2019実践研究報告集NO.1827
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1.2 活動の目的・目標 『命を守る』防災計画に加え,『暮らしを守りつなぐ』ことを視野に入れた連続的・総合的な「復興計画」へと新たなパラダイム転換が必要だと考えられる。ここでは,「災害を最小限に留め,災害からいかに立ち直るか=暮らしを守り,復元力を高める」という住まいや暮らしにレジリエンスの視点を措定することで,被災前から復興までを連続的・総合的・広域的な視野で捉え,災害への向き合い方や復興手法を「防災から脱災へ」「ハードとしての住宅再建からソフトとしての暮らしやコミュニティの再生へ」の転換を目指す。 本実践活動は,レジリエンスを高めるための視点として,生活やコミュニティの回復に向けて防災機能の「代替性(Alternative)」,「多重化(Redundancy)」,「補完性(complementation)」などを措定し,深刻な被災が想定される地域において生活・自治やコミュニティ・生産・物的環境の再建に対するレジリエンス向上に向けての具体的仕組みを構想・実践し,実現可能性(Feasibility)や有効性を検証することを目的とする。 具体的には,高知県四万十町を中心に,南海トラフ巨大地震による甚大な津波被害が想定される地域を対象として,中山間部の空き家活用による二拠点居住(沿岸部と中山間部)を提案する。被災した際に,劣悪な一次避難所や画一的な仮設住宅での「着の身着のまま」の生活ではなく,将来の復興や被災者の生活再建を想定し,予め津波の被害から守るべく,大事なもの(位牌,家族にとって大切なモノ,アルバム,子どもの作品など)を保管しておくような場,あるいは,被災後の生活も安定的に持続できるような場を本宅とは別に確保しておくことを実践的に考えるものである。 2. 活動内容 本取り組みは,南海トラフ地震による甚大な津波被害が想定される地域(高知県四万十町を中心に,補足として高知県中土佐町・和歌山県串本町)を対象に,避難を中心にした「命を守る」防災計画にとどまらず,「暮らしを守りつなぐ」ことまでを視野に入れた復興計画へと復興手法のパラダイム転換を図る。 基礎的な情報収集と津波被害に備える二拠点居住に向けての実践的な取り組みを以下のように進めてきた。 ①自治体の防災計画の把握: 津波による浸水被害の程度,防災計画の概要と到達点,避難計画と避難訓練の実施状況,仮設住宅の計画と課題,高齢者への対応,災害や防災に対する住民意識,防災に関連する地域住民の動向など(役所担当者/四万十町・中土佐町・黒潮町・串本町への聴取り調査、資料収集) ②浸水想定地域の防災活動・意識の把握: 地区特性,自主防災組織の構成,防災活動の取り組み実態と評価,防災意識,防災における地域特性と課題,災害に対する不安や防災への期待(自主防代表/中土佐町・黒潮町・四万十町へのアンケート調査,聴取り調査) 1. 活動の背景と目的・意義 1.1 活動の背景 南海トラフ地震に起因して太平洋沿岸部に襲来する津波の高さは,地域によっては30mを超えることが予測されている。各自治体ともに,地区別に特性や固有の課題に応じた緻密で周到な防災計画を策定し,地区の自主防災組織を中心に,定期的な避難訓練や避難倉庫の設置・管理・運営が積極的に展開されている。 しかしながら,現状では,防災計画の範疇が概ね『命を守る』ことの一次避難を優先しながら,生活を凌ぐ場としての仮設住宅を中心にした二次避難場所の想定計画までに留まり,生活復興に関するビジョンや計画までは手が回らない状態にある。その根底には,災害を防ぐことには限界があるにもかかわらず,依然として地域が「いかに災害と向き合い,対抗するか」を基軸として,「防災計画=避難計画=命を守る」という直線的な課題が設定されており,結果的に被災後の生活再建や地域再生を断片化・長期化,場当たり的・画一的なものにしている。そのことが環境移行における危機的な状況を生み出すことは,これまでの地震被災地の事例から,想像に難くない。また,既存のコミュニティの分断や生活様式の非連続性というように,復興計画が生活よりも住宅を偏重するものとなっている。 一方, 全国の自治体では,維持管理が適切になされない空き家が増加し,周辺住民からの苦情が多く寄せられその対応に苦慮している。空き家が適切に維持管理されず放置されると,倒壊の危険性や防災性の低下,治安や衛生環境の低下,景観の悪化や地域のイメージダウンに繋がるなど,様々な問題が発生する。空き家問題は,自治体の規模に関係なく深刻な問題となっている。 空き家解消に向けての支援策も,空き家バンク,リフォーム・解体補助,民間団体との連携などと,限られた方法が用意されるに過ぎない。今日の空き家対策は,空き家が発生した後に対応し,空き家の総量を減らすことに重点が置かれている。自治体によっては1万戸をこえるような空き家を抱えており,空き家の総量を適切なレベルまで抑えることは極めて困難な課題である。空き家対策を量よりも質的な問題と捉えること,即ち,いかにして効果的な空き家・空き地の活用法を提示するかに重点をシフトすることが求められる。そのためには, 空き家を迷惑建物ではなく,地域資源として捉え,各自治体の問題の特質や執行体制を踏まえながら,地域特性や地域課題に応じた独自の対策を練る必要があろう。併せて,空き家を所有者に対する公共の介入が可能な社会住宅として,乃至は,地域やNPO等をはじめとする第三者が,所有せずとも当該空間や対象の活用・関与可能性を自らのものとして積極的に活用できる領有型の住宅として位置づけて,その利活用に積極的に地域社会が関わる仕組みづくりが求められよう。 以上のような,地震・津波に対する防災計画の今日的な課題,増加の一途を辿る空き家数と空き家問題に対して,地域特性・地域課題を踏まえた効果的な対処方法の構築が求められる。

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