3という高い引張強度があり,自然素材としては極めて強度の高い材料特性を有している。構造材料として竹を有効活用することは放置竹林問題など環境問題解決につながるのみではなく,竹という素材の特徴を活かした新たな建築空間を実現可能にする。 竹は高い強度と可撓性を持った自然素材であり,持続的な再生可能資源としての有力性がある素材であるにも関わらず建築基準法で竹構造は認められておらず,この特性を活かした建築はほとんどない。また,集成断面としての竹材の建築的技術開発も確立されていない。 私たちは、東日本大震災の被災地復興支援のため,2011年に学生自らの手で竹を主構造材とした建築(わが国で唯一建築確認(7年半の仮設建築許可)を得た仮設建築(「竹の会所」)を建設した。それを契機として,構造材としての竹材の材料特性およびその決定因子を明らかにし,竹構造建築の設計施工方法と併せて学会等で発表すると共に,建物の構造特性および材料特性の経年変化について継続的に調査研究を行っている。自然竹および加工竹の素材としての構造性能については,ISOに基づく材料実験によりその特性は概ね把握している。 本研究開発はこれらの研究をもとに新たな建築構造材としての竹材を用いた架構の試作を行い,そこで得られた知見を実建築物に応用するためものであり,工業製品として品質を安定させた新材料の開発とそれを用いた新たな構造システムおよび建築デザインを実現することに特徴がある。2. 活動内容2.1 プロトタイプの設計1)元となる架構システム 今回考案した「三方格子システム」は、一定の間隔で相欠き加工だけを施した角材を三方向(立体的)に組み上げてゆくものである。欠き込みを1/2ずらせて組んでいくのがポイントで、釘も金物も用いず手作業で組み上げることができる。同じシステムの展開なので連結・展開してゆくことができ、解体や移設も自由にできる。組みばらしも自在のため連結・展開・解体が可能な構法である。2)プロトタイプの試設計 まず、開発しようとするシステムを用いた建築のプロトタイプの試設計を行う。本システムで用いる新材料は、割竹を挽いて平らにした薄平板(厚さ4㎜幅30㎜)を積層した30㎜角材および自然な丸竹で、角材は上記の三方格子組みで架構する。プロトタイプとして、以下の2つを想定している。タイプA︓角材を立体的に組み立てた「三方格子」と薄平板を格子状に組んだ「格子シェル」の組み合わせで架構する建築。「三方格子による軸組み」と「薄板格子シェル」の組み合わせによる空間は、極めて繊細なスケールで建築構造を成立させ「新たな和風建築」といえる、ヒューマンスケールで自然の暖かみのある独特の建築空間となる。
元のページ ../index.html#3