1.はじめに1.1背景と⽬的広島県東部の備後地域(図1-1)で⽣産される備後表は国宝建造物等修復にも使われる最⾼級畳表であるが,原料の備後藺草は絶滅の危機に瀕している。本実践研究は,「藺草栽培を通じた備後表の⽣産・流通・設計・施⼯プロセスの解明」と題する研究テーマ注1)の⼀環であり「中継(なかつぎ)」に焦点をあて中継織⼀環であり,「中継(なかつぎ)」に焦点をあて,中継織機の再⽣とその製織技術を継承することを⽬的とする。需要の限られた動⼒中継織機の新規製造には,多額の開発コストがかかるため,⼤きな意義がある。また,その製織技術継承もあわせて重要課題となる。建築学において,畳に関する研究成果は多々あるが,藺草や畳表に⾔及したものは,ほとんどない。動⼒⼒織機に関しては,⼩池ら(2004)が当該再⽣織機の当初図1-1 旧備後国沼隈郡(福⼭市南⻄部)周辺の協⼒者と圃場の開発経緯を報告している⽂8)が,その共著者の⼀⼈である中村賢⼆⽒は開発の中⼼⼈物で,有限会社中村機械製作所(以下,中村機械)の前社⻑である。主査らの2016年度の備後表研究開始当初の備後産地の現状分析によって,備後表の保全と継承に関する6つの論点を挙げた注2)。これらの論点は現在でも変わっておらず,「6.組織と制度の再構築」に関して,本課題終了後の後継団体も想定していた備後表継承会本課題終了後の後継団体も想定していた備後表継承会を先に設⽴した。1.2備後藺草栽培の実態主査らは,地元農家と共に2016年冬期から備後地域における藺草の栽培に関わっているが,広島県の藺草に関する作物統計は2015年までしかない。これを補完するためにも,2016年の植え付け時から,備後地域の藺草圃場で悉皆調査⽂2) ⽂3) ⽂6)を続けているが,この3年間でも激減している。2016年に7枚(1枚10a程度)植え付けられた福⼭市本郷町の藺草圃場は,2019年に僅か1枚となった(図1-2)。備後地域全体でも,2016年12⽉に5⼾10枚が,2019年12⽉には3⼾5枚となった。全国の藺草作付⾯積の97%(534ha, 2018年農林⽔産統計)を占める熊本県においてもこの10年間で半減図1-2 2016年と2019年の本郷町圃場(出典:⽂献2より作成)産統計)を占める熊本県においても,この10年間で半減しており,半世紀前の備後地域と同様の傾向を⽰し,国産藺草と畳表保全の有効な対策はない。なお現在,畳表流通量の約8割は中国からの輸⼊品である。1.3備後地域遺産研究会本課題で藺草栽培と製織の実践を担ったのは,福⼭⼤学備後地域遺産研究会⽂2)(以下,研究会)のメン年度より,学部横断の福⼭⼤学ひと・まち・くらしプロジェクトの⼀環として参⼊し,中嶋委員が加わった。現在のメンバーは福⼭⼤学建築学科やメディア・映像)()バーである(図1-3, 4)。2015年4⽉に備後地域での地域遺産保全活動のため発⾜し,主査が主宰する。2016現在のメンバは福⼭⼤学建築学科やメディア映像学科の学⽣が中⼼である。研究会では,地域遺産を「有形無形を問わず,地域の⼈々が守り,後世に伝えた図1-3 2018年12⽉植え付けと2019年7⽉刈り取り(本郷町)図1-4 同左(熊野町)⽂化庁「ふるさと⽂化財の森」設定圃場
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