2018実践研究報告集NO.1722
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1.背景と目的1.1文化芸術活動を通じたコミュニティ形成ポスト工業社会における新たな都市のあり方としてC.ランドリーやR.フロリダが提唱する創造都市が注目されるなか、文化芸術の創造性を生かした都市再生が世界各地で取り組まれている。アムステルダムはそのような創造都市の一例であり、筆者等はアムステルダム市が駆け出しのクリエイターたちの文化活動に対しての所得再分配に取り組んでいることに注目し、「創作活動の場を核とした複合空間における共創と集客拠点形成 −オランダのDe Ceuvelにおける空間マネジメントの実態調査‐」において、造船所跡地にクリエイターたちの手によって開発された小さな都市空間のマネジメントについて調査・研究を行った文1)。この先行研究では、立地・空間計画についての実態調査、持続可能な開発に向けた取組みや運営方法の調査、クリエイターへのインタビュー調査、来訪者へのアンケート調査を実施し、(1)持続可能な都市のあり方を提示することにより共感する人々のコミュニティが形成され、結果的に地域の住環境としての魅力が向上していること、(2)様々な専門性を持つクリエイターたちが協会を組織し運営に携わることにより、創作活動の場が都市住民に開かれた公共的空間になっていること、(3)高度な知識・技術の蓄積、すなわち人的資本の存在がクリエイターたちを惹きつけていることを明らかにした。我が国においても文化芸術の創造性を生かした都市再生が各地で取り組まれているが、先行研究で明らかにしているように、文化芸術活動を通じてクリエイティブコミュニティが形成された結果、地域の住環境としての魅力が向上していることは注目に値する。また、文化芸術活動をかたちに残らない多種多様なイベントとして実施するだけでなく、持続可能な都市に向けた様々な実験を実際の都市空間のなかで行い、望ましい都市開発のあり方を空間として人々に提示している点も重要である。De Ceuvelでは観念的に都市像を描くことにとどまらず、望ましい都市像を創作活動の場として実際の都市空間のなかに埋め込むことで、未来の都市や社会のあり方についての様々な可能性を議論する場をつくりだすことに成功しているといえる。1.2佐賀県有田町における文化芸術の創造性を生かした都市再生の取組み産業構造の変化による製造業の衰退は伝統的産業都市の有田においても深刻であり、更には製造業にかかわる人口の減少も受けて、有田では多くの空き工場や空き家を抱えている。重要伝統的建造物群保存地区に指定されている内山地区においても空き家が多数存在している状況にある。このような困難な状況を乗り越えるべく、2016年の有田焼創業400周年にあわせて文化芸術の創造性を生かしたさまざまな取組みがなされた。そのなかで特に注目されるのが、16組のクリエイターと16組の有田焼事業者とが協働して新しいタイプの有田焼の商品開発を進める2016 /projectなど、佐賀県とオランダが推進するクリエイティブ連携・交流である。商品開発と並行して両国・地域間の人的交流や教育・学術・研究機関相互の交流が行われているが、これまでの取組みは行政主導の側面が大きく、現段階では民間主体の自立的な活動になっていない。また、地域住民が自由に参加できるオープンな場になっていないことも課題である。有田は伝統的産業都市として有名であるが、17,18世紀にはオランダ東インド会社との取引により富を蓄え、幕末にはドイツ人のG.ワグネルから石炭窯やコバルトの技術を取り入れるなど、それぞれの時代の国際関係のなかで変容を受け入れて有田焼を発展させてきた歴史がある。有田がものづくりのまちとして持続的に発展していくためには、現代のグローバル社会における変容を受け入れてイノベーションを起こしながら「未来の有田」を築いていくことが重要であり、新たなクリエイティブ産業の発展が住環境の質を引き上げると考えられる。また、有田のポテンシャルとして国内外のクリエイティブな人々を引きつける魅力として手仕事も含めた高度な生産技術が挙げられ、近年は国内外からの観光客が増えているほか、有田町の取組みにより移住者も増えつつある。ここ数年でゲストハウス、シェアハウス、カフェなどが増えるなど、「ものづくり」が「ことづくり」と結びつくことにより国際色豊かなまちになりつつある。アムステルダム市の文化芸術活動を通じたコミュニティ形成活動

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