2018実践研究報告集NO.1721
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2017年8月29日に行なわれた第2回高津団地+花見川団地現地調査の中で保存すべき団地として挙げられた赤羽台団地はわれわれ3名にとっても因縁のある団地である。渡辺+木下は住棟設計者として、赤羽台団地の建替えであるヌーヴェル赤羽台A街区の設計に関与したことがある。B,C街区の設計に際して渡辺はデザイン調整会議のディレクターを務めた。井関はUR 都市再生機構東京支社設計部長として街区設計の担当責任者だった。木下は、次のD,E街区の設計に際してデザイン調整会議のディレクターを務めている。そういった経緯から、赤羽台団地はすでにほとんどの住棟が建替えられ、あるいはすでに建替えの対象となっていることがわかっていた。スターハウスを含む何棟かはまだ保存の可能性があるようだったので、UR 関係者に打診したところ、まさにそれらの建物の処遇がデリケートな状況にあることが判明した。日本建築学会からの保存活用要望書が出ることで、保存の方向に大きく移行できる可能性があることがわかったので、学会の建築歴史意匠委員会と協働で保存活用要望書と見解書を準備することとなった。委員会でも団地建物の保存要望は初めてであり、複数建物を同時に保存要望する事例も初めてということで、さまざまな議論があったようだが、最終的には上記4棟の保存活用に関する要望書の提出が実現した。これは前項で述べたように、団地を建築遺産として認知し、団地の社会的な価値を共有するためには大きな一歩となったのではないだろうか。今後、団地建物を登録文化財にするという可能性も聞いているが、そうなれば「団地ヘリテージ」はいっそう現実のものになるだろう。3.2. 自然遺産としての団地①団地の自然環境の持つ意義花見川、高津両団地など昭和40年代の郊外団地の屋外の特徴としては、成熟した圧倒的な緑の環境がある。高低差のある地形での開発に際して、大型の重機が未発達な時代で大規模な造成が行われず、両団地とも傾斜地は建物の建設用地とせず、現況の緑地が残されたと思われる。既存林は植生的には地域の植生を引き継ぐこととなり、クヌギやコナラといった植生が大木に育っている。団地建設時に植えられたと思われるケヤキや針葉樹も大木に育ち、梅や松などの造園種も広場や歩行者路沿いに植えられ、50年の年月の中で根付き団地内の季節ごとの景観を形づくっている。また花木や潅木、地被類も配置され、植物園のような多様な樹種構成が形成されている。団地の視察を繰り返すうちに、緑の役割は単に緑化にとどまらず、団地内の景観形成の重要な役割を果たしていることに気が付く。落葉樹、常緑樹の使い分けによるオープンスペースの日かげ、日なたの演出、針葉樹や広葉樹の樹形の特徴をとらえた緑のランドスケープ。また高木植栽が中間的なスケールとして景観上機能し、建築物のマッシブで直線的な形態や高層住棟のスケール感をやわらげる役割を果たしていた。②地域生態系の一部としての団地の緑両団地の立地する地域には自衛隊習志野駐屯場、高津小鳥の森、花見川花島公園などの自然生態系の拠点となるまとまった緑地が存在し、また団地内や周辺には河川もあり、両団地は地域の生態系のネットワークの一部となりうる環境を有している。団地内の緑環境は、これらの周辺の自然生態系を連続させる役割を持っており、また団地内においても多様な植生は多種の昆虫や鳥を呼びこみ、自らも小さな自然生態系を形作っている。居住者が価値を見出す自然環境は大いに取り入れ、居住者のアメニティを増やす取り組みにつなげる必要があるが、人間の居住に害が生ずる自然環境は拒否しなければならない。今回のヒアリングで、花見川団地においてある居住者から団で多種の蝶々がみられて楽しいといったコメントがあった。ジャコウアゲハ、ナガサキアゲハ、アカボシゴマダラ、これらはいずれもめずらしい蝶で、ナガサキアゲハは南の地方に生息しアカボシゴマダラは外来種の蝶とのこと。居住者の観察力の深さと多様な生態系が暮らしの満足度につながっている状況に驚かされた。3.3. 豊かな外部空間を持つ団地①広場、オープンスペースの意義花見川、高津両団地の周辺は開発当初は田畑等であったが、現在では戸建て住宅を中心とした一般市街地が形成されている。団地の屋外空間は、住棟住戸と周辺の街とをつなぐ団地特有の空間で、とりわけ郊外部の団地では、団地と一般市街地は全く別の空間形成がなされている。屋外空間には必要な機能を持った空間とそれらをつなぎ緩やかに包む空間がある。機能空間としては幼児の遊び場、コミュニティの拠点となる広場、運動広場などがある。また住棟まわりの緩衝空間は設計当時マント空間と呼ばれ潅木や芝生等で緩やかにマントのように取り囲まれ、住まいのプライバシーの保護や自転車置き場、駐車場などの施設の修景緑地となっている。花見川、高津両団地とも大規模団地で、運動公園、広場から幼児の遊び場まで一連の外部空間はとりそろえられている。広場の形態は円形のもの、すり鉢状に高低差を取り込んだものなど位置や地形、規模に応じてデザインされている。空間的、景観的にも楽しいものになっており、団地屋外は地域に開かれたオープンスペースとなっている。写真3‐2学生によるスケッチ3.4. 住民とコンタクトがとりにくい団地①そとから入りづらい団地団地は外部から見ると閉鎖的で入りにくいという印象がある。開発当初は周辺が田畑や山で開発されていなかったことからか、団地の内向きに作られた商店街の配置、来客用駐車場の不足などが見られる。ソフト面においても今回調査においては団地居住者や商店会
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