2019実践研究報告集NO.1827
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手育成センター(キゼン農場)に県有の空き宿舎があり,二拠点居住や生姜宿舎に活用できないか」「黒石周辺の平野地区の空き家は町に貸出し,向川には空き家はない」との意見があった。志和地区との関係は,「志和地区とは同じ東又なので,消防団活動等を共同し,馴染みがあり,受け入れに問題はない」ことも確認できた。 行政区長より地区内の空き家に詳しい民生委員を紹介されて,空き家探索が急速に進展する。地区内には,十数軒の空き家があるが,相続問題が片付かない,老朽化が進んでいる,貸すのは困難などを除いて,4軒を候補とする。民生委員から各所有者に二拠点居住の可能性を打診してもらったところ,そのうちの住宅1軒(K邸)(図2-14),倉庫1棟(S邸)(図2-15)が使える可能性があり,所有者へのヒアリングを行なった。倉庫は,大切なモノの保管場所として,住宅は二拠点居住,あるいは,大切なモノの保管場所として,志和地区住民によって活用可能であることが確認できた。両建物ともに,新耐震基準をクリアーしており耐震補強の必要がなく,利用者のニーズに合わせてリフォームが可能である。いつでも貸せる状態にあり,家賃や光熱費などの金銭負担の調整が今後の課題となる。 2.3 今後の展開 大切なモノの保管,ないしは,二拠点居住を具体的に実践するところまでは,到達しておらず,その実現に向けて,今後の展開や課題を整理する。 [賃料負担]: 受益者負担,行政区の区費等からの支出,行政から行政区に支出される自主防災組織活動事業補助金に賃料分を上乗せ,自治体の防災事業費からの支出,空き家対策の一環として空き家活用助成金制度の拡充による補助金からの支払いなど,幾つかの方法が考えられる。地区住民は金銭負担が発生しないことを期待しており,行政支援が求められる。 そのためには,市町村単独での判断ではなく,防災計画や空き家対策計画を主導する県を交えた場での検討が必要であろう。空き家を個人財産と捉えるのではなく,地域固有の資源として,地域課題の解決や地域魅力の増幅に積極的に活用しうる社会空間としての捉え方が求められる。こうした制度確立には時間を要するために,早期に検討を開始する必要がある。また,空き家を活用することは,空き家の見守りや維持管理に関与することにつながり,賃料相殺の可能性もある。 [実際の利用者の募集と利用内容の具体化]: 活用できる空き家・空き倉庫を確保できたことで,実際に利用を希望する地区住民の募集を始める。実現可能性を疑問視する住民や必要性を軽視する住民も多いため,被災後の「着の身着のままの暮らし」の苦労や喪失感を追体験できる取組み(例えば,津波で被災し,着の身着のままで一次避難所,体育館等の二次避難所,仮設住宅で生活した人の話を聞く)を行い,被災後の生活に実感を持って向き合えるようにする。 その後,利用希望者を中心に,具体的な利用方法や保管するもの,保管方法等をワークショップ等で具体化する。 [リフォーム]: 利用内容や方法に応じて,必要な建物の改修や備品の整備を行う。なるべく専門業者に依存せずに,地区住民やボランティア・大学とが恊働してのセルフリノベーションやDIYによる什器の製作を重視する。 新耐震基準以前の建物に関しては,大学の専門家による耐震診断・設計を行ない,安価で高性能の耐震改修技術の開発と施工を実施する。あわせて,建物の管理方法や管理主体を決定する。 3. 活動の成果・評価 甚大な地震・津波被害に対して,「命さえ助かれば,家も財産も思い出もなくなっても仕方がない」がこれまでの一つの定見(諦観)であろう。しかしながら,幾つかの前例が示すように,被災後の一次・二次・(三次)の避難生活や復興住宅での生活をみると,命以外のものをなくしたことによる著しい喪失感,危機的な環境移行,強まるストレス,居場所や所在のなさ等が顕著であり,被災後の生活再建の大きな障害となる。 これに対して,本実践研究の成果は,災害から「命を守る」ことにとどまらず,次の段階である「暮らし を守りつなぐ」ことの必要性と可能性を住民に意識付けたことである。当初は二拠点居住に対して懐疑的であった地区住民の中に,被災前後での生活・モノ・環境の継続を図ることが,被災後の避難生活や生活再建に良い影響をもたらすこと,そのための空き家活用により,激甚災害を経てもなお,諦めていた大切なモノを保持することができること,空き家活用は機能面・費用面で合理的であることなどが認知され,本気で二拠点居住を検討することに繋がった。 それを踏まえながら,本来は被災後にしか検証できないものの,予想される成果を以下に整理する。 ①地震や津波に限らず災害全般に対する住まい・暮らしのレジリエンスの向上: 問題の多い体育館等の避難所や仮設住宅をスキップして,従前のモノの保持や日常性の継続による潤滑な環境移行が可能となり,生活の質が確保できる。また,生活やモノの継続性は,一次避難の期間短縮とともに,復興の気運やスピード,地域のまとまりを高めることに繋がると考えられる。 ②空き家対策の転換: 定住人口の獲得に向けての利活用,地域のコミュニティ施設への転換,不要・不良空き家の解体,空き家バンクによる市場流通化などを主目的にした従来の空き家対策から,被災想定地域を中心に,防災・地域づくりの拠点として空き家活用を図る方向への転換が図られる。そのために,空き家を問題建物ではなく,地域資源・社会資源と捉え,利活用によって安定的で豊かなコミュニティ・地域づくりがなされる。空き家の良好な維持管理や見守りは外部不経済の解消でもある。 ③生活スタイルの革新: 二拠点目の居住形態には,高齢者同士,老若提携などによる血縁関係を超えた共助型居住(シェア居

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