2019実践研究報告集NO.1826
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図2-1 バッファーゾーンを配置する例 ② 方位と配置を考慮したプランニング 沖縄の気候に適合した設計の考え方として,資料作成に協力した設計者全員が,方位を慎重に配慮した上で,住宅内部の室の配置によって夏季の熱の流れを制御する方法を示した。 すなわち,西側にある倉庫などの非居室や浴室,物干し等をバッファーゾーンとして配置し,さらに日射遮蔽も考慮し,居室までの熱の伝わり方を制御する。その上で様々な風向からの風があることを踏まえた通風の計画を行う(例として図2-1)。 省エネ基準は空調設備により外皮の内側の気温をできるだけ均質にする考え方を基調としている。寒冷地の冬季の場合は,低温の部屋には結露のリスクが大きく,ヒートショックの問題も指摘されている。しかし,蒸暑地の夏季に相対的に気温の高い非居室があることは,湿度管理の上でむしろ有利であり,ヒートショックの問題も存在しない。 一定の厚みのある「ゾーン」での熱の移動は,外皮計算では前提としていない。沖縄の設計者が経験則により行っている設計方法は,省エネ基準と異なる論理によるものと言える。 ③ 輻射熱への対応 外皮の断熱ではなく,外皮に輻射熱が伝わらないようにする遮熱の考え方は,沖縄の建築設計者が多様な方法で試みてきたものである。 設計実践集に収録した方法としては,花ブロック等の日射遮蔽物,遮熱塗料,RC造に木造屋根をのせる混構造,スラブ上のベンチレーションブロック(ブロック下に風を通し遮熱),さらに屋上緑化も気化熱による遮熱の一種と言える(図2-2)。これらは現時点の外皮の性能として評価されないため,遮熱対策をしてもηACが高い数値を示す状況が生じる。 多重の遮蔽物で日射を制御する方法は,外皮を一枚の連続面と考える外皮基準とは異なる考え方によるものである。 ④ 外部空間での対処 遮熱の項にも関連するが,敷地内の緑化や建物から離れた日射遮蔽物によって熱対策を行うことが可能である。外付けの花ブロックやよしずの利用,植栽,バラス,植栽ブロックなどの活用の実践例が示された。 建築の外部から与えられる熱の制御は,敷地レベル,地域レベルでの対応が推奨されるべきであるにも関わらず外皮のみの基準で省エネルギーを推進することについての課題の提起である。 ⑤ 風の活用と通風の工夫 風を効果的に採り入れ逃がす方法は,設計実践集のいずれの設計者も取り組んでいる。他地域に比べて強い風が年間を通じて吹く条件を生かすために,様々な風向に対応し方位を考慮したプランと断面の工夫が行われている(図2-3)。 通風は快適性だけでなく,2.5の高湿度対策の上で重要であるため,夏季だけでなく年間を通じた重要な条件と考えられる。省エネ基準は通風自体を評価あるいは排除するものではないとしても,外皮のηACの基準に対応した結果として開口部を小さくする設計がとられることの危惧が持たれている。 図2-2 遮熱対策の例 また,風は内部の通風だけでなく,先述の遮熱の工夫にあたり,年間を通じて得られる強い風が外壁や外部の日射遮蔽物等の熱を逃がすことも想定している。

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