2019実践研究報告集NO.1827
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③ 二拠点居住に対する地区の意向・可能性 ○被災時の避難: 近いうち,生きているうちに地震が起こるとの想定が65%と過半を占め(図2-6),68%が自分や家族の命が守れるか(図2-7),60%が現金や薬等をもちだせるかが心配とし(図2-8),大きな危機感が窺われる。住まいに関しても,地震による全壊の予想が60%(図2-9),津波による流出の予想が67%と高い(図2-10)。特に,耐震改修に対する行政の補助制度があるものの,実際に設計・工事を行なうと100万円以上の持ち出しとなり,高齢者の多い地区では,大きな負担感,あるいは「老い先長くないので,今更お金をかけても無駄」といった意識から,自宅が相当に古いにもかかわらず,耐震改修が進んでいないことが,その背景にある。さらに, 「共同活動に馴れていないので心配」や「なれない空気にストレスを感じる」など,1次・2次避難所や体育館(3次避難所)・仮設住宅での生活への心配の割合も高く,自宅がなくなることや安定的な生活の場の喪失に対する不安が強い。慣れ親しんだ生活の場の確保は大きな課題であろう。 一方,家族にとって大切なものを守れるかには,心配が半数程度と相対的に低い(図2-11)。守る必要がないというよりも,寧ろ「生命以外は諦めている」や「そのような物は持ち出せない,命が大事」「大事になればこれらはあきらめるしかない」など,大切なモノを守ることに対しては諦観意識が窺われる。命もモノも両方守るのは難しいとの判断である。 ○空き家活用の意向や可能性 これに対して,空き家活用の趣旨や有効性,実現可能性などについてアンケート配布時に十分な説明をしなかったために,「考えが及ばない」「志和地区では高台の空き家はないと思う」や「志和地区では無理ではないか」といった意見もあるものの,事前の備えのために空き家を活用することへの関心は19%(12/62)(図2-12),実際には困難であるを含めて活用したいが38%(20/52)(図2-13)を占めて,一定の期待があることが確認できた。 WSでも(写真1),高齢者からは「お金を出してまで空き家を借りることは難しい」「今でも不要なものは処分しているので位牌以外は思い切って処分する。大切なモノを保管する必要はない」「もうすぐ地震が起るので高台に逃げませんかと案内があった時でも,『いいえ,志和に残ります』というお年寄りが多かった」などの意見が,若い人からは「写真はクラウドに保存しているので心配ない」「すぐに使える空き家は町内を探しても,そんなにない」など,事前の保管場所の確保に対して消極的な意見が出された。 「必要性があるのか,そういう場所があるのか管理はどうするのか,まず考えたことがない」というように,二拠点居住の実現可能性に関する疑義が根底にある。 しかしながら,ある主婦から「子供が小さい頃の作品,賞状,ランドセルとか思い出の品物はたくさんある。言われてみれば,それらがなくなるのは悲しいことだと思う」という意見が出され,それに同調する母親が出て,WSの流れが変化した。 「いきなり事前保管と言われても,イメージがわかないし,個人で家を確保するのは大変だと考えるのは当り前。仕組みや負担についてもっと具体的な説明が必要。そうすれば,賛同者は増える」「高台地区に葉タバコ乾燥共同施設がある。広さも十分で和室があり,避難場所として使えれば便利」「体育館での避難生活をテレビでみていると,空き家を活用した避難場所のほうがプライバシーもあり, 生活も落ち着くように思う。高齢者にとっても良い」「志和の人柄として,少しでも事前保管が動き出せば,それに倣って,後からついて来る人は多いのではないか」との意見が出始め,さらには,二拠点居住に対する会長の賛同と 支援によって,黒石地区の空き家を対象に「取り敢えず計画を進める」「雪だるま方式で人を巻き込む」で実際の二拠点居住の取組みを進めることになった。 ④空き家の探索と二拠点居住への提供可能性 3次避難所として想定されている黒石地区にて,二拠点目を確保するための空き家探索を行なった。 具体的には,行政区長はじめ地区の役員とのミニワークショップを開催し,90戸の黒石地区内に空き家は存在するもの,「盆暮れの帰省のために,他人には貸したがらない」「所有者不明や連絡がつかないものが多い」「避難の他に生姜収穫の手伝い人の宿舎として兼用出来ると良い」「地区内の農業担い 写真1 ワークショップ 392616628010203040506070事前の備えのための空き家活用への関心とても関心があるやや関心があるどちらとも言えないあまり関心がないまったく関心がないその他未記入010203040506070活用したい活用したいが、難しい活用したくない活用の必要がないその他未記入実際に空き家を活用して事前の備えをしたいか図2-13 空き家の活用意向 図2-12 二拠点居住への関心

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