2018実践研究報告集NO.1721
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当日は途中通り雨に降られながらも概ね快い天候に恵まれ、多くの人に展示を見てもらい、ヒアリングもでき、団地住民の生の声や、団地外に住む人の団地に対する考えなど貴重な意見をいただくことができた。そして前回同様、それらのヒアリングで得られたことを「団地(を巡る)ナラティブ」としてまとめた。この団地はエレベータを実験的に南側に設置しバルコニー入りとした住棟があるが、それに対しては「エレベータが羨ましい」「エレベータができてバルコニーの日差しが減った」「ベランダ側につけなければならず物騒だ」など賛否両論の意見が出た。他の意見としては「もう少し活性化できれば」「団地がにぎやかになってほしい」「小学生が遊べる公民館のようなものがあったらよい」「昔は遊具がいっぱいあり、子どもたちの遊べる場所があった」などかつての賑わいを懐かしむコメントが目立った。2.6. 団地内モビリティについて大澤副理事長へのインタビュー:2018年8月1日:高齢者のモビリティについて団地力研究会で議論しており、ゴルフカートを団地内に走らせたらどうだろうかという話が出た。調べてみると、団地タクシーというものがあることを知り、花見川団地でも2013年に無料「送迎用自転車」がスタートしたという記事も見つかった。すると学生のひとりが、花見川団地100円商店街のイベントの際に商店街の片すみに送迎用自転車が置かれていたという。ということは商店街が送迎用自転車に関係してそうだということで、商店街の副理事長である大澤さんのお話しを伺うこととなった。大澤さんの話から、ことの起こりは配達サービスだったと聞く。外の大型店舗に行きがちな住人たちに商店街に来てもらう目的で配達サービスの話が持ち上がったが、結局10年位準備にかかってようやく送迎用自転車というかたちで実現した。ほぼボランティアのドライバー5人で週4日のサービスを商店街の組合費で運用している。商店街の費用という点で、商店街で買い物をする目的の利用に限定されており、病院や知人の家に行きたいなどといった要望には対応しかねている。今年の5月からは送迎用自転車に加えて会員制の「御用聞き配達サービス」も始めたそうだ。このサービスは前例もなく配達するシステムをつくるのに1年を要したという。こちらは有料で1回100円となっている。有料となった背景にはサービス業の商店の組合費を、物を売るお店にしかメリットのない御用聞き配達サービスに使用するのは不公平という理由からだそうだ。ただ、このサービスが生まれた背景には、団地に増え続ける独居老人への見守りということも一方であったそうで、この話には大いに納得させられた。図2‐6大澤副理事長へのインタビュー3. 研究を通して得られた知見3.1. 建築遺産としての団地①建築後半世紀を経た団地戦後日本の都市は経済成長が進行する中、大きく土地利用が高度化し建築物もスクラップアンドビルドの時代を経験してきた。集合住宅の分野においても初期の同潤会住宅はすでに現存するものはなく、また戦後の集合住宅を見ても初期のRC造集合住宅は多くが解体され、公団住宅においても昭和30年代建設の多くの団地が建替えられている。今回研究の対象となった花見川団地は1968年(昭和43年)、高津団地は1972年(昭和47年)竣工し概ね50年の年月が経過している。戦後日本の重要な社会的課題であった「住宅難」に対処する目的で大量に建設された住宅団地は、量的供給の役割に加えてそれまでの日本にない生活様式を提案し普及させるという質的な役割も担い実践してきた。新しい生活様式の主要なものとしては敷地レベルで「住宅団地」、そして住戸のレベルでは「ダイニングキッチン」に代表される食寝分離の住まい方や住宅部品開発などがあげられる。間取りや内装、部品は住戸単位での保存により当時の空間を再現することができるが、団地の再現は、配置図の保存だけではなかなか難かしい。②団地の持つ文化的価値屋外の空間で印象深かったことは、現況の地形に配慮しつつ新しい住宅地を提案しようとした配置設計である。また時の流れによって生み出された屋外空間の成熟、歴代の居住者の活動によって築かれた生活の息づかいであった。団地に宿るこれらの蓄積は、高度経済成長からバブル経済を経て高齢化社会の到来など、昭和から平成にかけての日本の生活文化の一断面として感じられ、建築遺産、空間遺産として団地の文化的な価値を感じた。③「団地ヘリテージ」の展開2018年7月25日付けで日本建築学会から「UR 都市機構赤羽台団地の既存住棟(41、42、43、44号棟)の保存活用に関する要望書」が提出された。(https://www.aij.or.jp/scripts/request/document/20180725.pdf)この事実は本研究の大きな成果であったといえよう。写真3‐1赤羽台団地既存住棟42号棟(右)と43号棟(左奥)
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