2019実践研究報告集NO.1827
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の生活や住まいのことには想像が及ばず,全て無くなることが当たり前で,仕方のないことだと考えている。仮設住宅で暮らすことや,我慢した生活を行わなければならないなど,これまでの津波被害から連想される暮らしを強く感じている。 行政,地域ともに「長期的な生活段階」に関してはほとんど手付かずである。今後はこれまでのハー ド対策を使いこなすためのソフト対策の継続化や、命をつなぐための整備を行いながら,長期的な視野に立って被災後の生活の「持続的再生」を無理なく行うための対策へも力を入れて取り組んでいく必要がある。 2.2 二拠点居住に向けての取組み 2.2.1 空き家の実態と自治体の空き家対策 平成30年住宅・土地統計調査によると,高知県が4位(18.3%)と,全国の上位に位置し,深刻な空き家問題に直面している。 ①空き家の実態 空き家数と空き家率は各々,四万十町(2,130戸/21.8%),中土佐町(593戸/14.0%:平成28年3月),串本町(3,000戸/26.6%)と高い割合と数を占めている。 四万十町では,町の中心部(窪川)を除き,津波浸水想定地域である志和・興津地区等の沿岸部,並びに,中山間部に空き家が広く分布している。但し,志和・興津地区から至近の高台に位置する東又地域の空き家は相対的に少ないようである。 中土佐町では,浸水想定地域2地域(久礼地区・上ノ加江地区)と中心部から15kmほど離れた山間部1地域(大野見地区)に集中的に分布しており,両者間の離隔が大きい。 串本町では,浸水想定地域,並びに高台地域に同様に分布しており,地形的な特徴として,浸水想定地域に連続して高台地域がある為に,両者間の距離は近い。 空き家の発生要因は,総じて,後継世代の都市部への転出であり,盆暮れには帰省する事例も多い。 ②空き家対策 高知では,県が各自治体の空き家対策を主導していることもあり,両自治体ともに類似の施策がとられている。防災性を高めることを意図した対策は,耐震設計・改修,ブロック塀の撤去と改修,発災時に倒壊の恐れのある空き家の除却に対する補助といった地震により倒壊しない住宅,避難の妨げになる危険空き家・塀の撤去を促進することがある。 特筆すべきは,南海トラフ地震の被害想定による試算では,応急仮設住宅の建設用地が不足することが見込まれており,地震による被災時には,住宅をなくした世帯の「みなし仮設住宅」として借り上げることが構想されている。空き家対策と防災計画との連携が窺われる。それは,二拠点居住への展開の可能性を有する施策と言えよう。 その一方で, 四万十町では,目下の空き家対策の主眼は,防災計画との連動よりも,寧ろ減少する人口対策として,空き家を移住・定住促進に活用することにある。 空き家を町が約10年間の定期借家として借り上げて公的賃貸住宅として高齢者や子育て世代の定住促進の用に供するほか,「空き家活用事業」として,貸家を計画する所有者や定住に向けて空き家の購入者に,最大1,824千円/件のリフォーム費用の補助を行なっている。 串本町は,空き家数が多いものの,苦情対応や適切な管理に向けての啓発活動,空き家バンクへの登録促進などに留まり,空き家の利活用や解体・跡地活用などの空き家活用・解消に向けての十分な対策が講じられていない。併せて,被災時には9000人の生存者(1万人の死亡を仮定)に対し,僅かに1割程度の仮設住宅しか提供できないとの想定であるにもかかわらず,地震・津波などの防災対策との連関が希薄である。 ③二拠点居住・活用に向けての課題 活用可能な(高台に残置する)空き家の分布状況は, 中土佐町では,浸水想定地域に近接する高台には,空き家が少ない。中心部から車で30分ほど離れた山間部の大野見地区には百数十軒の空き家があるものの,特に高齢者にとっては,本宅と二拠点目との往来が難しい。一方, 四万十町では,志和・興津の二地区が津波浸水想定地域になっているが,町の中心部に至る途中に位置する黒石地区,並びに,その周辺地区に一定数の空き家が存在し,浸水想定地域から比較的近い位置での二拠点居住が可能となる(図2-4)。 串本町では浸水地域に隣接する高台に一定数の空き家が存在し,二拠点居住に活用できるポテンシャルを有する。特に,和深地区の高台には,空き家の庭や空地の草刈りが行われるなど,良好な管理状態の空き家が多い。 一方,生家を離れて生活する空き家の所有者の特性として,空き家の後継世代は遠隔地に居住するものの,盆・正月には墓参りや親戚付き合いに帰省するた 図2-4 四万十町の各地区の位置図 (地理院地図を加工して作成)

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