2018実践研究報告集NO.1724
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築年数50~60年以上の賃貸木造戸建て住宅での改修で未着手領域として浮上してきたのが、空き家(居住借家を含む)の耐震改修・温熱改修を伴う活用である。所有物件でも耐震改修(温熱改修も含む)工事はコストもかかり、なかなか進まない状況で事例はほとんどなかった。確かに費用をかければ、相当のレベルでの改修が可能なことは技術的にはわかってきている。しかし、特に賃貸物件では、かなりの費用がかかることから、進まない現実がある。スタディは後述する「うなぎの寝床敷地の古家」を対象に、自治体からの補助金を含め、手の届く範囲の費用で改修可能な工事を一戸建て借家のケースで、実際の改修を想定して取り組んだ。借家での改修の場合、費用は大家と借家人の負担が出てくる。両者の了解を得て進められる可能性があるケースを考え、筆者の居住する一戸建て借家を対象とした。建物は築60年の木造2階建てである。作業の流れ以前から耐震改修の相談をしていた所有者(Mさん)に、2017年6月に岐阜市の木造住宅耐震を受ける了解を得、筆者が木造住宅耐震診断の申込を行った。7月3日(月)に2時間あまり調査(床下、小屋裏等も含め)を行い、物件としては北側の1階建てと南側の2階建て部分が合体した建物であるが、築60年の木造2階建て部分を対象とすることにした。その理由は、2階建て部分が目視において、耐震性の問題が大きいと判断できるためだ。8月8日(火)に木造住宅耐震診断結果報告書を受け取るととともに、評点が0,71(0.7未満倒壊する可能性が高い)と低く、大規模地震の到来により、倒壊の危険性があることが告げられた。そこで、その結果を大家に連絡するとともに、岐阜市の耐震補強工事補助金も活用し、補強工事を実施するために、工事の設計と工事費の見積もりを依頼した。9月7日(木)に耐震診断士淺井等が来宅し、補強工事の内容および見積書の説明を受けたが、再度工事内容と見積書の呈示をうけることになった。9月19日(火)に修正案の説明をうけた。10月6日(金)、所有者(森千鶴)宅に赴き、耐震診断工事の内容、費用について説明した。費用については、補助金額を除いた費用を所有者と借家人の筆者でほぼ折半する案を提示したが、後日費用捻出は難しいという返事が届いた。費用は総額(耐震に断熱工事も含め)約180万円、補助が約60万円、所有者60万円、借家人(筆者)60万円である。うなぎの寝床敷地の古家を対象にした活用と評価のワークショップワークショップは筆者が10年前に空き家を見つけ、改修を行いながら住み続けてきたうなぎの寝床敷地の古家(自宅)を対象に、岐阜市立女子短期大学生活デザイン学科(ID専修)2年の学生(18名)で活用のワークショップを行った。うなぎの寝床敷地の古家は岐阜市の中心市街地に隣接する地区(長良川右岸)にあり、間口7m奥行35mの敷地で、南北両面に接道する場所に建つ北側部分平屋建て(築70年)と南側部分(築60年・2階建て)が合体した延床32坪の木造借家である。古民家といえるほどの立派な建物ではないが、ちょっと古めの木造の建物である。現在別の住居に暮らす大家さんに、この住宅での子供時代の居住体験を聞く機会があったが、「暗くて」「寒くて」という印象しかなく、住宅での楽しい思い出の記憶はないとのことであった。筆者は入居後の改装として、1階の4畳半の続き間と廊下で区切られた6畳座敷の3部屋の間のガラス障子やふすまを撤去し、居間・食事場・座敷を一続きの部屋とした。諸室はメインの空間以外に、6畳の独立した台所、3畳の納戸、書斎、2階には2部屋あって、3人家族で暮らすには十分である。内装では南北両面の建具のガラスを曇り型ガラスから透明ガラスに変え、内装の土壁を白い塗料で塗った。また冬期の寒さ対策が居住上の大きな問題と思えたので、居間に北国で普及している大型FFストーブを設置し、居間から2階に続く階段の上部に開閉できる戸を設け、暖気が2階に抜けないようにした他、居間・座敷に絨毯を敷き、床面の寒さ対策を行った。また補助暖房用に2台の灯油ストーブも購入した。また夏用にエアコン1台を増設し、計2台を運転している。もちろん借家なので断熱改修や構造的補強などの大きな改修は行えていないが、それでも十分に快適に暮らせる居住水準になっている。さらに敷地内の南面に間口7m、奥行10数mの空き地があったので、2カ所のキッチンガーデンを設けた他、敷地の両サイドや中央に桃、梅、サクランボ、柑橘類、ツツジ、ミモザアカシア、トネリコ、オリーブ、ライラック、グミ、栗等々の小さな苗木、数十本を植えた。数年経ち、キッチンガーデンや成長した樹木から、春にはミモザアカシア、桃、梅、サクランボの花々、5月の梅と豌豆の収穫、初夏はサクランボ、夏にはキッチンガーデンでの夏野菜と桃の収穫、秋にはグミ、栗、冬は柑橘類と、一年を通じて、収穫を楽しむことができる雑木林のような庭になった。外にテーブルを出して、収穫の料理や手作りのハム、ベーコンの燻製などを作る楽しみも増えた。この借家での屋内、屋外での楽しい暮らしを満喫できているのである。遊びに訪れる友人達も「すてきな家だと、くつろぐ、落ち着く、庭が最高とか。」いろいろ、言ってくれる。不動産屋の話では、この借家は筆者が8年前に住み始める前には、長く空き家で借り手が見つからなかったそうで、こちらに勧める時も、いかにも「この物件はだめですよね」と言いたげな雰囲気であった。ワークショップは建物について①庭のしつらい、②玄関のしつらい、③インテリアのしつらい((床壁建具、器具、什器)、④もてなしの各項目について、改修前の状態、段階的な改修(取り組み)の状況、現状について、写真を見せながら解説する作業を1時間行い、その後設問紙を配布し、記述してもらった。設問は選択式と記述式からなり、回収後、分析作業を行った。写真3-1うなぎの寝床改修前

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