2018実践研究報告集NO.1721
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の関係者等へのヒアリングに際して調査活動の連絡等がしにくい面があった。今後の団地再生の検討を行うにあたり、居住者団体や商店会の関与は必須で、より気軽に団地居住者と外部の研究者が連携や意見交換できる仕組みや場の設定が必要と思われる。3.5. 社会モデルとしての団地①団地における高齢化の進展今回調査した両団地の人口動態によると、団地における高齢化の急速な進展の様子が確認できる。郊外部のUR賃貸住宅は、建設当初は都市に流入した若年層の住宅と想定され、世帯形成と共に小中学校も多数建設された。しかし現在では高齢居住者が増えている。長期間継続居住中の高齢者にくわえ、民間賃貸住宅市場で住宅が見つからない高齢者の受け皿ともなり、そうした新規高齢居住者を加えて、団地の高齢化は一般の市街地部よりも速いスピードで進行している。社会全体に先駆けて団地での高齢化が進行するなか、高齢者を対象とした生活支援サービスが必要とされている。商店街の衰退も進んでおりそれらの空き施設を活用して生活サービスの提供やコミュニティカフェなどの居場所づくりの試みが両団地で行われている。計画的住宅地として新たな対応が必要となり、そうした新たな取り組みが一般地域での取り組みのモデルとなることも多い。②地域医療福祉拠点としての団地URは、既存の団地内での高齢化対応のサービスだけでなく、団地が所在する地域全体のサービス拠点になるように計画していくこととし、全国で150団地を地域拠点団地として指定している(平成26年)。花見川、高津両団地はともに拠点団地として指定されており、行政との協力のもと地域医療福祉拠点としてのサービスの充実が図られようとしている。この対策では、「ミクストコミュニティ」の実現を目指すとして、高齢化対策にくわえ子育て支援、外国人居住への対応などが計画されている。両団地内には保育所や学童クラブなど子育て施設も運営されているが、今後も続くと予想される少子化の流れの中で、より充実した子育てサービスが求められている。団地の持つ豊かな自然環境や歩車分離の安全な屋外はもともと子育て環境に適している。さらにサービスの充実や子育て環境の整備、外国人居住者との対話の場や機会の創出など、社会全体の課題であるミクストコミュニティの実現の課題に対して団地がまずモデルとなり解決策を提示していくことが可能と思われる。4. 団地力の発掘(具体の方策の案)今回の調査・研究を経て、「団地力」と名付けた団地に存在する各種の「力」を活用して、団地再生を進めるための具体の方策の案を検討した。4.1. 団地ヘリテージ(団地遺産)①文化財としての団地昭和の風景や空間が変化し記憶が薄らいでいく今日、昭和30、40年代の団地空間を急速に西洋化していった当時の日本の生活文化の象徴的な一風景としてとらえ、文化遺産として位置づけ保存していこうとする動きは、先に述べたように建築学会においても生まれている。図4‐1学生による団地風景を尊重した提案②居住者を元気づける団地の文化財登録建築後50年を経ると有形文化財として登録の申請が可能となっている。赤羽台団地にくわえ、多くの地域に存在するすぐれた空間を有する団地も、地域の文化の象徴として有形文化財に値すると思われる。また自分の住んでいる団地が文化財登録されることは、居住者の自分の団地に対する誇りや愛着を増やすことにつながると思われ、団地のコミュニティ活動にも好影響が生ずると思われる。UR住宅団地においてもすでにURみずからが選定した100選(団地100、2007年3月)や書籍「いえ団地まち(住まいの図書館出版局、2014年2月)」の中で紹介された55団地など各地域、各時代にまたがりすぐれた団地が存在している。個々の団地の特色を建築、都市デザイン的造形、自然環境形成の視点や生活文化形成の視点でとらえ、その空間的価値を今日的に評価し、優れた団地について有形文化財登録を行なう検討が必要と思われる。4.2. 団地ガーデン(団地庭園)①都市緑地としての団地屋外40年代団地の屋外のクオリティは総体的に高いものがあり、今回調査した両団地のように都市公園に匹敵するほどの緑環境がある団地もある。日本住宅公団が発足した昭和30年代、団地づくりという新たな業務に向けて初代設計課には日本初の「団地係」と「造園係」が設置されたという。住宅を建造物としてのみとらえるのではなく屋外環境を生活空間の一部ととらえ、造園という分野を住宅設計の組織の中に位置付けたこと、また高木の植栽基準を公団内部で持っていたことなどが今日の緑豊かな住宅団地の基礎を築いたといえる。居住空間の一部として、また地域に開かれた都市緑地として、使う庭、見る庭、さらに生態系ネットワーク形成など、住宅団地の屋外は生活を豊かにする重要な空間となっている。②団地ガーデン、団地庭園こうした高品質な団地の屋外に「少し手を入れる」ことで団地の屋外を「ガーデン(庭園)」のレベルまで引き上げることはさほど困難なことではないと思われる。・既存の団地歩行者路を回遊路として整備。・樹種特定、樹名札の設置、グリーンミュージアムネットワークの形成。・団地伐採材等を活用するなど回遊路グリーンネットワーク拠点の整備・商店街街区での回遊路ネットワーク拠点の新設、新たな庭

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