2021実践研究報告集NO.1926
3/11

1.実践活動の背景と⽬的1.1郊外住宅地の⼈⼝構成の変化と課題我が国は2007(平成19)年にすでに65歳以上の⾼齢者⼈⼝⽐率が21%を超える超⾼齢社会に突⼊し,その後も⾼齢者数は増加の⼀途をたどっている⽂1)。本実践活動の対象地である川崎市宮前区は,都⼼まで45分以内の郊外であるが,超⾼齢化による⾼齢者数が2005(平成17)年では26万⼈だったのに対し20182005(平成17)年では2.6万⼈だったのに対し,2018(平成30)年にはその倍の5万⼈を超え,また単独世帯,夫婦のみ世帯及び夫婦ともに65歳以上の世帯も増加している⽂2)。加えて我が国の都市部においては,⽣涯未婚,離婚及び死別による単⾝独居⾼齢者が増加しており,この傾向は郊外部へと拡⼤しつつある。核家族化の進⾏や単⾝独居⾼齢者の増加は地域コミュニティの希薄化をもたらし,「孤⾷」や「孤独死」等が社会問題としてクローズアップされている。超⾼齢社会の時代にこそ地域の中に多様な⼈的交流の機会と場が必要であり,地域コミュニティを再構築することが強く求められている。特に転出⼊等の⼈⼝の異動が多くまた多くの住⺠特に転出⼊等の⼈⼝の異動が多く,また多くの住⺠が通勤通学で地域を⽇中離れている郊外部では,それが喫緊の課題となっている。⼀⽅で,今後はコロナ禍による在宅勤務の進展等がコミュニティにもたらす影響も考慮していく必要がある。1.2⼈と⼈とを遮断する現代住環境の構造本実践研究の対象地である川崎市宮前区は,郊外住写真3-1 ダンボール図書館の本を⼿に取る親⼦宅地として⾼度成⻑期において鉄道の延伸とともに多くの住宅,なかでも集合住宅が数多く整備されてきた住宅地である。集合住宅は物理的には住⺠と住⺠が極めて近接している⼀⽅でプライバシーを重視した構造で居住者の孤⽴を⽣じさせやすい構造となっている。かつての住居には「軒先」,「縁側」及び「⼟間」のような他の⼈々との交流を⽣み出すような空間があった特に近年では,⾏政が直接⾏ってきた公共施設の管理運営から,指定管理者制度の導⼊による効果的効率的運営が⽬指されている。また,物理的な維持管理に加え,例えば⼀定の条件の下での路上オープンカフェ等,規制の緩和が図られている。住⺠が主体的に公共施設の管理運営に参加していくことも潮流となりつつある他の⼈々との交流を⽣み出すような空間があった。また街区の道路も「向こう三軒両隣」の考え⽅で真ん中の道路を共通の「庭」のような空間として使⽤していた。さらに雑⽊林,⼊会地及び空き地のように共⽤空間のような場所も多く存在していた。こうした場所が交流の機会と場として活⽤され,顔の⾒える関係が形成される等のコミュニティの基盤となっていたと考えられる。しかし郊外住宅地の宅地開発につある。1.4本実践研究の位置づけと⽬的筆者らはこれまでに「公園を活⽤した住⺠主体のコミュニティプラットフォーム:川崎市宮前区を対象地としたまちかどマルシェの実践」(2017-2018)を⾏った。公園等の公共空間にまちの多様な活動や主体(「まちの資源」)を集め,主体相互に,ま伴ってこうした場は失われ,⼀⽅で防犯やプライバシーなど外部と遮断された住宅が供給され,孤⽴化を招きやすい住環境となっている。1.3コミュニティ形成の場としての公共空間の活⽤コミュニティ形成に資する場を設けていく⽅法として,⾝近な公園や広場等の既存の公共的施設の活⽤を図っていくことが有望である公園は住宅地の⾃た住⺠に,それら資源を可視化する「まちかどマルシェ」通じて,活動間の連携や住⺠との新たな関係性を⽣み出すなど,創発(下記概念③参照)によるコミュニティ形成を⽬指してきた。本実践ではこれをさらに発展させ,コミュニティプラットフォームの機能や運営⽅法,その普及や実装化を⽬的とする。を図っていくことが有望である。公園は住宅地の⾃然環境の確保,防災上の空地等物理的環境として住⽣活の向上に資するだけではなく,コミュニティ形成の場としても寄与していくことで⼀層の住⽣活の向上が図られる。また,公園等の公共施設は管理運営に住⺠の参加を得ていくことにより⼀層地域に根差した利⽤が促進され,その⾯からも住⽣活の向上につながるものである。

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る