2019実践研究報告集NO.1824
11/12

トを回収し⼤きな利益はでないが維持できる⽬途が⽴ったからである。5〜10年程度の事業期間を想定し,確実に借りてくれる者―低額で良質物件を求める潜在的需要者は多数いる―が⾒込めれば,改修費⽤の投資にそれほど⼤きなリスクはない。遊休化している賃貸物件を改修するには,こうした事業リスクをよく理解し,リスクテーカーになれる賢い家主もしくは居住⽀援法⼈がいる③ソフト・ノウハウのマネタイズ化⽇本の慣⾏では,新築でも設計料,デザイン料を有料化することは極めて難しい。特に,改修⼯事の場合は設計料や⽬に⾒えないノウハウに対して施主に料⾦を⽀払わせることはほぼできない。モクチンレシピが有⽤・有効であることは先に述べた通りであるが,このノウハウをマネタイズ化する仕組みがいるくは居住⽀援法⼈がいる。(3)モクチンレシピの有効性これまでモクチンレシピを使ったことのなかった園⽥と⼤学院⽣で北千住PJの改修案を⽴案した。実際にモクチンレシピを使ってみて驚いたのは,レシピの取捨選択の判断が容易で,極めて簡単かつ短時間にデザインできることである。これらの点から,いる。④連関性家主,宅建業者(不動産仲介),設計者,⼯事会社,居住⽀援法⼈という各主体が連携,⼀体化すれば本実践活動を拡⼤できるが,現状ではこうした主体間の連関性は著しく⽋如している。家主や宅建業者と居住⽀援法⼈の間の距離が空いており,設計者モクチンレシピを使えば,建築の専⾨性のあまり⾼くない者でも容易にデザイン性のある改修案を⽴案可能だといえる。事実,NPOモクチン企画が組織するモクチンパートナーズの会員で,モクチンレシピを⽤いて多数の改修を⼿がけているものが現れている。さらに,改修費⽤の算定が容易だという特徴も⼤きい。改修を予算内に納める際の検討にかかる時間も通常の設計変更に⽐べると格段に短時間で済むや⼯事会社と居住⽀援法⼈の接点もほとんどないので,それを繋ぐ必要がある。(2)新しい事業提案本実践活動を通して,以上のような課題(ボトルネック)を抽出することができたわけであるが,今後の展開としてはモクチン企画が事業主体となり,明治⼤学園⽥研究室がアドバイザとなったうえで間も通常の設計変更に⽐べると格段に短時間で済む。実際の施⼯については,素⼈では難しい壁・床の下地と電気・⽔道の設備部分はプロに頼まざるを得ない。この部分の費⽤はかかる。それ以外の,塗装や壁紙等の仕上げ材の張替,組⽴て式の収納家具の設置等は素⼈でもハウ・トゥがわかれば⾏うことができる。北千住PJの天井塗装,ハローライフPJの壁紙,塗装等は素⼈の学⽣が簡単に⾏えた。また,明治⼤学園⽥研究室がアドバイザーとなったうえで,居住に困窮する主体のサポートしているNPOや社会福祉法⼈向けに新たなサービスを展開することを計画している(現在,新ウェブサイト公開準備中)。新事業のサービス内容は,居住⽀援団体に対して,「地域拠点を創出し,その徒歩圏内に居住に困窮しているひとたちに提供するための住まいを確保していく」という事業スキームをパッケージとして提供北千住PJではオーナーが,ハローライフPJでは⼊居予定者がDIY的に改修⼯事に参加している。以上の点からモクチンレシピはデザインツールとしては極めて有⽤であり,施⼯の点でも⼯事費の縮減やDIYで当事者の納得感・満⾜感を付与することに有効である。し,事業パートナーとしてコンサルティングしていくというものである。事業スキームは「1.物件調達」「2.資⾦調達」「3.空間改修」の3つの軸によって成り⽴つ予定である。①物件調達活⽤できる物件の確保がなによりの課題である。物件所有者にとっては近所トラブルや孤独死など5.今後の展開に向けて(1)何がボトルネックか結局のところ,本実践を今後拡⼤するにあたってのボトルネックは次の4点である。①〜④を串刺しにして解くことのできる答えを提出する必要がある。物件所有者にとっては,近所トラブルや孤独死など,クレームやトラブルに発展するような要因を抱えている⼊居者はリスクと考え,貸し出しを渋る傾向にある。ただ,ヒアリングを丁寧にしていくと,単独者であっても,⽀援団体などが背後でバックアップしたり,責任をとる主体が明確であればこうした課題も低減されることがわかった。本事業は居住⽀援団体が家主と賃借⼈の間に⼊ることでこうした課題①社会・地域の認知度居住に困窮する者の増加と空き家の増加は,個別課題としてはマスコミ等で頻繁に取り上げられ社会的な認知も進んでいるが,相互の問題を関係させて社会や地域で解ける可能性についての認識は全く希薄である。これを突破するには地域にリアルな拠点がいる。いくつかの居住⽀援法⼈はそれを実⾏し,事態反転の兆しがあるも解決できるのではないかと考える。また,モクチン企画が有する不動産管理会社とのネットワークを活⽤し,物件調達を実施することも可能である。②資⾦調達最初のきっかけとなる地域拠点や最低限の改修を創出するために初期費⽤が必要である。特に地域拠点は役割として重要であるがハロライフによる事態反転の兆しがある。②資⾦調達モクチンレシピにより⽐較的低廉に施⼯⼯事が⾏えるとはいえ,⽼朽化,陳腐化した建築の改修には⼾当たり100万円単位の費⽤がかかる場合は少なくない。また,それは初期投資として必要である。その資⾦調達の仕組みがいる。点は役割として重要であるが,ハローライフによる府営団地プロジェクトのコモンハウスで明らかなように,明らかにコストセンターとなってしまう。こうした状況を打破し,初期費⽤を捻出するために,クラウドファンディングのサービスを提供している事業者と提携することを検討している。本事業の条件や枠組みにあったクラウドファンディングサービスを利⽤することで,効率的・効果的に資⾦確保が

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る