2018実践研究報告集NO.1722
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図6-1町長等が参加した内覧会(© Lok Jansen)6.「未来の有田」シナリオアートの公開6.1内覧会2018年8月18日(土)の午前に有田町長など地元の有力者、取材に協力してもらった窯元などを招待して内覧会を開催した(図6‐1)。主催者を除く参加者は10人であった。内覧会では、プロジェクトの趣旨と概要の説明、メンバーの紹介、アート制作のプロセス説明をしたあとで、まずは解説なしでアート作品を鑑賞してもらった。2回目の鑑賞のときに主査の田口がアート作品が表現している未来の有田のシナリオのひとつの解釈、またシナリオを表現している有田固有の要素が織りなす暗喩的な意味について解説した。また同席したアーティストには、自らの作品が都市の現状や歴史の分析に基づいて制作されていることなどを解説してもらった。解説なしの1回目の鑑賞では、作品のなかに使用されている有田固有の風景や陶磁器などの要素が散りばめられているので、有田をよく知る参加者たちは、退屈することなく未来の有田を思い想いに想像して鑑賞している様子であった。解説付きの2回目の鑑賞においても、参加者たちは解説に熱心に耳を傾けて作品鑑賞している様子であった。鑑賞後、地元窯元の参加者は、「アートの新しい使い方を見せてもらった」、「幽体離脱して普段とは違う視点から自らが陶作している様子を見ているようだった」といった感想を話していた。6.2展覧会とオープニングパーティ内覧会のあと2日間に渡って展覧会を開催し、アート作品の公開を行った。来場者44人のうち、ほとんどが主催者の知人・友人が来場者であり、近隣住民など一般の人々は少数であった注2)。有田町民のほかに東洋大学や佐賀大学の学生など有田町外からの来場者が半数くらいであった。来場者の求めに応じてアーティストもしくは主催者がアート作品の解説を行い、アートを鑑賞してもらった(図6‐2)。1日目の夜にはオープニングパーティをアートスペースの隣の座敷で開催した(図6‐3)。プロジェクトを通じて知り合った地元のカメラマンに記録映像の制作を依頼し、アートスペースの作品展示の記録映像のほか、展覧会とオープニングパーティの様子の記録映像を制作してもらった(図6‐4)。記録映像文3)はYouTubeで公開し、プロジェクトの情報発信を行うことを試みている。アート制作から派生して地元のクリエイターの発掘につながったことはひとつの成果である。7.活動を通じて得られた成果および今後の課題7.1アート作品鑑賞者へのアンケート調査アート作品鑑賞者に対してアンケート調査を実施した。属性は、男女比が概ね半々、幅広い年代が来場した。主催者の関係者の20代・40代・60代が多かった一方で、50代が少なかった。居住地は有田町が過半数を占め、佐賀県内と佐賀県外が同数であった注3)。・アンケートの質問と回答「2つのアート作品を鑑賞して、未来の有田に対するイメージが膨らみましたか」という質問に対しては、約8割が「とても膨らんだ」あるいは「やや膨らんだ」と回答した(34/41,図7‐3)。「2つのアート作品を鑑賞して、未来の有田について誰かと議論してみたくなりましたか」という質問に対しては、約8割が「はい」と回答した(33/41,図7‐4)。自由回答記述方式により、「未来の有田がどのようになっていくとよいと思いましたか、未来の有田をどのようにしていきたいと思いましたか」という質問には、当事者の立場から新しい有田の姿を思い描く回答が複数あった。佐賀県内在住者からは、「現代アートと伝統的な町並みを切り離さずアピールできるとよい」など、地域の資源を生かした新しい取り組みに注目する回答が複数あった。佐賀県外在住者からは、地域住民の誇りや<研究委員>・中川大起㈱リライト・取締役・クリンカスクンfrontofficeTokyo・取締役・柄沢祐輔柄沢祐輔建築設計事務所・代表・後藤隆太郎佐賀大学・准教授*当実践研究報告普及版は『住総研研究論文集・実践研究報告集』No.45の抜粋版です。参考文献は報告集本書をご覧ください。図6-2展覧会における兆民とアーティストの交流関心を醸成する必要性について指摘する回答が複数あった。感想・意見として、アートを媒介に都市の見え方が変容し、結果として、人々は都市の新しい可能性を思い思いに想像している様子が窺えた。また、初めて有田を訪れた佐賀県外在住の20代の被験者の感想からは、アート作品鑑賞やプロジェクト関係者との交流を通じて有田への関心が高まっていることが読み取れる。そのほか、取組みの情報発信の必要性や、若者とつながることの重要性を指摘する意見が挙げられた。7.2公設民営による江越邸活用に向けた新たな動き江越邸は、将来的に有田町が移住促進のための宿泊研修施設として整備・活用していくことを検討している。有田町が所有者と長期の定期借家契約を結んだ上で改修工事を施し、地域おこし協力隊出身者が立ち上げたNPO法人が運営を行っていく計画だ。このような活用に向けた新たな動きが活動を通じて現れたことはひとつの成果である。有田には窯業に限らず様々な技術・技能を有する人材が多数存在しており、活動を通じて様々な分野の20代から40代の人材を発掘している。今後、江越邸を移住促進のための宿泊研修施設として活用していく際には、このような若い人材と連携を図りながら、空き家活用を構築することが重要である。また、有田の若い人材を刺激しつつ、未来の有田の担い手となる移住者を発掘し、クリエイティブコミュニティを形成していくためには、今後も国際的な文化芸術活動を継続していく必要がある。設置主体の有田町、運営主体のNPO法人などとの協議を通じて、江越邸活用の方策を今後も探っていきたい。8.まとめ未来の有田のシナリオについて議論し、それを表現するアートを制作・展示するという活動を通じて、技術・技能を有する若い人材を発掘し、公設民営による江越邸活用の方針が得られたことは大きな成果である。また、本活動を通じて制作したアート作品が未来の有田についての人々の議論を誘発していることからわかるように、江越邸を拠点に未来の都市や社会のあり方についての様々な可能性を議論する場が形成されつつある。実際の都市空間のなかに想像上の都市空間をアートとして挿入したことにより、人々の現実の見え方を変化させ、未来の都市の様々な可能性について想起させることに成功したといえるだろう。・三木悦子佐賀大学・講師・清水耕一郎アルセッド建築研究所・取締役・田中妙子田中博昭建築設計室

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