2019実践研究報告集NO.1821
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1.はじめに本実践研究は,国⽴研究開発法⼈防災科学技術研究所,国⽴⼤学法⼈千葉⼤学,株式会社⽑利建築設計事務所(後に学校法⼈ものつくり⼤学)との共同研究「ネパール(途上国)における⽯造組積造のノンエンジニアド住宅の耐震性向上(⼈的被害軽減)に向けた蛇篭を⽤いた耐震補強⼯法の開発研究」の⼀環として⾏われた本実践研究の助成により主要部分である蛇組積妻壁の被害組積壁内部の剥離図1-1組積造の被害事例⾏われた。本実践研究の助成により主要部分である蛇篭を⽤いた耐震補強技術の開発研究および構造解析⼿法の考察の部分を⾏っている。その他,振動台実験のための泥モルタルのモックアップや試験体の制作,そして実験の運転は防災科学技術研究所の⾃⼰資⾦やクラウドファンディング,ワイヤーの引張要素実験は千葉⼤学の資⾦により実施された。1.1.ネパール地震の建物被害2015年4⽉25⽇11時56分(現地時間),ネパールゴルカ郡を震源域とするマグニチュード(Mw)7.8の地震が発⽣し,また5⽉12⽇にはシンドパルチョーク郡でMw7.3の最⼤余震により,ネパールでは広範囲におよぶ全71郡のうち31郡が甚⼤な被害を受けた。震災直後のネパール政府発表の構造別住宅被害状況を表11に⽰す簡易引張試験機試験体引強度試験材)1̶1に⽰す。表1̶1構造別住宅被害状況(⼾数)2015年5⽉被害状況泥モルタル組積造セメントモルタル組積造RC造計全壊474,025 18,214 6,613 498,852 半壊173,867 65,859 16,971 256,697 計647,892 84,073 23,584 755,549 図1-2引張強度試験(泥モルタルー⽯材)表1—2引張強度試験結果試験体最大強度(N)面積(㎜2)引張強度(N/mm2)1238.002619.900.09082252.003437.710.0733Ave00821被害が甚⼤になる⼀因として,無補強組積造の脆弱な構造体が挙げられる。表1̶1に⽰すように,建設⼯法として組積部材に関わらずマッドモルタルを使⽤した建物の被害が顕著である。この⼯法は,都市部では築30年以上の建物,⼭間部では庶⺠住宅建設に現在も⼀般的に使⽤されている。これらの⼤半は,地域の職⼈あるいは住⺠⾃⾝によって建設された技術者が1.3政府の住宅再建⽀援住宅再建補助⾦は,復興庁(NRA)より発⾏された「Distribution Guideline for Completely Destroyed Private Houses by Earthquake, 2072(2015)」に規定された。地震により住宅が被害を受けた世帯が住宅を再建(新築)するための⽀援として世帯当たりNPR300000の補助⾦を⽀給する,,,,Ave.0.0821の職⼈あるいは住⺠⾃⾝によって建設された技術者が関与していないノンエンジニアド建築である。1.2被害事例の考察今回の地震で甚⼤な被害を被った建物は,組積部材こそ,⽯,焼成レンガ,アドべ等さまざまであるが,⽬地に泥モルタルを使⽤しているものが⼤半である。して,⼀世帯当たりNPR300,000の補助⾦を⽀給する。補助⾦の内訳は,①再建合意書(Participation Agreement)署名後NPR50,000,②Plinth Band施⼯後NPR150,000,③壁⼯事完了後NPR100,000の3段階に分け⽀給される。また被災住宅を再建せず既存住宅の補強⼯事(Retrofitting)のみを実施する場合は,NRP100,000の⽀給となる。⼀般的な建物の破壊パターンである建物の低層部分がせん断破壊を起こすケースは稀で,図1̶1に⽰すように多くの被害事例は壁上部の⾯外破壊,または組積壁が⼀体性を失うことによる崩壊である。原因として,泥モルタルが⾮常に低強度であり,特に付着強度が低いため,建物の振動時に部材間の付着がなくなり,脆性破壊を起こす起因になっていると考えられる。現地での引張強度試験⽅法と結果を図12表11.3.1安全な住宅再建に向けた技術⽀援途上国での地震被害が甚⼤になる原因をよく表している⾔葉がある。「It is not earthquake that kills, it is not even the buildings that kill, it is the poorly constructed buildings that kill.( ⼈々が犠牲になったのは,地震のためではなく,建物によるでもなく,建物の脆弱性によってである。) 」ネパール地震の復興⽀援において災害に強靭な社会の形成を現地での引張強度試験⽅法と結果を図1̶2,表1̶2に⽰す。これまで実施したセメントモルタルと焼成レンガの引張実験での結果の平均値0.65N/mm2と⽐較して,約12%の強度であった。地震の復興⽀援において,災害に強靭な社会の形成を⽬指し“Build Back Better”(BBB)の⽅針が掲げられている。この⽬標に向けて,ネパール建築基準法の耐震基準(NBC105)に準ずる耐震性能を構造計算等で確認することが義務付けされた。1.3.2復興住宅カタログ2015年11⽉に復興住宅カタログ第1巻が公表された。

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