2018実践研究報告集NO.1723
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1.実践活動の背景と目的1.1郊外住宅地の現状と課題大都市圏郊外部では,近年,団塊の世代を核にした高齢化の急速な進展,単独世帯の増大,また女性の社会進出に伴う幼児,小学生の待機児童数の増加など,地域との関わりやケアを必要とする人々が急増している。それに伴い,従来の自動車に依存した暮らしから,徒歩圏内に生活利便拠点を必要とするライフスタイルへと,住生活に大きな変革が起こり始めている。郊外住宅地はまた,分譲・賃貸マンションなどの集合住宅居住者が多く,今後さらに増加すると予測される。内閣府の「国民生活白書(平成19年版)」文2)は,単身世帯の人は隣近所との行き来や町会,自治会への参加が他の世帯より低いこと,また,地域から孤立している人は借家集合住宅に多いことを明らかにしている。集合住宅居住は,実は社会的孤立に陥りやすい住環境ともいえる。地域から孤立しがちな単身者世帯の増加と相まって,こうした人々の孤立を防ぎ,社会的包摂力の高いコミュニティづくりが求められる。地域のコミュニティ活動の現状は,町内会等の地縁型組織も,子育てや高齢者支援などのテーマ型市民活動も,ともにメンバーの高齢化や固定化による担い手不足,活動場所や資金の不足,情報発信力の弱さなどから,その継続が危ぶまれている。もとより,旧住民中心の地縁組織と新住民の多いテーマ型組織の連携の難しさも,郊外部の地域コミュニティの大きな課題とされてきた。一方,厳しい財政状況下にある行政は,公共施設の老朽化による建替えや,公園や街路空間などの維持更新の負担が課題となっており,民間との協働による管理運営が模索されている。川崎市でも,地域コミュニティの核としての公園の利活用を図るとともに,市民との協働による管理運営を進めようとしている。今日,歩いていける日常生活圏内で,誰もが助け合えるような地域のコミュニティケアやまちづくり活動活性化の仕組み作りが喫緊の課題となっている。この解決には,社会的包摂力が醸成されるよう,コミュニティづくりとその活動基盤を形成することが必要であり,その方法論の構築が求められている。1.2コミュニティプラットフォームについて人びとの社会関係の一側面として「自助,共助,公助」と分類される中で,コミュニティは「共助」を対象とする概念である。それは,一定の共通の基盤を共有する集合体である。コミュニティプラットフォームは,総務省の「新しいコミュニティのあり方に関する研究会」(2008)文4)で提起されている。その背景には,従来の町会の衰退とともに市民活動の胎動がある。地域社会において,これらの各プレーヤーが協働して地域課題に対処することが重要であり,政策的なテコ入れも必要である。これらは,市民センターの運営協議会,地区協議会,また,中間支援組織としてのまちづくりセンターなどにみられるようなコミュニティプラットフォームが形成され一定の成果をあげている。しかしこれらが,自治体の全域若しくは出張所,学校区を範囲とし,行政が主導して設立しているのに対して,本実践活動は,街区公園の利用圏域という小地域において,従来の行政主導とは異なる住民の自発的なコミュニティプラットフォームを形成するものである。また,活動を可視化できる公園等の身近な公共空間を活用することの有効性も提言し,検証するものである。1.3実践活動の目的と目標本実践活動では以下の①②③を検証する。①コミュニティプラットフォームの効果を明らかにする。本実践活動は,「コミュニティプラットフォーム」を構築し,マルシェを開催することを企図している。プラットフォームメンバーには,宮前区内で様々なテーマで多様な活動をしている団体等がなり,協力してマルシェを開催,また出展・出店する。マルシェ参加団体は,マルシェの準備から開催を通じて,相互にメンバーや活動内容を知り,情報交換をすることができる。さらに,一つのイベントを作り上げていくなかで,信頼も醸成される。それにより,連鎖的に協働や新しい活動が生まれ展開されていくのではないかと期待される。本実践活動を通じて,実際に新たな発意が生まれ,活動の多様性が得られるのかを把握し,コミュニティプラットフォームの意義を考察する。②公園を利用することの意義を把握する。市街地において,公園は,緑やゆとりなど都市の自然環境の側面が重要視されてきた。本実践活動は,誰でもが利用できる,どこにでもある身近な公園で「マルシェ」を行うことで,公園に地域のなかの社会関係形成のハブとなる可能性があることを検証するものである。出展・出店者の活動を公園というオープンな空間で可視化することで,行政を含めた地域の様々なプレーヤーとの新たな関係性や連携が生まれるのか,また,マルシェに足を運んだ住民が参加団体の活動を見ることで,受動的から能動的な参加への動機づけが得られる可能性があるのか,住民同士の交流や出店者との新たな関係性にも繋がるのかなどに着眼して把握する。また,「公園」で行うことの意義や効果を,駅前広場でもマルシェを行い,それとの比較を通じて公園活用の意義を明らかにしていく。③水平展開に向けた機運の把握と課題の整理本実践活動は,住民が日頃から行っている活動や手作り作品など,費用や労力の面でさほど負担のかからない取組で「マルシェ」に出展・出店することに重点をおいており,それが身近な,どこにでもある公共空間である「公園」で行われることで多くの人に可視化され,「自分もできるのではないか」という参加の動機づけにつながることを期待する。郊外住宅地が直面しているコミュニティの再生の方法論として有望な,ひとつのモデルケースとして,今後の普及と持続的な展開を企図している。本実践活動では,同様の活動の萌芽等が見られるかなどを把握する。2.実践活動の対象地と主体,経緯2.1対象地の川崎市宮前区について川崎市は,神奈川県の北東部に位置し,多摩川を挟んで東京都と隣接し,横浜市と東京都に挟まれた,細長い地形を市域としている。面積は144.35km²で,市内を縦断する形でJR南武線が通り,南武線と交差する形で5つの私鉄が横断。海側から京急線,東急東横線,東急田園都市線,小田急線,京王相模原線が走っている。また,川崎市は人口約150万人の政令指定都市として,川崎港側から川崎区,幸区,中原区,高津区,宮前区,多摩区,麻生区の7つの区がある。宮前区(人口約23万人)は,市内7区の中で最も昼夜人口比率が低く,通勤通学で区外に出て,日中を地元で過ごさず,日常的な交友関係等も区外に持っている人が非常に多い地域である。換言すれば,地元への愛着を持ちにくい住民が数多く暮らすベッドタウンだと言える。宮前区の昼夜間人口比率は男女合計73.4%(2015)で,日本全国の市町村の中でも

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