2018実践研究報告集NO.1724
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<研究主査>・柳田良造岐阜市立女子短期大学名誉教授<研究委員>・柳田桃子株式会社テイコク<研究協力者>・多田直人多田直人建築研究所・臼井伽織さくら不動産・堀尚人岐阜新聞記者*当実践研究報告普及版は『住総研研究論文集・実践研究報告集』No.45の抜粋版です。参考文献は報告集本書をご覧ください。「木を植える」ことの積極的な評価と成長への関心が語られ、駐車スペースは必ず必要なものだが、マイナス面が大きいとの指摘があった。壁の塗り替えで部屋の印象が変わることの指摘、開口部のガラスを変えること(形ガラス、磨りガラスから透明ガラスへの変更)で光の入り方が全然違うことや外の縁側が見えること、光が入ってくる量が変わるとの指摘もあり、家の中から見える景色は、外に緑が見えることで印象が大きく変わる。一つ一つの部屋は小さくてもふすまなどをとりはらい部屋がつながって広いスペースが生まれるフレキシブルな使い方や、器を様々に設え変えることによって食事がより楽しめることや大勢の来客をもてなすことで暮らしに変化が生まれるとの指摘など、従来の空き家活用事例では出てこない評価の視点もあり興味深いものであった。講義の最後に行ったレポート課題でも、「古い家を今の時代に暮らしやすいように考えて、かたちを変えていったことに私はとても興味がもてました。隣の家との関わりや光の取り入れ方、道路から見たときの人の視線を考えて、木を植えることから庭づくりをはじめ、建物の開口部や間仕切りを工夫するなど、家がどんどん住みやすくなっていったことが実感できたことです。」「地域・環境デザインの事例として、先生の家のリノベーションは興味深かったです。庭づくり、インテリアの改造、家具や食器など細かい部分まで意識されていた。身近な人がやっているのを見て自分もできそうな気がした。」などかなりの学生から古家のリノベーションに興味をもったことの指摘があった。「家がどんどん住みやすくなっていったこと」を実感できたということや「自分もできそうな気がした。」などは古家改修での重要な内容、意味であると考える。5.まとめ岐阜県での中津川市、山県市、岐阜市での注目すべき空き家活用の事例の分析を行ったが、移住場所から物件探しとリフォーム、さらに古民家改修の「自力建設」まで、程度の差はあれ「自力」ということが重要なファクターになっていると感じた。特に農山村への移住事業においては古民家、空き家活用について、現在ある種のブームといえるほどで、例えば恵那市串原地区では「リフォーム塾」という移住希望者が古民家の構造から、昔の暮らしまで学び、地元の大工さんと一緒に古民家改修を行う地域づくりが注目されるし、2018年10月~12月に名古屋テレビで放送された「イジューは岐阜と(ギフト)」は古民家リフォームをテーマに、主人公が岐阜県内の農山村を周り移住者や住民たちと交流し、移住することと真剣に向き合う地域密着ドラマとして話題となった。都市での住居取得がほとんどの場合、住み手は与えられた「商品」という既存パッケージを購入することで済しうるが、移住とは生業から住まいまで、移住者自らが考え、つくりだしていかなければならない行為である。移住での空き家改修に「自力」が浮上してくる要因はそこにある。空き家改修では未着手といえる領域をさぐるべく、戦後の文化財級の住宅である笠井邸の保存活動、借家古家の耐震断熱改修工事の取り組みを行った。笠井邸の保存活動や借家古家の耐震断熱改修工事は残念ながら実現はしていないが、空き家改修で生み出すの価値とは何かや暮らすことの楽しさとは何かを改めて考えさせる貴重な取り組みになったと考える。また学生による古家活用のワークショップから空き家や古家を活用する時の従来にない評価の視点を得ることができた。そういう意味で未着手の空き家活用の領域をさぐるという今回の実践目的に対し、当初の想定とは異なるが、従来にない切り口の問題提起はできたと考える。

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