2019実践研究報告集NO.1826
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会議の情報・意見交換が継続することになった。 2018年3月からは日本建築士会連合会による「住宅の省エネルギー性能等の調査」が行われた。この調査は省エネ基準の運用,とくに延べ面積300㎡未満の住宅における義務化へ向けて各地域における住宅の省エネ性能の実態や設計者の取り組みを把握しようとするもので,8地域では沖縄県建築士会が調査の実施にあたった。この調査の一環として6月には,県内設計者への聞き取り調査,日本建築士会連合会の統括事務局および国土交通省の担当者と沖縄の建築設計関係者の意見交換の機会があった。この際の聞き取り調査や意見交換の具体的な対応は連絡会議が実質を担っていた。 以上のとおり,連絡会議は省エネ基準の沖縄での運用に関わる課題を検討する場であるとともに,県,国等の動きに対応して県内建築設計関連団体の対応を取りまとめる役割を担うこととなった。 1.5 助成を受けた実践活動の期間の取り組みの概要 以下,住総研実践助成を受けた期間(2018年6月〜2019年10月)の取り組みについて記す。 活動助成を受けた6名は,連絡会議の設立前から特定非営利活動法人・蒸暑地域住まいの研究会の活動を通じて,沖縄の気候風土に適した住まいづくりに関わる活動に取り組んでおり,連絡会議の活動にあたっては会員として,あるいは,幹事,事務局の立場で活動の主要な部分を担ってきた。以下に記す活動は,基本的に筆者らを含む連絡会議の活動として行ったものである。 活動の目的 ①沖縄の住宅設計で行われてきた環境性能向上の取り組み事例を収集し,蒸暑地域における住宅設計の原則を示し,省エネ基準の課題を明らかにすること, ②課題についての沖縄の建築設計者の認識の共有を広げ,省エネ施策の改善に関わる活動をおこなうこと。 省エネ基準の課題の明確化については,沖縄の住宅設計者が行ってきた気候風土に適した住宅設計の実践と課題認識を系統的に整理し資料を作成した。作成した資料を用いて2019年8月に連絡会議主催の公開研究会を開催し,内容を参加者に公開した。 公開研究会での検討を経て資料をもとに「沖縄の気候風土に適した住まいづくりについての提言」をまとめることができた(2019年10月)。 で環境への適応と省エネルギーを計って設計された住宅のいずれもηACが3.2を越えており,中には一般的な住宅よりもηACの値が高いものがあることを指摘した(表1-1)。 この作業等を通じて,ηACの値が高く外皮基準を満たさないことは必ずしも省エネルギー性能が低いことを意味しておらず,これまで沖縄の気候風土に適していると考えられてきた住まいづくりの考え方と外皮基準が推奨する住まいづくりの方向に相異があるのではないか,という問題認識を得た。 1.3 沖縄の気候風土適応住宅推進連絡会議の設立 気候風土適応住宅とは,2016年3月に国土交通省住宅生産課長から各都道府県および指定都市に発信された技術的助言における省エネ基準の除外・緩和に関する規定として示されたものである。「地域の気候及び風土に応じた住宅であることにより」外皮基準に適合させることが困難と認められるものについては,外皮基準を適用せず,一次エネルギー消費量基準を緩和する,としている。 沖縄県は,先述のとおり,「沖縄らしい気候風土適応住宅形成事業」(2017年度)による調査を実施し,外皮基準の沖縄での適用に関する問題点と,気候風土適応住宅の認定基準の方向性を検討した。その過程で,沖縄県建築士会,沖縄県建築士事務所協会および日本建築家協会沖縄支部の三団体(以下,「建築設計関連三団体」または「三団体」)の役員等が検討過程に参加し,省エネ基準および気候風土適応住宅についての認識を共有する機会を持った。県の事業における検討を契機として三団体は,気候風土適応住宅の認定基準の提案に先行的に取り組んでいた熊本県建築士会の訪問と資料収集(2017年9月)などを行った。 三団体の役員および筆者らを含めた有志は「沖縄の気候風土適応住宅推進連絡会議」(以下,「連絡会議」)を2017年12月に設立した。 連絡会議の幹事は三団体から選出され,三団体の省エネ基準に関わる連絡および共同の活動を行う取り組みを開始した。 設立の時点は,気候風土適応住宅の認定基準の検討が重要課題と考えていたが、情勢の変化に伴い省エネ基準に関わる課題全般を扱うこととなった。 連絡会議は,本稿執筆時点(2019年10月末)までに計21回(活動助成期間では13回)の拡大幹事会を開催し,活動を継続した。 1.4助成期間以前(2018年6月まで)の連絡会議の活動 連絡会議の設立直後に,沖縄県土木建築部建築指導課が省エネ基準に関する資料作成に取り組むこととなり,県は省エネ基準の運用にあたって想定される課題について建築関係団体への意見照会をおこない,連絡会議が回答の取りまとめと資料提供を2018年1月〜3月に行うこととなった。 県は連絡会議が整理した建築関係者の意見を聴取した上で,沖縄での省エネ基準の運用に関わる資料を作成し3月末には国土交通省との意見交換を行った。沖縄県としては地域の実情に沿った省エネ基準の運用が必要であると認識しており,これ以降,沖縄県と連絡表1-1 沖縄における環境共生型住宅等と外皮基準

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