2019実践研究報告集NO.1826
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活動期間中には,国土交通省の省エネ基準の運用方針と基準の見直しが行われ,国土交通省の担当者との意見交換への対応や,国土交通省のパブリックコメント(実践助成の期間中に2回実施)に対して沖縄県内の建築関係者への内容の周知を行うなど,その時点ごとの課題に沿った幅広い活動を行った。 2. 沖縄の気候風土に適した住まいづくりの原則の整理 2.1 原則に関わる項目の抽出 活動助成期間前の2018年1月に行った建築設計者からの意見収集および沖縄県他による既往の取り組みの資料(表2-1)の検討をもとに,沖縄の気候風土に適した住まいづくりにおいて重要であり,省エネ基準の課題と考えられる事項を以下の10項目に整理した。 省エネ基準の10の課題 ① 基本的前提としての沖縄の気候について ② 方位と配置を考慮したプランニング ③ 輻射熱への対応 ④ 外部空間での対処 ⑤ 風の活用と通風の工夫 ⑥ 湿度への対応 ⑦ 水利用の工夫 ⑧ 光利用の工夫 ⑨ 合理的な建築づくり ⑩ 地域社会の中の住宅,家族と住まい 連絡会議では,この10項目の内容の検討を継続して行い,2019年8月に公開研究会を実施して,幅広い建築設計関係者に成果を公開することを目標に設定した。 2019年5月から8月にかけて,連絡会議の活動に関与してきた6名の建築設計者注4)の設計実践をもとにした資料を作成した。資料は「沖縄の気候風土に適した住まいづくり・設計実践集(第一期)・気候風土を建築に翻訳する」と題したA4版24頁の冊子にまとめ,公開研究会(3.3で後述)で内容の報告を行った。 各項目は,沖縄の気候風土に適した住まいづくりにおいて重視すべき内容を整理し,課題に対応する実践例を示した上で,「省エネ基準」の問題点あるいは現時点で検討が不十分である事項を示す形でまとめている。 写真1-3 「その他条例」 研究会(2016年9月17日) 冊子の内容の概要を,次項以下に項目ごとに説明する。 ① 基本的前提としての沖縄の気候について 年間を通して高い気温。ただし,夏季の最高気温は33℃程度以下。夏季には強い日射による輻射熱が与えられる。 年間を通して強い風速。沖縄県内各地の年間平均風速は5.0m/s程度(例えば東京や福岡市は3.0m/s程度)で,夏季にも強い風が得られる。 年間を通して高い湿度。相対湿度が平均80%を越える月も多い。 強い台風の来襲があること。極めて強い風雨に長時間にわたって耐えるための対策が必須である。 外皮基準は,外皮の内外の熱貫流率を小さくすることを基本としているが,この考え方には沖縄の気象条件を充分に考慮していない面があると考えられる。 ・個別の論点 建物の外部に与えられる熱は,外気から伝達される熱と日射による輻射熱による熱があり,沖縄では強い輻射熱に対処する必要がある一方,周囲が海に囲まれた中で吹く風の作用があって外気の温度は比較的高くならない。日射による輻射熱は外皮に伝えられる前に遮る方法(後述の遮熱)が有効だが,外皮基準は輻射熱の遮熱対策を前提としていないものと理解される。 風の作用も外皮基準において考慮されていない。沖縄では内部の通風に加えて外部の熱を風が奪うことで遮熱においても風が有効に作用すると考えられる(後述の風の活用)。 湿度対策は省エネルギー対策に含まれないものであるが,沖縄では湿度対策と省エネルギー対策を一致させる必要がある。「省エネ基準」が通風を前提とした夏季対策を進めるものではないため,湿度対策との整合性を慎重に判断する必要がある(後述の 湿度への対応)。 表2-1 沖縄の気候風土に適した住まいづくりに関する 既存の取り組み

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